第8話謎のメール
義母からのメールを見て、心臓を掴まれた気持ちなった。
確かに殺したのは私だ。全てを見透かされたような気持ちなりながらも、聞かされた父親のテープ内容と、母親から聞かされた父親の印象の違いに、疑問点がいっぱいだった。
そして、昨日夫が私に送った誕生日メールの意味をもう一度確かめる為に、夫のメッセージを開けてみた。
『哲也です。誕生日おめでとう!』
『今日は帰りが遅くなってごめん。実は君に伝えたい事がある。それはダメな夫だったという事。分かっていたかも知れないが、俺は不倫をしていた。そして今日その不倫関係の女性とは別れてくるつもりだ。話が長引くかもしれない。その女性はヤクザの女性だからだ。無事帰って来れるかも分からない。だから君の幸せを祈る。ベッド脇のケースにプレゼントを入れておいた。これから必要なものだ。幸せを祈る』
このメッセージには、不倫関係の女性にはヤクザがバックにいる事。そしてベッド脇のケースのプレゼントと言うキーワードしか浮かんでこない。聡が、私の携帯を覗き込むように身を乗り出した。私は、慌てて携帯の電源スイッチを軽く押し画面を暗くした。
見ようと思えば、私の携帯なんて、こちらに来る車中で見れた筈。しかし内容は知らないのかと思える行動に疑問を感じた。
「私の携帯見てないの?」
「見る訳無いだろ。どうしてそんな事」
「へえ、私はてっきりくる車中で、全部を見た上でそれを話しているのかと思ったけど……」
「そっそんな事あるわけないだろ? 車を運転していてどうやって見るんだ?」
その少し焦った表情をする聡を見て、信用度の低さを感じ、少し鎌を掛けてみようと私は行動に出た。
「どうかね。解ったかね? 携帯を見て」
お爺さまが私に質問を投げかけてくる。私は気を取り直し、澄ませた表情をして応えた。
「お爺さま? 私が思ったのは、夫から送られてきた誕生日メールの事が気にかかったんです」
「ほお。というと?」
「昨日夜、私の携帯に夫のpcから送られてきたお誕生日メールの中にこう書かれてあります。浮気をしていた。その浮気相手というのはヤクザの女性だった。プレゼントがある」
「ほお!」
「私の携帯に、聡さんから送られてきた最初のメッセージは、ご主人浮気していますよ? です。それに誘われて、聡さんのマンションに行った時、女性が一人羽交い締めにされていたという事実はどう説明します? という事は、あなた方は夫からすれば、ヤクザという事になりますよね?」
「聡、説明してやらないと、このお嬢様はとんでもない勘違いをするかもれ知れんぞ!」
「勘違い? へえ、それはどう言う勘違いなんですかね?」
「ひろみ、君はやっぱり賢いよ!」
聡が胸元のポケットに手をやる。お爺さまが私に笑みを浮かべ、益々気に入ったと言う表情を見せる。聡は、胸元から小さなバッヂをテーブルに置いた。
「これは何かわかるかい?」
聡が、少し鋭い目つきで、私に質問を投げかける。
「見ればわかるわ。バッヂよね?」
続けてお爺さまが小さく頷きながら応えた。
「家紋の意味がわかるかい? ひろみさん?」
やはりヤクザ!?
