そうだね。BBQに行こう
「春先といえば、そうだね。BBQに行こう」
「貴方、春先とBBQって関係あるの?」
「知らん。お前は余計なちゃちゃを入れたがるな……」
「余計……かしら?」
怪訝なお母さんと上機嫌なお父さん。
今日は家族でBBQ。それもなんと、セバスちゃんとそのご両親も一緒なのでとても楽しみです。
「さぁ真央ちゃん乗ってね。いつも杉雄をありがとう。迷惑かけてないかしら?」
「いえ! セバスちゃんはとても良い子ですよ」
「セバスちゃん? あぁ、もうあだ名があるの?」
「真央が勝手につけたんだよ」
「はは、あだ名なんて勝手につくものだろう?それより杉雄、やるじゃないか。お前もう下の名前で呼んでいるのか!?」
「そ、そんなんじゃないよ。変な勘ぐりしないでよ!!」
セバスちゃんのお母さんはとても優しそう。
いつもニコニコでパートで働くのは趣味で週1、2日、後は家事をしているそうです。優しそうな雰囲気がセバスちゃんにそっくりなお母さんで、お父さんは、えっと、あまりセバスちゃんに似ていません。
「さぁとばすぞ。河川敷なら5分で着くだろ」
「おいおい、雄大!!ナビに30分って出てるぞ。安全運転で頼むぞ!?」
「お前……良い親父になったな。バイク乗りに恐れられたスピードスターの真人はどこに行ったんだか……」
「雄大、ちょっとストップ!!その話は家族の前でしないでくれ」
一目で分かるパワフルなお父さんで、身体も筋肉質。
サラリーマンをしながら会社の剣道部で主将をしているそうで、お父さんはこんなにスーツが似合わないサラリーマンは他に知らないと言っていましたが、確かに、その丸太みたいな腕を見ていると嘘ではないのかもしれません。
……
高速道路を降りてすぐに河川敷が見えました。
大きな橋の下に駐車してランチ用マットを4枚、その上に荷物で飛ばないように置きました。セバスちゃんのお父さんが大きなテーブルとBBQのセットを用意しているとセバスちゃんのお母さんがクーラーボックスの食べ物をとまな板、包丁をテーブルに並べました。
橋の下の日陰に入るとひんやりと涼しく、自然と大きな伸びが出ました。
橋の外で照り付けていた太陽が嘘のような心地のよさでした。風は穏やかで水面には日の明かりが映ってキラキラしています。
「へぇ、春といっても川辺は涼しいんだな。よし、釣りでもするか」
「良いわね。雄大さん私と釣り勝負なんてどう?」
「お? やるのかい? 美央さん」
「昔……少しね」
「惜しいな男だったら罰ゲームでもかけるところなんだが……」
「良いじゃない。スケベなのでなければ良いわよ」
セバスちゃんのお父さんと私のお母さんはとても気が合いそうでした。
「おい雄大!! 人の奥さんとイチャつく暇があったらBBQ手伝えって!!」
「あぁ、悪い……けどもうシートは広がっているし、野菜は全部切ってあるじゃないか……俺の仕事あるのか?」
「流石私の旦那様ね。スピードスターの輝さん?」
「ぐ、雄大……後で絶対許さないからな……」
「まぁまぁ真人さんも一緒に釣りでもいかが?お肉が焼けるまで私が見てますから」
「あ、小春さん。それじゃあ悪いですよ」
「何を言いますか。ここまで全部やって頂いたんですから、少しくらいお手伝いさせてくださいな。あぁ、それとクーラーボックスのお酒、そろそろ冷える頃ですよ」
「え……本当に良いんですか?なんだか申し訳ないです」
「おーい、スピードスター! 早くしないと先に釣り勝負始めるぞー」
「あ、馬鹿雄大!だからその名前で呼ぶなって……あー、もう待ってろよ!!」
駆け出していくお父さんを見送りながら私とセバスちゃんは苦笑しました。
「気のせいかな僕の父さんと真央のお母さんすごく気が合いそうじゃない?」
「ふふ、私のお母さんとセバスちゃんのお父さんもね……」
勘違いしないでくださいね。
不倫とか、そういう事が全くなさそうな仲睦まじい両親同士だから私たち子どもは気兼ねなくこんな話ができるのです。運命が違ったら、そんなこともあったかもなんていう話しを、笑い話に出来るのです。
セバスちゃんのお母さんが手際よくお肉と焼き上がるのに時間がかかる野菜を焼く。
「焼けるまでに戻ってくるかしらね?」
「お母さんは帰ってきますよ」
「あら、自信満々ね」
「家に釣り大会のトロフィーがありました」
「あら、これは今頃大焦りね……ウチの旦那」
「え?」
「負けず嫌いなの。すっごく」
「へぇー……」
それはますます、セバスちゃんとは似ていないなと思いました。
焼けた食べ物を種類で取り分けて紙皿に載せます。上からアルミで覆ってちょっとだけ保温してお父さんたちを待ちます。私はショートパンツを履いていたのでサンダルに履き替えてセバスちゃんと水遊びをしました。春先の川はまだ冷たくて短い時間で川を出ました。家から持ってきた学校用の水着を使えなかったのは少し残念でしたが楽しかったです。川から上がり、日に当てていたバスタオルを羽織るととても心地が良い温かさが身体にジンと伝ってきました。
お母さんたちが帰ってきたのは結局、約束から30分遅刻しての事でした。
といっても、普段から時間に厳しい私のお母さんは約束した時間よりピッタリ5分前に帰ってきて、1番大きな魚を手にしていました。
そして、セバスちゃんのお父さんが負けず嫌いなのは本当のようでした。
30分も遅れて帰ってきたセバスちゃんのお父さんは子どもの様に拗ねた顔をしていて、手にはお母さんの半分くらいの魚を持っています。その横で勝ち誇った顔のお父さんはお母さんとセバスちゃんのお父さんの間くらいの大きさの魚を持っていました。魚たちはセバスちゃんのお母さんに手際よく三枚におろしてくれました。
「旦那が釣竿を積んでいたから、持ってきて良かったわ」
セバスちゃんのお母さんはそう言うと、サラダ油を鞄から出しました。
アルミホイルをお皿みたいな形にしてフライパンの代わりにすると、そこにたっぷりサラダ油を入れて魚を素揚げにしました。
「はは、これは凄い。キャンプ、思ったよりずっと豪勢な食事になったじゃないか」
「小春さん料理上手なのね……今度ちょっと教えてくれるかしら?」
「はい。私で良ければ……あ、では交換でどうですか?」
「? ……交換ですか?」
「はい。代わりに、私に釣りを教えて下さい。料理をするのも好きですが、時々は旦那と一緒に釣りにも出てみたいなと思いまして」
「へぇ、旦那さんと釣りデートだ。良いわね」
「そ、そんな……つもりは……」
そう言いながら頬を赤くしたセバスちゃんのお母さんは、お母さんなのになんだか可愛い女の子みたいでした。
楽しい1日でしたが、残念ながら私はその後のことを覚えていません。
遊び疲れた私とセバスちゃんはお腹がいっぱいになると車の後部座席でどちらとも無く眠ってしまったのだと、お父さんが後で教えてくれました。
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