第37話 鏡花の秘密(中編)

 長い沈黙が流れた。


「ありがとう……」


 鏡花はそう言った。


「聡美も喜ぶわ」


――えっ?――


 僕は思わず、自分の耳を疑った。


「でもあなたの推理は間違っている、根本的な所で」


 鏡花はポケットからスマホを取り出した。

 例の聡美のストラップの付いたスマホだ。


「あなたの言う通り、これは聡美のストラップ。私は彼女の母親からこれを渡された」


 彼女はスマホを小さく振った。

 聡美のストラップがゆらゆらと揺れる。


「私の母と聡美のお母さんは、双子の姉妹なの。つまり聡美は私の従兄弟」


 思いもよらない鏡花の告白に、僕は衝撃を受けていた。


「そしてさっきあなたが言った事は、そっくりそのまま、恭一君、あなたにも当てはまるんじゃないかしら?私とあなたを入れ替えて……」


 鏡花の言葉に、僕は全身を貫くような衝撃を受けた。

 何を、彼女は一体、何を言おうとしているのか?


「さっき、恭一君は私に『クラスの誰とも話している所を見たことがない』『他の人と話す時は、同じ内容を私と恭一君は話している』と言った。それはあなたにも言えるんじゃないかしら?」


 何を馬鹿な!僕はそう言い返そうとした。

 だがその時、僕は今までの会話の一部を思い出していた。


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[美術室での近藤先生との会話]


近藤先生:「あれ、5時間目はD組は美術じゃないだろう?」

僕: 《いや、美術室に面白い絵があるって聞いたんで。それを見てみたいと思って》

鏡花:「ここにある絵画とかって、先生が購入したものなのかしら?」

僕: 《え、そうなの?》

近藤先生:「全部が購入したものじゃないよ。寄贈を受けたものもある。ちなみにこの中で私が購入したものは無いな」

僕と鏡花:「寄贈を受けたものって?」

近藤先生:「その右の壁の一番奥にかかっている婦人画と、奥の壁の右から二番目にある風景画さ。石膏像では、窓際の右にある二体がそうだ」

鏡花:「この絵の由来とか来歴って、残ってないのかしら」

僕: 《この絵って、どうしてこの学校に寄贈されたんですか?》

近藤先生:「本当は七不思議の『笑う絵』を見に来たんだな。そうかそうか。笑うぞ、その絵は。よく見てみろ」

……

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[図書館での堀口さんとの会話]


堀口さん:「おはよう、早いわね。昨日は若月さんの所に言ったんだって。話は聞けた?」

僕: 《あ、はい》

鏡花:「ありがとうございました」

堀口さん:「それで今度は何を調べているの?」

堀口さん:「あ~『首を取る鎧兜』か。やっぱりね。上級生の中には『若月さんの家が学校の財産を持ち去った』って騒いでいる人もいたからね」

僕: 《知ってたんですか?》

鏡花:「堀口さんは見たこと無いんですか?」

堀口さん:「まぁね、私が入学した時には、もう鎧兜は貸し出された後だったしね。写真で見たのと、七不思議の話だけ聞いたくらいね」

鏡花:「この鎧兜が『首を取る』って言われる所以って何ですか?」

僕: 《何かそういう事件が実際にあったんですか?》

堀口さん:「私も話で聞いただけなんだけど、この鎧兜が旧校舎から発見された時、生徒が兜を被ってみたんだって。そうしたら数日後、その生徒がダンプに轢かれて亡くなったんだけど、首が胴体から千切れていたそうよ。その時、事故現場を見ていた近くの老婆が『首取りの鎧兜の祟りじゃ』って言ったんだって。どうやら昔から、鎧兜の話は伝わっていたみたい」

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[クラスでの竹内と三森との会話]


三森:「昨日さ、部活が終わって帰る時、変な女がいたんだよ。校門からずっと後をついて来てさ」

竹内:「三森のファンじゃないか?サッカー部ってモテるもんな。どんな子だった?」

三森:「それがよくわからないんだよ。制服はウチの中学の制服なんだけどさ。顔とかハッキリ見えなかったし」

竹内:「見たことない子か。下級生とか?」

三森:「それが昨日は俺だけ顧問に怒られてさ、帰りがかなり遅かったんだよ。下校時刻からかなり経ってから学校を出たんだ。そんな時間に他に生徒なんていないと思うんだよな」

竹内:「おいおい、気持ち悪いな。それって例の七不思議の一つじゃないのか?」

三森:「なんだよ、その七不思議って?」

竹内:「三森、オマエ知らないのか?この学校じゃ有名な話だぞ」

竹内:「俺も全部を知っている訳じゃないけど、その話は先輩に聞いたことがある。『下校放送が鳴ってから42分後に校門を出ると、後ろから見た事のない女生徒が後からついて来る』。何でもその女生徒は好きな先輩がいて、告白しようとして校門で待っていたらしい。ところがその先輩を追いかけて信号無視した時に、トラックに轢かれて死んだって話だ」

竹内:「それ以来、下校放送の後42分後に校門を出ると、その女生徒がついて来るんだって。中には死の世界に引きずり込むとも・・・」三森:「止めてくれよ、マジで、そんな話」

竹内:「そうだよな。この学校、マジで変な事が多いもんな。このクラスだって・・・」

三森:「おい、よせよ」

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……僕は、僕は、会話に参加してない?……


 そう言えば『首を取る鎧兜』のことを聞きに、若月さんの所へ行った時、若月さんは鏡花の方しか見ていなかった。

 『第四階段』や『学校裏の井戸』の時の藤田さんだって、主に話していたのは鏡花ではなかったか?


「う、ウソだ。だって僕は、堀口さんとかも話した事もあるし。他の先生達とだって……」


 鏡花は哀れむような目で僕を見た。


「それって本当に恭一君が言ったこと?私が話したことを、自分が話したと思い込んでない?」


 そんな、そんな、バカな!ありえない!

 さらに鏡花は言った。


「私が霊の姿を見えるし、霊と話せるとしたら、恭一君が幽霊でも話は通じるよね。そうは考えて見なかった?」


 動揺して何も言えないでいる僕を見て、鏡花は静かに席から立ち上がった。


「ついて来て。あなたに『最後の七不思議』を説明する」

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