第4話 七不思議
僕は鏡花と並んで廊下を歩いていた。
時々横目で鏡花の様子を伺う。
彼女はずっと黙ったままだった。
ただ黙って僕と並んで歩いている。
だがこうやって一緒に歩いていると、聡美と一緒に下校した時の事を思い出す。
少し胸が苦しくなるような感じがした。
生徒展示室は三年生のクラスの一番奥にある。
現在の三年生はAからEまでの5クラスだが、以前は7クラスあったらしい。
よって2クラス分は通常は使われておらず、一つは「生徒展示室」と言って、生徒の自由研究の作品で選抜されたものやクラスの文集、またはクラブ活動での症状やトロフィーなどが飾られている。
一応そこは自習室も兼ねているけど、自習しているヤツは滅多にいない。
三者面談などで順番待ちの時に待機している程度だ。
聡美は中学一年の自由研究で「千代田区周辺の台地について」を調べて、特別賞を受賞していた。
その研究結果が展示されている。
僕と鏡花は生徒展示室に入ると、壁際の棚にあるファイルを取り出した。
聡美に「千代田区周辺の台地について」のファイルだ。
問題の「七不思議研究ノート」はそこに挟まれていた。
「そのままずっと、ここに置いておいたの?」
鏡花が少し疑問そうに聞く。
「うん。持ち帰ろうかとも思ったんだけど、ここに置いてあること自体に、もしかしたら意味があるのかと思って」
七不思議研究ノートを取り出し、机に座る。
鏡花は最初はパラパラとノートを最後までめくったが、二回目からは一ページ目からじっくりと読み始めた。
このノートに書かれた七不思議は、以下の順に書かれていた。
1、保健室のベッドに現れる奇怪な老人
保健室で誰もいない時に寝ていると、布団の上に老人が現れる。
2、笑う絵
美術室にある絵が、暗くなると笑って見える。
3、美術室の血を流す石膏像
美術室の石膏像は、本当の人間の首を切り取って作ったため、夜になると血の涙を流す。
4、鳴き声がする写真(滝が写った写真で賞を取っている)
職員室前に「賞を取った滝が写った写真」が飾られており、深夜〇時になると鳴き声がする。
5、首を取る鎧兜
資料館に収められた鎧兜を身に着けると、首を切られて死ぬ。
6、演じてはいけない台本
演劇部には「絶対に演じてはならない台本」がある。
7、夜に聞こえるピアノの音
夜中に誰もいない音楽室からピアノの音が聞こえる。
8、体育館の床の人型の染み
体育館の床に、どうしても消えない『人がもがいているような形の染み』がある。
9、女子トイレの一番奥
開かずのトイレに入ると恐ろしい顔をした女が上にいる。
10、女子トイレの花子さん
一番奥のトイレに夜9時に入り「花子さん」と三回唱えると、赤い服を来た少女が現れる。
11、理科室の笑う人体標本
この人体標本は本物の人骨で、深夜二時になると笑いだす。
12、理科準備室でうめき声が聞こえる
誰もいないのみ、理科準備室では時々人のうめき声が聞こえる。
13、図書館にある題名のない本
その本に載っている挿絵の少女が死を予告する。
14、第四階段(その1)
校舎の一番奥にある第四階段で「存在しない段」を踏むと地獄に落ちる。
15、第四階段(その2)
校舎の一番奥にある第四階段を深夜に通ると、下半身の無い女が追いかけて来る
16、テニスコート横にある防空壕
鉄の扉で閉ざされた防空壕の中を、今も入り込んだ電気工事員が
17、四時四二分に映る屋上の人影
受験ノイローゼで死んだ男子生徒の影が見える。
18、四時四二分の屋上にいる口裂け女
四時四二分分に屋上に一人でいると口裂け女に会う
19、焼け焦げた卒業写真
古い卒業アルバムに「普通は見えない焼け焦げた卒業写真がある」
20、学校裏の閉じた井戸
学校裏に閉じた井戸があり、そこに引き込まれる。
21、放送室で夏休みの閉じ込められた少女
誰もいない放送室で「出して、助けて」という声が聞こえる。
22、存在しない地下室
夏休み前日に一人で入ってしまい、そのまま閉じ込められて餓死した少女。
23、後をついてくる少女
下校放送が鳴ってから四二分後に校門を出ると、見た事のない少女が後を付けて来る。
24、百葉箱の中のお札
触ったり動かしたりすると祟りがある。
25、図書室から校庭を見下ろす女
かって図書館で首を吊った女生徒がいて、放課後に校庭から見るとその首を吊った少女が見える。
26、八月十三日の合宿
八月十三日の金曜日にクラブの合宿で発狂して部員を皆殺しにしようとした上で自殺した先生がいる。
27、七不思議の七つ目は知ってはならない。
七つ全部を知ると悪い事が起きる。
おそらく七不思議が記された順番は、聡美が知った順に記載されているのだろう。
ただ疑問なのは、番号とタイトルの横に小さく「〇」や「△」または「?」と記号が記されているものがある。
「〇」がつけられている話の番号は
1、2、23
「△」がつけられている話の番号は
4、5、7
「?」がつけられている話の番号は
6、12、20
になる。それぞれ三つずつだが、これらには何か意味があるのだろうか?
