第16話 化合
21世紀のフランケンシュタイン騒動は公にならず、膨大な情報の波にかき消されていった。アルテミーの白山と篠崎は筋肉増強剤の研究を進め、与久馬金融の社員は銃刀法違反や威力業務妨害罪などで逮捕された。
ケイトは相変わらずワイティーバーとして活躍している。
「ええ、今回はフェイクファーをつけてオシャレ度を上げてみまーす」
本物そっくりに見えるキツネを箱から取り出す。それは洋子の真の姿だったが、視聴者はフェイクファーに見える。
「このキツネ、モノホンに見えますよね? でも、フェイクなんですよ。ほら、メイドインチャイナのタグがついている」
メイドインチャイナのタグや縫い目は、妖術で「見える」ようにしている。こんな形で化け術を全世界に発信することになった彼女は、はらわたがマグマのごとく煮えくりまくっている。
「カーミンちゃんとも仲良くなれるかな。はい、取ってきてー」
ケイトは部屋の隅に洋子を無造作に投げる。ウルフドッグのカーミンが洋子をくわえて戻ってくる。ケイトがカーミンの首回りの毛をわしゃわしゃして、微笑ましい光景が流れる。
このウルフドッグの正体は叶実である。再生回数を伸ばすために、アニマルもふもふ路線に走っていた。
「いやぁ、かわいいなぁ、カーミンは」
叶実はニヤニヤして、ケイトにもふられるがままだ。野性を忘れたオオカミを横目に見ながら、洋子はモンスター革命の再起を誓った。
ケイトの生放送が終わると、彼の部屋に三人の訪問者がやって来る。
「おじゃましまーす。あー、本物だー!」
FelinesのLaina(ライナ)は生ケイトに興奮して、もじもじしたり、地団太を踏んだり、おかしな動作を繰り返す。その後、何やかんやあって、ケイトに血を吸われるとおとなしく眠った。
「シエリちゃん、最近どう?」
ケイトはケーキを切り分けながら尋ねる。
「元気です、とても元気です!」
シエリはまぶしい笑顔を見せる。闇属性の洋子ギツネは隅で丸まって、顔をそむける。
「お父さんを再び亡くして大丈夫かなと思ってたけど、心配なさそうだね」
「毎日おもしろいLANEスタンプ送ってくれてるし」
「こないだ美味しいジャンボ飯の店教えてくれてありがと!」
「いえいえ、どうも」
もう、シエリには孤独や不安がなかった。父がいなくても、たくさんの友人やファンがいる。
「あ、あんたの父親の遺体をいじくって、ごめんね」
洋子ギツネがばつが悪そうに、壁に向かって謝る。
「許してあげる! と言いたいけど、何かの罰を与えます!」
彼女は洋子ギツネを背後から抱き上げて、全身をこちょこちょさわる。洋子ギツネはあまりのこしょばさから、ひわいなあえぎ声を出し始める。
「ひょっほ、やめてや、は、はぁ!」
「こちょこちょこちょー」
「いいぞ、いいぞ。もっとやれー」
叶実が煽ると、シエリの「こちょこちょ」は加速する。こちょ疲れした洋子ギツネは白目をむけて、手足をけいれんさせていた。その様子をケイトと朱美が笑いながら見ていた。
6月13日
休みの三時間をケイトさんの部屋で過ごす。キツネって、ホントにモフモフでカワイイ! 中身がおばさんでも……。お金ためて飼いたいなぁ。ライナには悪いけど、楽しく過ごせて良かった。明日から全国ツアー。色んな人をスマイルにするぞー!
(21世紀のフランケンシュタイン編終了)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます