第8話 音楽室の怪(中編2)
僕達はその後、隣接する図書館に行った。
昨日と同じく、司書に頼んで昭和四十四年と四十五年の新聞の縮刷版を出してもらう。
既に放課後だったが、図書館の一番奥にある閲覧席には誰もいなかった。
僕は四十四年、鏡花が四十五年を調べる。
今回は僕が先に見つけた。
「これ、かな?昭和四十四年一月十九日の記事だ。」
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―女子中学生殺害、浮浪者を逮捕。宿直の先生のお手柄―
一八日未明、千代田区和泉田町にて女子中学生・川中由紀子さん(一四歳)がリヤカーのダンボール内で死亡しているのが発見された。死因は絞殺と思われる。容疑者は無職・能井田守(四一歳)。能井田容疑者は以前からこの周辺でダンボールなどの廃品回収を行って日々の生活費を稼いだいた。
第一発見者は川中さんが通う和泉中学校の教師・米岡恒之さん。
川中さんは父親との二人暮らしであり、父親が前日の一七日午後九時に帰宅した時に川中さんがまだ帰っていない事を知り、学校に連絡した。その後、父親も一緒になって学校を捜索したが川中さんは見つからなかった。
その日に宿直当番だった米岡教員は、父親が帰った後も一人で捜索を続け、翌一八日午前一時頃、和泉中学校裏門近くにいた能井田容疑者のリヤカーに積まれたダンボールの中から、川中さんの遺体を発見した。
米岡教員は「捜索していて、能井田容疑者の様子がおかしかった。リヤカーがそばを通った時、隙間から制服らしきものが見えた」と話している。川中さんは放課後に時折一人でピアノの練習をしていたと言う。
なお能井田容疑者は犯行を否認している。
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「これかもね、他にそれらしい記事も見当たらないし」
「つまりこの事件が元になって『夜に聞こえるピアノの音』の話が出来た訳だ。話の元は『少女が毎日放課後に音楽室でピアノの練習をしていた。ある日、遅くなった時に帰りに変質者に殺された』が正しかったって事だね」
鏡花はそれには答えず、縮刷版のさらに先をめくり始めた。
ある記事で手を止める。
「この先生、この事件を早期解決した功績で表彰されているんだね。地方版だけどここに記事が出てる」
僕もその記事を覗き込む。
「本当だ。『お手柄!宿直教師。早期解決に寄与』ってなっている」
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―お手柄!宿直教師。早期解決に寄与―
先月一七日に発生した川中由紀子さん殺害事件で、第一発見者として犯人逮捕に貢献した千代田区立和泉中学校の教師・米岡恒之さん(四八歳)が、教育委員会と警視庁から表彰されました。
米岡先生は独身であったため、宿直当番を引き受ける事が多かったそうです。
受賞後の米岡先生の談「川中さんのような不幸な事件が起きないように、地域社会と生徒の安全のため、これからも頑張りたい」
記者が生徒や父兄の声を聞いた所ではあまり芳しい話は聞けなかったが、「頑張る先生」は厳しいため周囲に理解されにくいという事だろうか?
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記事には「独身」と書いてあるから若い先生を想像していたが、四八歳とは想定外だった。
この当時で四八歳まで独身というのは、大変珍しかったのではないか?
「この記事、最後に軽く貶してない?」
僕は苦笑いしながらそう言うと、鏡花は真剣な目で僕を見つめて来た。
「何か気付かない?」
「何かって、何が?」
「昨日調べた新聞記事」
僕は少し考えて「あっ」と小さく声を上げてしまった。
平成二年一月、和泉中の保険室から追い出され裏門で凍死した浮浪者。
名前は確か「ヨ××カ」と。
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