第17話投げキッスパン

「はい、LOVE注入! はーい、ちゅっちゅっちゅ、注入!」


 一昔前に流行った芸人のはやり言葉のように、マキちゃんが招いた外国人客をもてなし言う。外国人客はその上から下へとハート型の手をした行動を真似て同じように言っていた。


 私も、マキちゃんと同様にポーズをとり、年甲斐もなく手をハートマークにして下ろし言葉を吐く。


「LOVE入荷!」


 すると、マキちゃんが私の言葉を聞くと、運んできたソーダ水にソフトクリームを入れる。めいいっぱい入ったソフトクリームに向けて、大きく目を見開く外国人は「YES! YES! YES!」と言葉を連呼していた。


 甘い甘いクリームソーダの出来上がりだ。店長のシスターが次の注文をテーブルに置き、私に声をかける。

 キッチン前に行くと、手招きされてシスターに呼ばれる。


「なかなかなものじゃないの? 里美ちゃんだっけ? 初めてなのにやるじゃない?」

「あ、ありがとうございます。でも、結構恥ずかしいですけどね?」

「大丈夫よ。これなら明日も頼もうかしら?」

「えっ? それはちょっと……」

「嘘よ。でも、うちの店のこともっと知りたくない? 黒ちゃんのこととか?」

「いいえ、別にあの人とは、今日会ったばかりだし、携帯直してもらったらさようならです」

「そう? だと、いいけど、黒ちゃんからさっき電話あってね? 謎解きするまで付き合ってほしいそうよ?」

「謎解き? なんのですか? 私はただ、友人に頼まれマンションに物を取りに行っただけなのに、こんなことになって」

「そうよね? ひろみ、桂木ひろみさんのお友達よね?」

「何で、それ知ってるんですか? まさか黒田さんの入れ知恵? あなた方は一体何を追ってるんですか? さっきから意味深な言葉ばかり言って、私は頼まれた物をひろみに届けたいだけです」

「そうよね? 私たちもそうなのよ? じゃあ、仲間ってことで、協力しない?」

「これも、黒田さんの差金ですか?」

「あんた、見かけに寄らず鋭いわね?」

「そんなこと、すぐわかりますよ。協力って何をするんです? 私はひろみ宅にあった物を届けたいだけ」

「中身、中身よ! 知りたくない? それにひろみさん、危ない目に合ってなきゃいいけど……」

「………そ、そうなんですよね。ちょっとそれも思いました。ってあなた方は、どこまで知ってるんですか? 追手とか、タブレットとか、私は一体何を隠されているんですか?」

「協力するなら、教えてあげてもいいわ。ってか、ごめん、早く注文持って行ってね?」

「……もう、ごまかす!」


 私は、店長のシスターに促され、外国人のテーブルに朝のサービスメニューの投げキッスパンを運ぶ。投げキッスパンと言うものは、ただのハート型のロールパンだ。

 それを運ぶ時に、お決まりのように言わないといけないセリフがある。私は、外国人三名客が座るテーブルに、投げキッスパンをゆっくりを置く。

 すると、マキちゃんと私は、ハートキャッチプリキュアの戦闘ポーズをとった。そして……。


「ハートキャッチ! 海風に揺れる一輪の花! キュアマリン! 塩の香り!」


 私は、オープン前にマキちゃんに叩き込まれたセリフを言い、粗塩をハート型のロールパンに振りかけた。マキちゃんも同じようにセリフを言う。


「月光に冴える一輪の花! キュアムーンライト ! 卵乗せ! 投げキッス!」


 マキちゃんは、月に見立てた卵焼きを皿に乗せ投げキッスをする。そのポーズを見た瞬間、外国人客が立ち上がり、スタンディングオベーションと化した。私はその姿がとても恥ずかしくなり、ペコペコと頭を下げて、キッチンへと入って行った。


「やるじゃない! やっぱり里美さん、あんたウチで雇いたいから、謎解き、手伝いなさい! これも桂木ひろみさんの為よ?」


 意味不明な言葉を同時に言うシスターは何故か笑顔で「グッド」と言い、親指を立てていた。

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