第12話 死肉
<これまでのあらすじ>
〇洋子・フランケンVS●白山・篠崎(アルテミー社員)
〇洋子・フランケンVS●与久馬金融社員
〇洋子・フランケンVS●折尾叶実(オオカミ女)
注意:ほとんどフランケン田中が戦闘していて、洋子は指示を出すだけ
洋子はケイトを誘うように、ろうそくのように白い手で手招きする。
「あそこにいる人間どもになりきって、本来の力を隠して、うちらは生きてきた。でも、もうそんな生活はこりごりやわ。堂々と本来の姿で、街をねり歩きたい。それこそハロウィンのように」
彼女は両手を広げて、す〇ざんまい社長のポーズを取る。
「さぁ、モンスターがモンスターらしく生きる社会の実現へ。そのために、人気ワイティーバーのあなたの力がほしいんです!」
彼女の顔中に毛が生え、キツネ獣人の姿へ変わる。元から細い目をさらに線にして、笑みを浮かべる。
「あー、悪いけど、僕は協力しないよ」
「は? 何で? うーんと、そや! うちらの仲間になれば、毎日美女の血を飲み放題!」
彼女は必死に食い下がる。だが、ケイトは両手を地面につけて西洋のガーゴイル像の姿勢で、首を横に振り続ける。
「闇に隠れて美女の生き血を吸うスリル。それが失われた世界なんて、退屈すぎるよ」
「フン! あんたも、あのアホ犬と同類か。ほんなら、死ね!」
彼女が指を強く鳴らせば、フランケン田中が現れる。ケイトは何も出来ぬまま、フランケンに殴られて、うつぶせに倒れる。頭からは鮮血が流れた。
「世界中のモンスターに呼びかけてくれる思うたのに、残念やわ。まっ、明日からうちがケイトになれば、万事OKやね むっ?」
彼女は鼻をヒクヒク動かして、臭いの元を探る。すると、しげみから大口を開けたオオカミ獣人が飛び出す。
「また負けに来たんか?」
オオカミは口を開けたまま、何も答えない。洋子は高らかに叫ぶ。
「田中さん、あいつの頭かち割って!」
フランケンは右、左と、立て続けに拳を前に突き出す。叶実は素早くよけて、パンチを食らわないようにする。一度でも当たれば、骨が折れるだろう。
ひたすら公園内を逃げ回る叶実。何度もパンチを繰り出すフランケン。同じシーンをリピート再生して見ているようで、洋子はいらだってくる。
「ああ、もう! さっさと決めんかい! 木ぃ使ってええから」
フランケンは近くの木を引っこ抜き、こん棒として振り下ろす。こん棒の衝撃で地面が裂け、地震直後のようになる。
「よっしゃ、よっしゃ! それで、いてもうたれ!」
洋子はガラの悪い野球ファンのごとく、しわがれた声で叫ぶ。フランケンがこん棒を何度も振り下ろし、ブランコや滑り台が破壊される。叶実はその攻撃をさけるも、次第に逃げ場を失い、砂場に追いつめられる。
「そこが、あんたの墓場や」
フランケンがこん棒を振りかぶる。その刹那、叶実はフランケンの目に向かって砂をかける。
フランケンの視界がさえぎられ、こん棒を落として右往左往する。叶実はフランケンの顔に、自慢の石頭をぶつける。その衝撃とパニックが重なって、フランケンはあおむけに倒れる。
叶実はフランケンの体にまたがって、肩にかみつく。
「起き上がれ、田中ぁ!」
叶実の牙が刺さった肩の皮膚が、血を噴き出して溶けていく。フランケンは口を開けたまま、戦闘意欲を失い、体の力が抜けていく。
「なっ、何なん、あの牙は?」
洋子は、自信作の体が破壊されるのを目の当たりにして、激しくまばたきを繰り返す。フランケンを救おうと走り出すが、四方八方からコウモリの大群に襲われる。
「うわっ、この、クソが、ああ!」
彼女は妖狐特有の狐火が使えないので、コウモリを払うことが出来ない。血をどんどん吸われて、目の前の黒い点が増えていく。
「あのチャラ男はどこに……、あれ?」
ケイトの体は衣服だけを残して消えていた。辺りを見回すと、東南アジアの巨大コウモリがはばたきながら、彼女を見下ろしていた。
「ハァ。この醜い姿にならないと、コウモリ軍団を呼べないんだよね」
「ク、クソがぁ! あんた、あのオオカミに何を仕込んだん?」
「オオカミちゃんの牙び、皮膚を溶かす猛毒を塗っておいたのさ。だから、彼女は戦ってる最中に、一度も口を閉じなかったんだよ」
「そ、そんな猛毒、どこで……?」
「ワイティーバーの財力とネットワークをなめてもらったら、困りますね。今後のために言っときますけど、もう少し敵のことを研究した方がいいですよ」
ケイトは勝ち誇った顔で彼女を見る。朱美の取材のおかげで、洋子の素性を知ったことは秘密だ。
洋子は唾を吐き捨て、ずっとケイトをにらみ続ける。
週刊平常の社内で、朱美は〆切に間に合うよう記事を書き続けている。他の社員も慌ただしくキーボードを叩いている。彼女は腕時計を見て、残り時間を確かめる。〆切よりも、モンスター同士の戦いがどうなったのか、気になって仕方ない。
「あれ? 動いてない」
腕時計の秒針が止まっている。入社以来ずっと時を刻み続けていただけに、少し寂しい気持ちになる。彼女はスマホを開いて、本当の時間を確かめる。
すると、スマホの振動とともに、LANEの新着メッセージが表示される。
「えっ、早良さん。ちょ、ちょっと!」
「おい、早良君。どこに行くんだ?」
周囲の言葉は彼女の耳に届かない。彼女は一目散に、ある人の元へと駆け出して行った。(続く)
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