第16話キュアマリン

 メイドカフェアリス。黒田にいきなり連れてこられ、服を宛てがわれたが、店長のシスターにバイト要員と間違えられて、結局半日働かせられる羽目になった。

 マキちゃんと呼ばれる、可愛らしい女の子に店の説明を受けた後、シスターに先ほど着た服とは違うメイド服に衣装替えだと言われ、無理やりコスメルームに入れられ、メイド服に着替えさせられた。


「じゃあ、今日も1日よろしくお願いね?」

「あの、半日じゃ?」

「あんたねぇ? 黒ちゃんにお世話になってんなら、この黒ちゃんの兄貴分のこのシスターに口答えは無し!」

「お世話になってるって? 何を勘違いしてるのよ?」 

「はいはい、いくら?」

「はあ?」

「闇金に幾ら借りてるのよ? 私も少しなら貸せるし、なんならこの店の従業員になっても構わないわ?」

「違います! 私は、彼のせいで壊れた携帯を店で直してもらってるだけなんだから」

「あっそ? まあいいわ。とにかく黒ちゃんが来るまで、ここを離れちゃダメよ? あんた匿ってもらってるのわかるわね?」

「えっ?」

「いいから、事情はあとでいいから、ちょっと働いて行きな?」


 シスターと呼ばれるニューハーフは、私にウインクをして、店のキッチンへと消えた。マキちゃんに呼ばれると、私は、店の玄関口で待機した。

 店の鳩時計が九時三十分を告げる音が一回鳴る。と、同時にマキちゃんは店の外に出て、声を張り上げた。


「メイドカフェアリスにご来場くださった方全員に、投げキッスパンのサービスです」


 行き交うサラリーマンとは違う人種たちが、秋葉原のメイドカフェを横切る。


「じゃあ、ちょっと待っててな? 結構似合ってるよ?」

「あっ、ちょっと、なるべく早くしてよね?」

「ああ、わかってるよ。じゃあなあ。がんばれ!似合ってるから」


 黒田は端的に私に声をかけると、店の外に出て行った。先ほど会った時はと違い、ヤケに私を褒める黒田の言葉がなぜか気持ち悪く、これまでの言動と違うことに違和感をおぼえた。


「いらっしゃませ! メイドカフェアリスへようこそ」


 朝のこの時間から、来る客などいるのかと、マキちゃんが店内へと三名の男性客を連れて入ってきた。それはよく見ると外国人だった。旅行客かと思いきや、その外国人の男の一人が私を見るなり、声をかける。


「こにちわ! カワイイですねえ。新人さんですか?」

「おはようございます。ようこそ、アリスへ! 私はマリンでーす!」


 先ほどのマキちゃんとの研修の通り、名前をマリンと変え、元気よく挨拶をした。すると外国人の短髪にグレーのジャケットを着た客が笑顔になり、私をハグし始めた。


「OH!Japanese older sister, beautiful and cute. Love」

(日本のお姉さん、美人で可愛いです。大好き)


 少し照れながらも、客をもてなそうと必死になり、私もハグをし返した。その後、マキちゃんが男性客の肩をたたき、私とその男性を引き離すと声を上げた。


「Here's how to say Japanese greetings. Good morning」

(日本の挨拶の仕方は、こうです。おはようございます。)


 マキちゃんは、そういうと、胸に手でハート型を作り、外国人に向けてその手を広げて近づけた。


「It is interesting. That greeting」

(面白いですね。その挨拶)


 外国人は、そのマキちゃんの挨拶の仕方を真似て、私にハート型の手を広げた。そして日本語で………。


「愛してる、ハートキャッチプリキュア! キュアマリン!」


 私の名前をキュアマリンと呼んだ。どうやら子供時代見たアニメ、ハートキャッチプリキュアに出てくる本物と勘違いした秋葉原にお似合いの外国人のご来店だ。

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