第9話ひろみに告ぐ

「クソッ! ココもゆっくりといられなくなったぞお!」

「えっ!? どういう意味?」

「そうだな。バレてる」

「えっ!?」


 私には、ただ今までの驚きの内容と、この聡の携帯に送られてきたメッセージを見れば、危険なのだと言う事だけが伝わってくる内容だった。


「どうするの?」

「とにかく部下に一度偵察させる!」


そう言うと、後ろポケットの無線を取り出した。インカムを入れて話し始める聡。


「B班応答乞う! 上空からは何か見えるか?」


 無線機から応答が返ってくる。


「こちらB班、東北異常なし。5キロ範囲異常は……、否、ちょっと待ってください。西南方向より、一台黒のワゴン車が森林に入っていきます」


「なに! それだあ。随時状況を知らせてくれ。俺たちは離脱する」

「了解」


 聡はお爺さまと私にココを出ると告げて、外にあるバンのエンジンをかけに外に出た。

私は、お爺さまに肩を貸して、ゆっくりと外に出る。


「すまないね。こんな筈ではなかったんだが……」

「いいです。さあ早く、私も少しは状況が飲み込めたので、安心してついていけます」

「なら、良かった」

「さあ、二人とも早く乗って。俺は、ちょっとぶつを調達してくる」

「物?」

「ああ、武器ですよ。もし追っ手と交戦になった場合の事でしょう」


 拳銃が使われるほどの事が起こるのかと、身が縮みそうになった。聡はバンのトランクを開けて、ショットガンと拳銃を何丁か用意し車に乗り込んだ。私たちも後部座席に乗り込み、聡はエンジンをかけて車を出した。車を出して、数十秒して無線からB班と呼ばれる部隊から情報が入った。


「A班、気をつけてください。上空を低空に飛ぶ物があります」

「何だとお!」


 叫んだ瞬間だった。何かが飛ぶ、大きな音とともに閃光が光り、爆発音が鳴り響いた。


「キャッ!」

「クソっ! 危ねえ、奴ら本気だぞ!」

「うおお!」


後ろから、飛んだ物は多分バズーカーか何かの弾道。それが私たちがさっきまでいた邸宅に命中した音だった。


「掴まってて、飛ばすぞお!」

「キャッ!」


 あぜ道を猛スピードで車を走らせる聡。弾道は一発のみ邸宅に命中したが、それ以降は何も飛んでこない。私は、必死にハンドル操作をする聡に先ほどのメールの件を投げかけた。


「ねぇ、これは返事が無く、あなたが無線を使ったから狙われたんじゃないの?」

「はぁ? どういう意味だ!」

「だから、あなたのその無線も携帯も全部分かってるんじゃないの?」

「その通りだよ。聡君。無線を手放した方が!」

「いえっ! 私の携帯からさっきの返事をちゃんと出せば、何とかなるんじゃないかしら?」

「そんな甘い連中かよ!? さっきの見ただろう? あれは容赦しないぜ! という意味じゃないのか!?」

「なら、もう何発も打ってきてる筈じゃない?」

「それもそうだなぁ……ひろみさんの言う通りじゃないのか?」

「そう、私に良い考えがあるの!」

「何だあ?」

「私の携帯から、さっきのメールに返信を出すわ。そして、もう一つ、お爺さまの携帯をお借り出来るかしら?」

「何故?」

「今までの経緯を聞いた上で、私の判断なんだけど……、私の友人の里美に連絡を取りたいの。私の携帯も盗聴の可能性あるでしょう? だから……」

「友人に連絡して何をするって言うんだ。ここは岩手だぞ。東京とはかけ離れている!」

「もしかして、さっき君の言っていたご主人からのプレゼントか?」

「そう、ご名答。それを友人にとってきてもらいたいの」


 あぜ道を進みながら、私たちは作戦を練る。


「で、奴らにはどう返答する気だ。打ってしまえば、ここにひろみがいるって証明する事にもなるんだぞお?」

「もうバレてるから、いいじゃない?」

「君は暢気だなあ?」

「ひろみさんに、任せてみようじゃないか? どうだね聡君」


 その時、B班と呼ばれる部隊から通信が入った。


『こちらB班、A班応答乞う! 東北前方より、一台のワゴン車あり! 応答乞う!』

「チィ! こちらA班、やつらに囲まれるのか! この先は2叉路だ、誘導してくれ!」


『B班了解。車両は左前方。右折乞う! 国道に出ます』


「右か、よし、掴まれ!」


 ハンドルを右に切る。車がガタガタと揺れ、タイヤが軋む音がする。


「聡さん、の無線放って!」

「えっ?」

「早く」

「仕方ないか……。B班。単独行動を取る。警視9××H616だ。分かったな」

『了解!』


 聡は無線を放り投げた。森林の中、木陰になりながらも車が右前方にハンドルを切る。しばらく道なりに行くと国道が右下に見えてきた。


「で、連絡するんだな?」

「えぇ、任せて!」


 聡は渋々頷いたように感じた。私は、no mail.comというアドレスにメッセージを送った。


件名:『ひろみ』


『三橋夕子さんの無事を確認出来ない限り、私はあなた方の元には戻りません。そうすれば、鍵の在処もわかりませんよ。どうしますか?』


 直ぐさま、山岸のお爺さまの携帯を借りた。


「すみません」

「あぁ、どうぞ、使ってくれたまえ。巻き込んだのはこちらでもあるんだが、君の助けを借りるとはね……」

「いえっ、じゃあ、お借りします」


 里美に電話を入れる。時刻は七時を少し回った時間。

まだ出勤前、出てくれればまだ間に合うかも知れないと願いを込めた。


四回目のコール。


「もしもし、どなた?」

「出た。里美。わたし。ひろみよ。お願いがあるの。端的に言うからちゃんと聞いて」

「何よ? 朝の早くから。大丈夫なのね?」

「私は大丈夫。さっきはごめんね?」

「うん、良いけど何?」

「あのさあ。ちょっと私追われてて、今マンションにいないんだけどさ、うちのマンションに行って、夫からのプレゼントを取ってきてほしいのよ」

「はあ? わざわざそんな用事で電話してきたの? でも? 追われてるってどう言う事?」


「ああ、ー詳しい説明は、後! とにかく私のマンションのベッド脇の棚の引き出し一つ目! 鍵が掛かってるから、暗証番号は、わたし×2ね? 分かる?」

「ああ、はいはい。でも、そんなの自分で行けば良いじゃないの!?」

「だから私、今、東京にいないんだってば!」

「はあい? どこまで届ければいいのよぉ!」

「とにかく取ってきてもらうだけで良いよお! 取ってきたら、一度この番号に電話して、お願い!

「うーん、ちょっと忙しいけど分かった。今度食事おごってよね?」

「了解。マンションの鍵はわたしだから!」

「うん分かったわ」

「じゃあまた! 必ず行ってね!」

「分かったわよ。じゃあ後でね?」


 そして電話を切ると、私の携帯にyou got a mailの着信音が鳴り響いた。


差出人:no mail.com

件名:ひろみに告ぐ


『すぐに戻ってこないと、三橋夕子の命は無いと思え!』


 添付画像にはボブヘアーの以前、一緒に写真を撮った女性が猿轡をされて、縛られている写真が貼付されてあった。

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