第18話悲鳴と叫び

「きゃあ!」


 それは突然の悲鳴だった。私とシスターがキッチンで話している間に、店舗内から響くマキちゃんの悲鳴だった。何が起きたのかと私とシスターは慌てて、キッチンから店舗内に駆け込む。

 すると先ほどの外国人三名客に囲まれ、銃を突きつけられているマキちゃんの姿があった。


「何よ、あんたたち!」


 シスターが日本語で外国人に問いかけたが外国人たちは「NO.NO.NO.Raise your hands」と手を挙げろと要求してくる。

(いや、いや、いや、手を上げてろ)


「There is no woman's life against」

(逆らうと女の命はない)


 私はシスターに手を挙げるよう要求し、私もその場で手を上げた。


「Where is the thing?」

(物はどこだ?)

「物って何のこと? それよりマキを離しなさいよ」

 シスターは激しい剣幕で捲し立てる。

「NO! Exchange with a woman. Get out. I know what you have.」

(女と交換だ。出せ。お前たちが持っていることはわかっている)


 するとシスターが私に合図を送る。私は、タブレットのことだと理解して、手を上げた。


「ここには、ないわ」

 シスターは続ける。

「あんたたち、一体何者なのよ! 桂木興産の連中なの?」

「Shut up and answer only the questions. Where's?」

(黙れ、質問にだけ答えろ。どこだ?)


 じっとシスターも私も動けずに、外国人三名はマキちゃんに銃を突きつけて、店内出口の方へ出ようとする。


「It is exchange with this woman. Take the phone. I will contact you again.」

(この女と交換だ。電話を持ってろ。また連絡してやる)


 外国人の一人が携帯電話を私たちに投げた。その時丁度、店舗前に黒のワゴン車が止まった。


「きゃあ! いや! 助けて、離して!」

「女! 来い! 殺すぞ!」

「マキちゃん! 逆らっちゃダメ、絶対助けるから!」


 マキちゃんも叫び、シスターも叫んだが、外国人三名は私たちを尻目に、マキちゃんの口と腕を捉え、黒のワゴン車に乗せる。

 私たちは、慌てて店舗の外に出たが、ワゴン車はそのまま走り去って行った。


「チクショ! マキちゃん!」

「そ、そんな……」


 シスターは朝の秋葉原の空に叫び、私はその場に崩れ去った。店内に投げ捨てられた携帯電話が鳴り響いていた。

 シスターは慌てて、電話をとる。

「マキちゃんを殺したら、あんたら、ただじゃおかないわよ!」


 シスターは一旦叫んだ後、冷静に男たちの要求であろう言葉を頷きながら聞いていた。私は、店前の半開きの自動ドアの前に座り込み、茫然と黒のワゴン車が走り去った道を眺めるしかできなかった。


「大丈夫? あんた怪我ない?」


 電話を切った後だろうか、私に近づき、立たせようと脇を持たれて立ち上がる。

 シスターは「黒ちゃんにも電話しないといけない。店なんてどうでもいいわ」と私を店内の椅子に座らせると、いきなり店のシャッターを閉め始めた。片手には自分の携帯だろうか、黒田と話しながら、今後の策を練っているのだろうが、私には、その会話は遠くで聞こえる犬の声のように小さく聞こえていた。

 私は、拳銃を初めて見た恐怖と、マキちゃんのことが心配で、半ベソを掻きながら、茫然と座っていた。

 すると、シスターが私の目の前で手をブンブンと振る。何事も無いように「どうしたの? 大丈夫? あんた。こんなんじゃ、この先ついていけない? そうよね? あんな拳銃なんて見るの初めてでしょう?」とゆっくりテーブルに水の入ったコップを置いてくれて、私は我に返った。


「……はい」

 端的に答えることしかできずにいる私だった。

「ごめんなさいね? 巻き込んじゃって、と言っても、黒ちゃん付けられてたなんて、中々のやり手よね。里美さん? ごめんだけど、もう少し付き合ってね?」

「えっ!? どう言う意味ですか? 私は何も出来っこないです」

「そうなんだろうけど、あのさっきの外国人からの電話。あんたご指名なのよ。お願いだけど、タブレットを修復の前に、マキちゃんとタブレットとセットで、里美さん、女も一緒に来いと言ってたわ。じゃないと、マキちゃん危ないかもって………。だから、ごめんなさい。もう少し付き合って」


 シスターは呆然とする私にひざまづき、垂らした私の腕を力一杯握った。私は、呆然としながらも断れない自分に苛立ちを募らせた。


「なんで、こうなるのよお! ひろみ、あんたのせいじゃない!」


 私は、急に桂木ひろみの名前を出して、鳩時計にむけて叫んだが、鳩時計は無言で時刻十時を告げるチャイムが一回なっただけだった。

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