第10話 肉質

<これまでのあらすじ>

 妖狐の瓜毛 洋子(うりも・ようこ)の野望は、フランケン田中を使って力を誇示すること。それを阻止すべく、オオカミ女の叶実がフランケンとバトルを始める!



 叶実の拳が、田中のみぞおちを直撃する。プロボクサーが悶絶するほどの威力でも、彼には全く通用しない。彼は叶実の腕をわしづかみして、骨をくだこうとする。


「グガァ!」


 あまりの痛さに、叶実は白目で叫ぶ。拳が封じられたら、噛みつくしかない。彼女は自由な左手で彼の肩をつかんでよじ登り、オオカミの口で首筋を噛む。しかし、田中の肌は生肉より硬くて歯が立たない。


「残念やね。その程度の攻撃やったら、田中さんを倒せへんよ」


 田中さんが彼女を突き飛ばす。地面に打ち付けられてもなお、彼女は闘志を見せる。歯をむき出してうなり、全身を獣化させてマッチョオオカミに変わる。


「んまぁ、けがらわしい。田中さん、この毛ダルマをやっつけちゃってぇ」


 田中さんと叶実が体でぶつかり、互いに組み合って根比べになる。両者の筋肉量は互角だが、耐久面でフランケンの方がわずかに勝る。フランケンが彼女の両肩を脱臼させて、抵抗力をもぎ取る。


「ウガアアアアアアアア!」


 フランケンに持ち上げられた彼女は必死に鳴きわめき、足をバタバタさせる。その甲斐むなしく、公園の灯りの柱に頭をぶつけられて意識を失う。


「ようやったわ。後で、ようさん肉あげる」


 洋子は田中さんの背中を軽くたたく。彼女は記憶消去装置(MDM)を叶実の頭につなぐ。


「この計画のジャマんなる人は、みんな消さんとね」


 田中さん関連の記憶が消えた叶実は、獣人から四足のオオカミへ変わる。オオカミはよだれを垂らして、牛一頭丸ごとかぶりつく夢を見始める。


「あらあら。ただのワンコになってもうた」


 洋子はビリケンさんみたいな笑顔で笑う。田中さんがオオカミをじっと見つめて、何かを思い出そうとしている。


「さっ。人が来ん内に帰りましょ」


 彼女は花柄の傘を差して、田中さんを手招きする。彼らは夜の闇へ消えていった。



 


 雨がやんだ公園で、百鬼が早朝ランニングをしている。公園のベンチにさしかかったところで、巨大な何かに飛びつかれた。





 おっと、彼がどんな人か忘れている人が多いと思われるので、改めて百鬼 正平(ももき・しょうへい)を紹介しよう。



 百鬼は主人公の早良朱美(さわら・あけび)と半年前まで付き合っていたプロボクサーである。朱美は彼のプロデビュー戦の物怖じしないファイトスタイルが気に入って、猛アタックの末に付き合うことになった。しかし、彼があまりにも無知蒙昧(むちもうまい)なため、仕事が忙しいと称して別れることになった。


 この小説の3話では、叶実オオカミに敗北する活躍を見せている。


 では、話を戻そう。




 得体の知れないものに押し倒されたが、百鬼は目を凝らして正体を見極めようとする。暗闇に目が慣れると、人のカツラをつけようなオオカミが見えてくる。


「あっ! お前はこの前の!」


 オオカミは野獣の目のまま唾液を垂らしている。オオカミの押さえつける力が強くて、全く起き上がれない。オオカミがのどぶえを狙っているので、彼はとっさに右腕をガードする。


「ああっ!!」


 オオカミの牙が肉をぐちゃぐちゃにして、交通事故3回分ぐらいの痛みが彼を襲う。並のオオカミなら、彼のパンチでKOできるが、前回の記憶がよみがえって手が出せない。


「ぐぅ、こうなったら……」


 彼は左手をオオカミの頭にのせ、ム〇ゴロウ風に「よしよし」し始める。彼女の髪の毛が乱れないよう優しくなでる。首周りのもふ毛も同様に。


 次第にオオカミの眼はトロンとして、噛む力も弱まっていく。


「ウウウウン。きもちいー」


 オオカミがしゃべると同時に、牙ロックが外れる。


「よしっ、正気に戻ったか?」

「あっ、ごめん! あたしったら、ひどいことを……」


 叶実オオカミはジャンプして、彼から離れる。彼は血だらけの腕を包帯で縛る。


「いいってことよ。叶実ちゃんが元に戻って良かったぜ。ところで、オオカミ人間に噛まれたってことは、俺もオオカミになっちまうのか?」


 彼はサイ〇人ばりのムキムキ狼男になった自分を想像して、顔をほころばせている。


「ううん。それは迷信。だって、噛まれた人がオオカミ人間になったら、今頃はほとんどがオオカミだらけになっちゃうもん」

「そっ、そうか……。だよな、やっぱり」


 彼は想像していたオオカミボディーをハンマーで破壊する。


「ところで、ここで何があったんだ?」

「あたし、えっと……、そうだ、田中さん! あの人に勝ちたい!」


 彼女は真剣なまなざしで彼を見つめる。そのまっすぐで一点の曇りもないオオカミの瞳は、彼の心を動かすのに十分だった。


「田中さんか。あのバケモンに勝ちたいんだな」


 百鬼は力強くうなずいた後、自分の頬をパンパン叩く。気合を入れた彼は、彼女をどう鍛え上げるのだろうか?


(続く)

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