「いえ、分かりません。言葉通りだったしたら? ヤクザですか?」
その言葉を聞いたお爺さまが大笑いした。
「ガハハハハハハッ、こりゃ一本取られたなあ。ちゃんと説明せんと、お嬢さんはどえらいことを考えつく」
「えっ!? ちっ違うんですか? 聡さん、これは一体……どういう事? あなた方は一体?」
「これは田々羅の家紋。田々羅は、元官房長官、
「って言う事は? 政府直下の組織?」
私は、状況が飲み込めなかった。そんな家柄の人が、元彼氏だったとは思いもしない。しかし、ピストルを持てることはあり得ない。
「じゃあ! ピストルを持ってる意味って?」
「あぁ、俺は、現警視庁長官の
そう言うと警察章と、手帖をテーブルに置いた。開いた口が塞がらないとは、この事だ。何? 何が一体どういう事なの? 私の父親との関係って……。疑問符がいっぱい飛んだが言葉に出ない。
「……………ちょっと待って。お爺さまは本当のお爺さまじゃないの?」
「俺は田々羅家。こちらの山岸頭領は、俺の母形の山岸家のお爺さまだ」
呆然とする私を目の前にして、お爺さまが優しい笑顔で応える。
「不正特許で名声を勝ち取った桂木興産の捜査内定は、以前から打診していたんだ。その証拠を今、掴みかけているところだよ。あと少しのところまで来ているんだ。協力には君の力が必要だとね」
「じゃあ、もっと正当なやり方をしたらどうなんです? 変なやり方をしたから私は夫を。夫を突き飛ばしたじゃない! 捕まるのは知ってて、その特許とやらを取り返したら私はやはり捕まるのね……」
その言葉に口を紡ぐ聡たち……。やはり、私は人殺しなのだと確信した。
「じゃあ、何故すぐに捕まえないの? 私も私たち桂木家の家族たちも含めて!」
「君は、犠牲者の一人だからだ。俺たちが今、動いている意味は、桂木家の裏社会に通じる全般。金の流れや横領なども含めた事件。そんな大げさに動いてみろ! すぐに感づかれて捕まえられるどころか、逆に返り討ちにだってあう可能性もある。だから少数で今とっかかりを見つけているところなんだよ。実際言っておくぞ。君を脅したのだって、作戦のうち、身も心も桂木家に染まってしまっているんじゃないかと思ったものだ」
その言葉に同乗し、お爺さまが続けた。
「だが、君は違った。義母である桂木雅子に染まる事無く、桂木の会社の連中にも、息がかかっていない。それは今までの行動で分かったことなんですよ?」
「じゃあ、夫の浮気相手だった女性ってのは……」
「ああ、彼女は私の部下の三橋夕子。彼女のおかげで特許奪還と、不正疑惑の確証がつかめたんだ」
「でも、処理したって、あなた言ったわよね?」
「あぁ、その事? だってあれは、捜査調査の処理、彼女のマンションには間違いないけどね」
「全部演技だったって事?」
「いや、全部ではないよ? 事実夕子は俺の嫁だし? ハハハッ!」
「ええ!? でも、あなたの携帯のメール、嫁はちゃんと処理したのかって?」
「あぁ、あれは嫁はマンションをちゃんと処理したのか? って言う意味だよ」
「ああ、もう心配して損した! 自分の人生どうなるのかって……。でも私夫を殺したわ。やはり捕まるのよね?」
「大丈夫。君の夫は生きているよ」
「えっ、どういう意味? 私だってぇ……さっきも秘書からと、お母様からメールが来たわ。亡くなったってぇ!」
「あぁ、病院の先生には今事情を説明して、亡くなったってことにしてある」
「えっ? じゃあ」
「ええ、そうですよ? ひろみさんのご主人は生きてらっしゃる。但し今はあなたと会わせる事はできない」
肩を撫で下ろした瞬間だった。その一瞬にして疑問が解決されたかに見えた。聡の胸ポケットの携帯の着信音が鳴り響く。聡は慌てて、それをとった。私のいる前での躊躇無い行動に、少し安心を感じたが、聡の顔色はその電話で急変した。
「何、妻がぁ!? まっまさかぁ奴らに何か情報漏れたんじゃないだろうな!」
何度か頷き応えると電話を切った。
「聡くん、どうしたんだね!?」
聡は携帯電話をテーブルに大きな音を立てて置き、下を向いて歯を食いしばった。そのすぐ後に、犯人からの犯行メッセージとも取れるメールが聡の携帯に着信した。
「こっこいつは!」
「何だね?」
聡は携帯画面を私たちに見せた。
差出人:no mail.com
件名:『あなたの部下は無事ですか?』
『三橋夕子が無事ならいいですね。桂木ひろみを渡さないと無事でいられるかどうかも微妙なラインです。お返事は、ひろみさんの携帯を使ってください。じゃないと奥様がどうなってもいいのでしょうか?』
「くそっ!」
「クッ、してやられたか!」
聡とお爺さまが同時に叫んだ。
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