一通りノートを読み終わった後、鏡花が口を開いた。
「七不思議と言いつつ、ずいぶんあるのね。ここに書かれているのは全部で二七話だわ」
それについては僕も同じ事を思っていた。
だがそれには一般的な答えがある。
「七不思議なんてそんなものじゃないかな。みんなが語り継いでいく内に段々と話が増えていく。中には盛り上げるために創作した話だったあるだろうし」
「信じていないの?」
鏡花は不思議そうな顔をして僕を見た。
「いや、信じてない訳じゃないよ。それなら最初から影見さんに協力を頼んだりしない。ただ全部を鵜呑みにする事は出来ないって意味で……」
僕は慌てて否定した。
せっかく鏡花が手伝ってくれようとしているのに、それに水を差すような事を言っちゃダメだ。
「科学的なんだね」
鏡花は静かにそう言った。
なんかちょっと否定的なニュアンスを感じたが、鏡花はそのまま視線をノートに戻していた。
僕は自分の言葉がウソにならず、かつ彼女の気を引くように注意して話を続けた。
「聡美は最後に会った時に『和泉中の七不思議は型にハマってない』って言っていた。だから逆に言えば『ありふれた話』は除外できるんじゃないかな?」
そう言って僕は「七不思議にいかにもありそうな話」をピックアップした。
2、笑う絵
3、美術室の血を流す石膏像
4、鳴き声がする写真(滝が写った写真で賞を取っている)
7、夜に聞こえるピアノの音
8、体育館の床の人型の染み
9、女子トイレの一番奥
10、女子トイレの花子さん
11、理科室の笑う人体標本
15、第四階段(その2)
18、午後四時四二分に屋上に一人でいると口裂け女に会う
21、放送室で夏休みの閉じ込められた少女
25、図書室から校庭を見下ろす女
26、八月十三日の合宿
27、七不思議の七つ目は知ってはならない。
「これだけで話は十四個もある。そうすると残りは十三個だから、だいぶ絞る事が出来ると思うんだけど?」
僕は少し得意げに話した。
これでも論理的に推理するのは得意な方だ。
鏡花は納得したようにうなずく。
「そうね。『いかにも作り話』って感じのもあるものね。これらの中には除外した方がいいものもあると思う。でもそうすると聡美さんが残したこの『〇』『△』『?』の意味は?」
僕は答えに詰まった。
自分でも聡美の記号については謎だった。
単純に考えると「〇」は本当らしいもの。
「△」は少し怪しいもの。
「?」は判断できないもの、と言う事になる。
だが僕が上げた「型にハマったありふれた七不思議」の内、「2、4、7」は記号が付けられているのだ。
しばらく互いに沈黙した後、鏡花はノートを閉じた。
「このノート、借りてもいい?コピーだけ取って明日にでも返すから」
「それは別にいいけど……何かわかったことがあるの?」
僕がそう尋ねると、彼女は結論づけるように言った。
「私に心当たりがあるの。とりあえず『7、夜に聞こえるピアノの音』から調べてみましょう」
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