醒めない夢

おと。

醒めない夢

私は夢をみた。

あってはいけない、幸せな夢を。


「...夢ね」


「夢じゃないよ」


あなたのぬくもりが私の頬にふれる。

「冷たいな」


「...あったかいわ」


そのぬくもりが唇にふれようとする。


「やっぱり夢よ。これは私が望む夢」


「...なんで泣いているの。夢でも私たちは幸せになれないのね」


「ち...がう。ごめん、ごめん...っ」


ぬくもりが髪をすくう。


「僕では君を幸せにできないのか」


「私ではあなたをしあわせにできないの」


あなたのぬくもりが、私の目を覆う。


「どうしたの」


「…もう、夢から覚めようか」


「心地がいいのに残念だわ。夢ならあなたといられるのに」


「...最後にキスをさせてくれ」


目を隠している手は震えている。


「私ではあなたをあたためられないのね」


「...」


「これは現実なのっ...んっ」


最初で最後のキスはあたたかくて冷たい、砂糖菓子のような甘いものだった。


「やっぱり、幸せよ...。あなたとこんなにもいられるなんて」


手が離れたことによって、白くぼんやりとした世界に見える。


「君にはもっとわがままでいて欲しかった」

「...私もよ」


まばたきさえ惜しく感じるほど見つめあっていた。


「今からでも遅くないわがままを

「それはダメよ。私はあなたの幸せを望んでいるのだから。だから、ここは夢よ」


「...夢、だよな」


私はボロボロになったネックレスをわたす。


「わがままを一つだけ。あなたが初めてくれたプレゼントを持っていて欲しいの」


「未練たらしくてごめんね」


「...絶対に、離さないから」


なくまいと、あなたの眉間にシワがよる。

「っ...ブッサイクな顔」


「...うるさい」




「もう、おしまいだな」


「...ありが、と...う」





起きた時には彼の香りと、触れられた感触しか残っていなかった。


「全てが、夢だったら良かったのに」


私とあなたは愛し合っていた。幸せだった。それを、社会は許してはくれなかった。

さぁ夢を見よう。

暖かくて冷たい、砂糖菓子のような甘い夢を。

あなたといれるだけで、私は幸せなのだか

ら。


「...愛しているわ」


孤独だった彼女はぬくもりを知ってしまった。

もう、独りは嫌だった。

夢ならば、ひとりにはならないから。




彼女の最期は、幸せそうだった。

愛しい人の夢を見ている彼女はとても美しかった。

眠っているのではないかと疑うほど、彼女はやわらかな笑みを浮かべていた。



しかしもう、醒めることは無い。

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醒めない夢 おと。 @misuruga

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