2話 新学期は平和に②

昇降口にはクラス分けを確認するために多くの生徒が集まっていた。一学年480人で12クラスに別れている。よくここまで集まるなとも思うが、それほどの人気校なのだろう。

1クラス40人は一般的かもしれないが、如何せんクラスが多いのだ。色々苦労しそうである。

確認……したいが、昇降口にはまだまだ多くの生徒が居て確認することが出来ない。だがよく見るとほとんどの生徒が、自分のクラスを確認した後に必死こいて1人の生徒の名前を探していた。当然1人しか居ないだろう。


「すごい人気だこと」


「私と同じクラスになって何が嬉しいのかねぇ……」


唯は自分の人気には気付いている。だから今、生徒が誰の名前を探しているか。それが自分であることも気付いている。


「ふぅ……入学式まではまだまだ時間があるけど……ここでずっと待つのも暇だ。外部入学者の話でもするかい?」


「外部入学者って言っても24人だろ?今年はいつにも増して少ないな……」


「定員は50人なんだけどね。けど合格点に達しない場合は容赦なく切るらしいよ」


へぇ……そうなのか。高等部に見学に行く機会はあったが、毎年外部入学者の数は聞かせてもらっていた。ほぼ毎年40人前後なので今年もそんなもんだと思っていたが毎年定員割れしてたんだな。

と、色々話してる内に空いてきた。ちらりと周りを一瞥すると、手を合わせ感謝のポーズを取る者や、地面を蹴ったりする者がいた。

まぁどんまいとしか言いようがない。

そんな連中はほっといて自分の名前を探す。俺としても唯が居ると楽なので(代償は大きいが)唯の名前も自然と探していた。とりあえず自分の名前を発見する。


「3組だな。唯は?」


「ふふっ奇遇だね。私も3組さ。1年間よろしく頼むよ」


「あぁ、よろしく」


どうやら同じクラスらしい。自然と笑みが零れる。他に知人は居ないかと探していると、唯がまた名前を見つける。


「葵、真尋も同じクラスだ。賑やかなクラスになりそうだね」


「涼風も?てか、あいつ結局ここに進学したのか」


涼風真尋すずかぜまひろとは俺と唯の中等部からの仲である女子生徒だ。その容姿は唯に負けず劣らず。艶々とした長く、黒い髪を下げ、顔も整っている。なぜ自分の周りには美少女が集まるのか訳が分からない。


「……ま、とりあえず教室に向かうか。唯、行くぞ」


「あぁ。今行くよ」


☆☆☆


教室に辿り着くと一瞬静まり返り視線が向く。まぁ俺を見ているわけじゃないが。

クラスメイトには唯しか映っていないだろう。それだけ唯は目立つ存在だ。

入室すると「皐月め……!」という視線を向ける者もいるが無視。黒板に張り出されている座席表を確認する。


「お、窓側端っこか。中々いい席だな」


「お、私も結構近い席だよ。とりあえず席替えまではご近所さんだね」


ニコッとした笑顔を向けられる。その笑顔に思わず心臓が跳ねるが平静を装う。危ない危ない…危うく好きになるところだった。

入学初日に公開告白なんてやった暁には自分の人生が終わりかねない。ふぅ……と大きく息を吐いて心を落ち着かせる。

すると目の前の席に黒髪ロングのよく知った女子生徒が座っていることに気付いた。


「よぉ涼風。今年も同じクラスか」


「……て、皐月じゃない。え?同じクラスなの?」


「嫌か?」


「そんなわけないじゃない。嬉しいわよ」


ふふっと笑いながら涼風は言う。まぁ同じクラスなのは知っていたが。

実は涼風は外部へ進学しようとしていた。理由としてはこの学園に居るよりかは大学の選択肢が増えるからだとか。

まぁ確かにこの学園にいる奴はほぼほぼここの大学部に進学するし、他の大学を目指すなら高校は違う方がいいだろう。


「……結局ここに進学したんだな」


「最後まで悩んだけどね。でも色々考えて、ここに居た方が面白いことがあると思ったのよ。……まさか最初から起こるとは思ってなかったけど」


「面白いこと?」


「そ、私達3人が同じクラスなんて面白いことだと思わない?ほぼ毎年誰か一人は違うクラスなのに」


あぁ確かに。中等部2年〜3年と俺が違うクラスになってたな。ちなみに1年は全員同じクラスだった。

そう考えると確かに面白いことだ。同時に嬉しさが込み上げてくる。

元々人と絡むのが苦手であるが故、友達が多いというわけじゃない。無論クラスの人とはそこそこ喋ることは出来るし、班組などで困ったことは無い。

が、明確に友達と言えるのは唯と涼風だけ。傍から見りゃ羨ましいものかもしれないが、やはり男子の友達が居てくれた方が良いのだ。


「けど皐月も男子の誰かと絡んだ方がいいと思うわよ?なんなら外部入学の人と話してみたら?ほらあそこに座ってる人」


一貫校であるが故に既にグループなどが作られているが、その中で1人。提出書類のチェックをしている者が居た。見たことないし確実にあの人だろう。


「大丈夫?いきなり話して気味悪がられたりしない?」


「大丈夫よ。むしろ話しかけてもらいたいと思ってると思うわ。最初は不安だもの」


「そういうもんか?」


「あなたは最初から唯がいたけれど、最初は誰だって友達が出来るか不安よ。良いから話しかけてきなさい」


背中を押されて危うく転びそうになる。すっと息を整えてその生徒へと足を進めた。


「あの……もしかして外部入学の?」


「え?あ、僕ですか?あ、はいそうですけど……」


お互い緊張しているせいか、会話が上手く運ばない。横目でちらりと涼風を見ると、その様子を見て唯と一緒に笑っていた。あいつまさかこれが狙いだったりしない?

