第12話ヘリ

 浅はかだった。私が勝手にとってしまった行動で、みんなを追い込む結果になってしまっていることに。聡の奥さん。それに友人の里美。何をおいてもやはり友人、里美の途切れた電話の後が気にかかって仕方ない。

 素直に聡のプロの意見に従っていればこうはならなかったのかもしれないと唇を噛み締めた。

 ヘリはxxカントリークラブの上空に待機していた。そのカントリークラブに入る検問もなく、難なく駐車場に車を停めた。上空にヘリが飛んでいようが、オーナーらしき人間たちは全く現れなかった。多分閉園となったばかりのゴルフ場なのだろう。建物も壊されていることなく、まだ古びたようでもなかった。


 私は車のドアを開けてお爺様と一緒にゆっくりと降りる。聡はトランクから武器を出して、ヘリに合図を送っている。するとヘリは空を切るブレードの音を立てながら、ゆっくりとゴルフ場のコースど真ん中へと降りてくる。

 私は聡にどこに向かうのか聞いてみた。空を切るブレードの轟音で声が伝わらない。

 聡が私に大声を張り上げているが、聞こえずじまいで、手で着陸したヘリに乗り込めと合図を送っているだけだった。青に赤のラインが施されたヘリのドアがスライドした。中からスーツの男が手を差し伸べる。その胸元には警察紋章が印字してあった。


 お爺様を先に誘導し、ヘリの中へと誘導し終わると、聡が周りを確認しながら乗り込んだ。中では操縦士と、もう一人の刑事らしき人物とお爺様、聡と私だけだ。聡はショットガンと拳銃を座席脇に置いた。聡たちはすぐさま、ヘッドセットを頭につけた。私たちにもそれをつけろと促す。スイッチがわからずにいると、聡がココだと手を差し伸べる。すると操縦者らしき声が聞こえて来る。「北へ向かうのですね?」すると聡の声が聞こえた。


「いや、まずはC地点に合流だ」

「C?」もう一人のスーツの男の聞きなれないど太い声がする。

「あぁ、とにかく今はこの佐多山さんのお嬢様を匿う」

「ちょっと待って!」

 私は思わず声を張り上げた。


「なんだ? これは我々の責任だ! まずは君の身の安全を確保するのが筋だ」


 聡が私に強い目つきで訴えかけた。


「いいから大丈夫だ。まずはC地点!」

「ラジャー!」


 私の言葉など届く余地はなかった。

 ヘリはゆっくりと上空へと上がっていく。下方に見えるのは、後ろから追ってきていた黒のバンが一台。ゴルフ場入口付近で停車し、何人もの男たちが何かを構えていたが、既にヘリはそれが見えなくなるくらいまで上空へと上がっていた。


 後ろ座席に座らされた私は、前方を向いている聡と、お爺様に隠れて、携帯をオンにした。

メールが一件着信していた。


宛先:no mail.com

件名:Re:お願いがあります。


『本日中に自宅へ戻れ。さもないと、この交渉は無いと思え。どういう意味かわかるはずだ。脅しでは無い』


 そう書かれた文章から下へスクロールすると、三橋夕子さんが猿轡の口元から血が滴り落ちている写真だった。私は思わず「キャッ!」と声を挙げた。

ヘッドセットから流れたその声に、聡が反応を示す。

 隠そうとした携帯を持つ手が震え、隠しきれずにいると、聡が私に向かい声をかけた。


「まだその携帯捨てていないのか!早く……どうした?」


 私は固まったまま、動揺しきってしまった。携帯を持つ手が震えて、思わず聡にそれを差し出した。聡は私の携帯を取り画面に釘付けになった。そしてヘッドセット越しに聞こえる聡の声……。


「どう言うことだ。これは」


 私に向かい鋭い視線を送った。私は怯えながら自分の不始末に首を横に何度も振った。その動揺した様子に、聡は私の腕に手を伸ばし、前に引っ張り込む。


「交渉って、なんの話だ!」


 私は目を見開き、ヘリの床を見つめることしかできずにいた。


「勝手なことをしやがって。俺たちの苦労も全部水の泡じゃねーか!」

「……ごめん……なさい」


 そう謝ることしかできない私に、強い口調だったが、引き寄せた私の腕に力が入った。


「痛い……」小さく口にした私に聡が声を張り上げた!


「夕子はもっと痛いんだ。お前、勝手なことしやがってえ、畜生! この馬鹿野郎が!」


 引き寄せた腕を急に離し、聡は操縦士に指示を出した。

 目的地変更の合図だった。まっすぐ上空を飛んでいたヘリが、急にUターンをし始める。さっき来た方向へと逆方向へと進路を取っていた。


 俯いた私のヘッドセットから、聡とスーツの男の声が聞こえる。


「東京に戻るぞ!作戦変更だ。とりあえずCからFへと移行する。後の指示は、俺と本庁に通達を忘れるな!」


 操縦士のヘッドセットから、本庁へと通達のメッセージが流れた。そのあと、もう一度私のうな垂れた腕を手に取った。その聡の握り方は先ほどと比べて優しさに包まれていた。


「もう、後戻りはできない。君も共に行動してもらう。いいね」


 そして聡は、私の携帯にメッセージを入れて、私に見せた。


『本日中にひろみは戻るだろう。但しこれ以上の行為は、あなた方の崩壊を示すとみなす。それを重々承知の上で行動を乞う』


 それを見せ終わると、携帯のバッテリーを取り出して、スーツのポケットに閉まった。


「これが私どもの合図だ。いいな、もう君も覚悟を決めろ。今までのようにはいかないかもしれないぞ!」


強い口調だが、優しい目つきの聡だった。

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