修学旅行のお土産を渡しました

 まだクラス分けがされて数ヶ月とはいえ、同じ学校に5年目です。

 ぎこちなさもなくクラスの色が決まります。よく話す元気なグループがいるこのクラスはどちらかというと活動的で、運動会や文化祭でも張り切る人が多そうですが、そうなるとやはりあの行事がみんなの話題の中心になります。


「修学旅行、2日目の夜だけどさ、頼むな。用事あるんだ」

「まかせろよ、あ、3日は俺な?」


 男子もこのイベントには興味津々です。

 というより、思春期というのでしょうか。なんとなく学校のクラスでは女子は女子、男子は男子で遊ばないといけない雰囲気がするのですが、それは嘘といいますか……そういう雰囲気だけど、半分くらいの人はこっそり仲の良い男の人と遊んでいたりするのです。


 私はというと、なんだかそんな雰囲気が苦手です。

 今でも気が合うのは公園にいる低学年の男の子で、女子で集まってする恋の話は面白く思えません。知らない誰かが付き合ったとか、誰かのお兄さんが芸能人に似てるとか、本当にみんなはそんな事が面白いのでしょうか。私には無理に苦手な珈琲を飲んでいる様な印象を受けるのです。


 とはいえ、最近は胸も膨らみ周囲の視線が気になります。

 なにもクラスメイトに羨ましいと言われるほど大きくならなくてもいいのに。むしろ普通の大きさか、小さいくらいの方が私にとっては良かったんです。だって、走って揺れるのは鬱陶しいし、時には痛みもあります。それに、男子の目が私の胸に刺さるのです。私は女の子とばかり遊びたいわけじゃないし、男子と恋愛がしたい訳でもありません。本当は今までみたいに男の子とも今まで通り遊びたい私ですが、相手がそういう目をするならそうもいきません。


 服装も変えました。

 暖かい時期でも今までの様にハーフパンツやシャツを着ていると人目に着きます。堅苦しいブラジャーをして、何故かそれも見えないように重ね着をして、ズボンも長ズボンが増えました。はっきり言って動きにくいです。男女の体力差なのか服装のせいか、最近は公園での鬼ごっこをしていても負けてしまう事が増えています。窮屈で、しかも面白くないのです。そんな今では、私の体に目移りしないのは私の家族と、セバスちゃんくらいのものです。


「ねぇ、真央は修学旅行の自由時間どうするの?」

「特に決まってないけど、あ、お土産を買わないと」

「へぇ親に?」

「ううん。幼馴染みだよ」

「真央の幼馴染みっていつも真央にくっついてるあの? 可愛い感じの?」

「うん、多分その幼馴染みだよ」

「へぇ、で、何を買っていくの?」

「木刀だよ」

「はぁ?」

「ふふ、そうなの。リクエストがね、木刀なんだよ」


 クラスメイトの彼女はなんとも言えない面白い顔で言いました。

 うん。確かにどうかと思います。私は修学旅行の2日目に女子なのに木刀を買いに行くんです。セバスちゃんは小さい男の子なのに木刀が欲しいのです。でも、それでいいんです。私はセバスちゃんの欲しいものを買ってあげたいのです。


 そして、楽しかった修学旅行が終わりました。

 私には一部の人が楽しみにしていた様な浮ついた事もなく、歴史的な見学には何も興味がなかったけど、友達と遅くまで話したり、トランプをしたり、おやつを食べたり、そういう楽しいがいっぱいありました。


「セバスちゃん、これ、頼まれていた木刀だよ」

「わ、本当に買ってくれたんだ」

「なかなか大変だったんだよ」


 本当に大変でした。

 まず、木刀を売っている店をクラスメイトに聞いたのが間違いの始まりです。クラスメイトが知っているお店という事は同じ目的のクラスメイト、主に男子が集まっているのも当然です。彼らは木刀を握った私を見て何かザワザワ言っていました。もしかしたら、女子のグループには聞こえないところで私には変なあだ名がついてしまったかもしれません。

 やれやれです。

 そういうところですよ。そういうところが私は嫌なのです。だから、今私が1番仲がいい男子は、どこまでも素直で私の顔を見て笑ってくれる彼なのです。


「でも、それ何に使うの?」

「分からない!!」


 すごくセバスちゃんらしいやりとりでした。

 でも、その後にセバスちゃんがしようとした事は私にもすぐに分かりました。


「ありがとう。真央、ちょっとそこにいてね」

「え? セバスちゃん??」


 セバスちゃんは木刀を受け取ると私の前で膝をつき、木刀をその上にねかせました。


「どうしたの?」


 そう聞いたけど、私は知っています。

 それはいつかに2人で見たアニメのシーンで、お姫様に忠誠を誓う王子様の儀式。


「これで、僕が君を守るよ」


 思わず耳が赤くなりました。

 セバスちゃんは、ただあの王子様の台詞を真似しただけだけど、彼の声では聞き慣れない『君』という大人びた響きが妙に気恥ずかしさを増していました。


「ありがとう。じゃあ、セバスちゃんは私の王子様だね」

「王子様じゃなくて騎士だよ?騎士の誓い!!」

「うん、頼りにしてるね」


 ホッとしました。

 セバスちゃんが訂正のために子供らしい仕草をしてくれなかったら、私の耳の赤はどこまで広がっていたか分かりません。緊張が溶けて緩んだ笑顔で、でもまだ少し心の揺れていた私は彼に少しだけ、私らしくないことをしてしまいました。


「約束だよ?私の王子様」

「え?あ……うん」


 唇に触れた頬の感触は柔らかでした。

 思ったよりずっと柔らかくて、よく分からないけど、特別な気持ちでした。セバスちゃんの小さい小指に私の小指を絡めて、ほんの一瞬、唇を這わせた誓いのお返しはまだ子どもだった私たちには少し早かったのかも知れません。


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