とは言え会話を続けないと仲良くなれるものもなれないので何とかして話を繋ぐ。


「どう思った?この学園は」


「一度学校説明会で来たんだけど、いざ入学してみると予想以上だったかもしれない」


「あぁ……まぁ確かに。俺も高等部の校舎にはあんまり来たことなかったからなぁ……」


文化祭やら奉仕活動やらで来ただけだ。そもそも来る理由がそれしかないし。


「あ、でもここの食堂は結構美味かったよ。今度一緒に行く?」


「良いの?僕と一緒で」


全然構わないと言うと、緊張しきっていた顔が少し緩む。……不安だったんだろうなぁ。


「ま、これからよろしく。名前は?」


佐伯玲さえきれい。よろしくね。君こそ名前は?」


「皐月葵。よろしく、佐伯君」


☆☆☆


「お前らめっちゃ笑ってたな……」


「だってあそこまで会話が下手だとは思ってなかったから……。けど良かったじゃないか。友達が出来て」


「まだ約束取り付けただけだけどな。まぁこれから仲良くなれたらいいよ」


それに関しては向こうも同じ気持ちであるだろうし、話しかけられるのは安心することだ。ちらりと佐伯君の方を見るとほっと胸を撫で下ろしていた。


☆☆☆


……さて、入学式の前にHRがあると聞いていた。開始時間は8:30。だが今の時刻は8:35だ。先程までは非常に騒がしかったクラスメイトも静まり返っている。そりゃ、HRを進行させる教師が遅刻すればそうなるだろう。

そんなクラス全体が少々異様な空気になっている中、その空気を引き裂くように勢いよく扉が開く。


「5分遅刻した。すまないな。じゃあHRを始めようか」


そこにやって来たのは藍色のショートヘアーの若い女性だ。つまりこの人が俺たちの担任ということになる。

新学期早々不安にはなるが、それを口には出さない。もしかしたら普段はちゃんとしている人かもしれないしな。


「じゃ、きりーつ、れーい」


適当な挨拶を済ませ席につく。チョークを手に取り、入学おめでとう!と書かれた紙を避けて、名前を書く。


「まずはお前達、入学おめでとう。そしてようこそ、白凰学園高等部へ。私は担任の嶋田美鈴しまだみすずだ。よろしく頼む」


嶋田先生がそう言うと、プリントを手に取り配り始めた。そこには「テストの日程」と書かれている。…なんと今日入学だと言うのに明日にはもうテストがあるらしい。


「お前達が春休みに解いた問題冊子があったろ。大体の問題の傾向は一緒だから真面目に解いた奴は間違いなく高得点を取れる。そんなに難易度も高くないしな。あ、同じ傾向なだけで同じ問題は一切ないからな?分かってるとは思うが」


思わず冷や汗をかく。そういや全部答え見て終わらせたんだっけ……。よく問題は見ていないが、中学時代の問題が多かった気がする。そういう点で見るとまだ助かっているのかもしれない。


「まぁ私からはそれだけ。入学式は9:00からだからな。それまでは自由にしてて良いぞ」


と言って椅子に座ってしまった。どうやら後は自分達でやれということ。適当だなぁ……。

ま、自由にしていて良いと言うので唯の元へ行く。すると周りも自由に動き始めた。

唯と話すということになると自然に涼風も加わる。結局いつものメンバーになる。別に良いんだけど。

すると近くに気配を感じた。振り向くと佐伯君ともう1人、女子生徒が立っていた。


「お、佐伯君……そちらの方は?」


「あ、僕と同じ中学出身の子。名前は篠崎瑠璃しのざきるり


佐伯君が言うと篠崎さんがぺこりと頭を下げた。こちらも軽く会釈をする。

佐伯君曰く会話は苦手ではないが話しかけるのが苦手らしく、クラスメイトと話したいが上手くいかなかったらしい。


「へぇ……篠崎さんはどうしてこの学園に?」


「中学の担任に勧められたんです。玲はすぐに決めたんですけど私は迷ったんです。けど中学時代に仲が良かったのは玲だけだったので玲が行くなら……と」


「なになに?君達は付き合っているのかい?お熱いねぇ」


唯が会話に加わる。唯は人の恋路を見守るのが大好きな自称恋愛マスターだしな。まぁ恋愛経験は無いのでマスターではないと思うが。


「いえ、私達は交際はしてませんよ。お互い親友という距離感がしっくり来てしまってるので」


「あー僕もそんな感じ。なんか瑠璃と付き合うビジョンが見えてこない」


篠崎さんと佐伯君が言う。確かに俺も唯や涼風と付き合うビジョンが見えないのでそれに関しては同意だ。

それはそうと篠崎さんが会話は苦手ではないと言うのは本当らしい。


「葵、私はいつでもウェルカムだからね?」


唯がニヤニヤしながら言う。その言葉に周りの視線が一層険しくなった気がした。

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