3話 ギャップ萌え?
「じゃあお前ら、出席番号順に並んで移動だ。ま、大丈夫だとは思うが真面目に式に挑めよ?」
嶋田先生がそう注意する。基本的に校則は中等部と比べてかなり緩めと聞いているが、式典に至っては別らしい。逆に言えばそれさえ真面目に挑んで、成績さえ安定させれば良いということだ。
「そういや唯は新入生挨拶だっけか」
「まあね。一応この日のために色々考えてきたのだよ。楽しみにしてくれたまえ」
ふふーんと自信満々の笑みで言う。その態度に多くの男子がダメージを受けた。……いや、よく見りゃ女子も数人ダメージ受けてんな。何だこの状況。
改めて唯の人気を理解する。そんな唯に感心していると、ちょんちょんっと肩を叩かれる。
「ん?どうした涼風」
「正直に答えて欲しいのだけれど……」
妙に真剣か面持ちで涼風が言う。あまりにも真剣であったため、ごくりと唾を飲む。
「皐月からして百合はアリかしら?カップリングは私と唯で!」
「いや、そんなん無しに……いや?結構アリかもしれない……」
少しだけ涼風と唯の百合を想像する。…あれ?普通に理想的じゃないか?
そういや涼風は百合厨だったな。まぁそれは良いんだけど、自分自身が百合展開切り開こうとするからタチが悪い。
「ちょっと良いと思ったけど駄目だな。唯にはもっと面倒みが良くて、最低でも年収1000万はないと」
「君は私の親にでもなったつもりかい!?」
まぁさすがに冗談だ。俺が唯の将来にあれこれ言うことは出来ないし。
そんな感じで喋ってると列が動き出す。しかし進む列は「ネンシュウイッセンマン……ネンシュウイッセンマン……」という謎の呪文を唱えながら進んでいった。
☆☆☆
入学式と言うのは高校生活で1度しかない大切な行事だ。だがそれでもやはり面倒という気持ちはある。それは俺だって例外じゃない。
理事長と校長の長い話は耳には入るものの、内容はほとんど覚えてない。欠伸をしたくなるが堪える。校歌を歌い、上級生からの歓迎の挨拶も済んだ。
「続いて新入生挨拶。新入生代表、天音唯さん」
名前が呼ばれて壇上へ向かう唯。先程までの和んだ雰囲気はどこへ行ったのかと問いたくなる。そんなぐらいにキリッとして……なんと言うか格好良かった。
「若い草の芽も伸び、桜の花も咲き始める春爛漫の今日、私達は白凰学園高等部の入学式を迎えることになりました━━━━」
その声はとても透き通っていて、聴く者全てをを魅了していた。先程まで眠そうにしていた1年、そして上級生も。この場にいる全ての人の目線は、唯しか捉えていなかった。
☆☆☆
「はー……とても緊張したよ。壇上に立つのは初めてだったし……」
HRも終え生徒が帰り始める中、先程までの凛々しさはどこに行ったのかと言わんばかりにだらけた唯がいた。
「お疲れ様。麦茶飲むか?」
「いただくよ」
ペットボトルを差し出す。躊躇というものを知らないのか。残っていた麦茶を全て飲み干してしまった。
またぐでーっと机に突っ伏す。銀色の髪、一本一本がサラサラと揺れていた。
「天音さん。その麦茶、皐月君の飲みかけだったけど良かったの?」
「……?逆に飲んではいけないのかい?」
首を傾げる唯。まぁ唯がこういう奴だって知らないと当然の反応だ。
「私と葵は今更間接キスなんて気にしないさ。長年一緒にいるしね。佐伯君と瑠璃ちゃんだって仲が良いだろう?それと同じさ」
どうやら唯は篠崎さんが気に入ったらしく呼び方が変わっていた。
「それに私は誰とでもこんな事するわけじゃないよ。気に入った人だけ。例えば……真尋、ちょっとこっちに」
ちょいちょいっと手招きする仕草をする。どうしたの?と言いながら涼風が唯に近付くと…
「ん……ちゅ」
いきなり唯が涼風の唇に自分の唇を重ね始めた。
思考停止。唯以外のこの場にいる者が今目の前で何が起こっているかが上手く分からないままでいた。
「ん!?!?ゆ、唯!ん……ちゅぅ」
満足したのだろう。唯が唇を離す。ペロリと唇を舐め…
「ま、私は仲良い人にはこれくらいするよ。私の中ではちゅーまではスキンシップさ」
などと自信満々に言う唯を横目に涼風を見る。まだ呼吸が整わないらしく、大きく息を吐きながら呼吸を整えていた。
この現場を見て篠崎さんが軽く恐怖心を覚えたのは言うまでもあるまい…。
☆☆☆
「唯、そんなキスどこで覚えたのよ……」
「ま、まぁ……その……ね?私が愛読している百合本を……」
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