魔王の従者ー仮面の王子様ー
不適合作家エコー
幸せってなんですか?
幸せってなんでしょうか。
何かのアニメで言っていました。
「幸せな人は自分が幸せな事には気づけないんだ」
本当でしょうか。
私は今を幸せなんて思えないから、心の底ではその言葉をずっと疑っています。
……
小学校低学年の頃、私に弟が出来ました。
本当の弟ではありません。近くの家に住む3歳年下の男の子で、その家のお父さんは私のお父さんの高校からの親友だと言います。でもそんな事はどうでも良くって、私はずっと欲しかった弟が出来た事に大喜びでした。
「真央は今日からお姉さんだ。しっかりしなさい」
「わぁ!うん!!よろしくね!!えっとお名前は言える?」
「洗馬、杉雄だよ」
「洗馬杉雄……杉雄君?杉雄ちゃん……あ、セバスちゃん!!私は真央だよ!よろしくね」
さっそくあだ名をつけた私にセバスちゃんはちょっと嫌そうな顔をしていましたが、私はそれを気に求めずにその手を引きました。
「まずは、そうね。遊びましょう?鬼ごっこか……氷鬼、色鬼でもいいけど何がいいかな?」
「え?僕外で遊ぶのはあんまり好きじゃなくて……それに、鬼ごっこは2人じゃできないよ?」
「大丈夫だよ!公園に行けば友達は見つかるからっ」
「え?あ、ちょっと真央ちゃん!?ねぇ聞いて!!」
「あはは、真央でいいよ」
だって君は今日から私の弟なんだから。
くりっと大きな瞳をした小柄で華奢な男の子。ちょっと引っ込み思案だけど、優しい子だなって思いました。それに何より……
「鬼ごっこする人この指とーまれっ」
「お、するする!」
「あ、真央ちゃんだ!今日は負けないよ」
滑り台と砂場しかない小さな公園で、私の声に5人の子供が集まったのを見てセバスちゃんは目を輝かせていました。
「わぁ、真央ち……真央は凄いね。ひと声でこんなに人が集まって!!」
なんだかくすぐったい視線で私は得意になって言いました。
「こんなのなんでもないよぉ。さぁ、遊ぼ?みんなで遊んだほうが絶対に楽しいからね」
まだ冬の寒さの残る中、足早な太陽が赤く光るまで夢中で駆け回りました。
「はぁーもう走れない」
「くそ、また捕まった!!なんで女の子なのに俺より早いんだよー」
「ふふ、みんな男の子なんだからすぐに真央より早くなるよ」
「ごめん。それ全っ然想像できない」
狭い滑り台に登って夕陽を見ました。
子どもでも5人も登には狭すぎる滑り台の上で、汗ばんだシャツも泥だらけのジーパンも気にしないで体を寄せ合い、滑り台よりずっと背の高いマンションに隠れてしまいそうな夕陽を追いかけてみんなで背伸びしました。少しでも長くそれを見ようと頑張っている間に日は暮れて、そうすると1人、また1人と迎えが来きて、今日も楽しい時間が終わってしまいます。それはすごく寂しい。
「真央ちゃん、また遊ぼうね」
「うん!またね!!」
その分、私はこの【またね】という約束が大好きでした。
……
私のお父さんは毎日夕食を一品買って帰ってきます。
いつも朝早くに仕事に出るけど、その分帰るのが早いそうでその時間はちょうど居酒屋さんが開く時間なんだとか……
「ただいま!今日は餃子だぞ!真央の好物だろ?」
「わぁ!うん!!真央、餃子大好き!!」
開店とほぼ同時に席についてお酒を一杯。
カウンターテーブルにある小さなTVに映る番組を見ながら小1時間、常連のお客さんとお話しをしてからお土産をもって家に帰ってきます。私の家では、お母さんの方が仕事の帰りが遅くて、夕飯の下ごしらえまでがお父さんのお仕事。
「真央、野菜切れたか?」
「うん。短冊切りでいいんだよね?」
「お、上手いぞ」
「えへへ、毎日お手伝いしてるもん」
「ただいまー」
「あ、お母さんだ!!おかえりなさーい」
「あ、こら、先に包丁をしまいなさい。あー、もう」
包丁をまな板に置いてお母さんを出迎える私の後ろからお父さんのため息がしました。私はお父さんが好きだけど、お母さんの事はもっと大好き。お酒の匂いがしないし、営業マンをしているお母さんはスーツが似合うとてもカッコいい働く女性で私の憧れです。
「あら、今日は餃子?」
「ああ、下ごしらえも済んでるぞ」
「この野菜、真央が切ったんだよ!」
「ふふふ、いつも悪いわね」
私が切った野菜はモヤシとキャベツ、それにニンジン。
今日はお母さんの得意な野菜ラーメンです。お母さんは料理が得意だけど、特にラーメンが得意。高校生の頃、アルバイトでラーメン屋の看板娘をしていたとか、初めは売り子で大人気だったけど、店長より料理が得意だったから厨房でも大人気だったとか……
「今日はな、シゲ兄が一杯奢ってくれてな……」
「うーん、悪酔いしないなら良いけど、お酒はほどほどにね」
「仕方ないのさ。これは職業病みたいなもんさ」
「え?お父さん病気なの?」
ラーメンと餃子。
みんなでいただきますをして1番に話し始めるのはいつもお父さん。少しのお酒で頬を染めて上機嫌なお父さんとそれを苦笑するお母さん。他愛無いお話しだけど、まだ小さい私はお父さんの言い訳をすぐまに受けてしまいます。
「お父さんの仕事は定時が16時なんだ。これは居酒屋の開店時間でな、帰り道には誘惑的な匂いがそこかしこからやってくるのさ……分かるかい?」
「そうだね!居酒屋だねっ!!」
「……」
「……」
愉快そうに笑うお父さんと白い目をするお母さんと私。
その後にはお母さんの仕事の話しやお父さんの居酒屋仲間との話し、私の家族はその日にあったことの多くを食卓で話すので、夕食はいつも1時間以上食卓に座っています。それはまるでお父さんとお母さんの1日も体験したみたいで私が好きな時間の1つでもありますが、最近はそんな楽しい家族が3人も増えたのです。
……
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