第32話 ロリで弓でロイヤル・アイシングで

翌日、準備万端に整えた3人はいよいよ来た楓との再会のチャンスを前に緊張と不安を覚えていた。


−−−また拒絶されないだろうか、と。−−−


ただこの場でクヨクヨしていてはせっかくのチャンスすらも棒に振ってしまうかもしてなかった。それだけは絶対に阻止したいので覚悟を決める。


〔今日がようやく訪れた再会の機会になるかもしれない。しっかりとこのチャンスを掴み取るよ!〕


そして目的の星に出発するのであった。



===



ウィティとその後も和気藹々とお喋りをしていると、いよいよある意味では懐かしい気配が近づいていることがわかった。


「…とうとう気づいちゃったのか〜。まぁ未来ではそうなるってけど。はぁ、会うの憂鬱だな〜。」


会話の最中に突然独り言をまた呟き始めた私の様子を、ウィティは心配そうに窺っていた。


♠︎そんな暗い顔をして…どうしたの、コウカ?何か…思い詰めてるようだけど…。何か…僕にできることがあったら…言ってね。♠︎


えーやだーなにこの可愛いぬいぐるみたいな生き物は。是非とも私の花婿(花嫁でもOK!)にきてほしいな〜。


…って何考えてるんだ、私⁉︎危ない危ない、私は

そっちの気はない…はずだ…よね?


危うく正道を踏み外しそうになっていたことなど露知らず、ウィティは今も心配してくれている。


この可愛い生き物、私の友達のウィティだった!私の友達の‼︎


「うんうん気にしないで。ただ神域から私を追ってきた人がいよいよここに来るだけ。


また会うのは正直鬱だけど、この機を逃したらもうけじめを互いにつけられなくなりそうだから頑張るよ。それが終わったら、お泊まり会をしようね。」


そういう私の様子を見て、ようやく安心したようでホッと胸を撫で下ろしている。


♠︎そう…。そういうことなら…待ってる。しっかり憂いを…晴らしてきてね。そして僕の家で…盛大に祝おうよ。♠︎


そんなこと言われたらやる気を出さずにはいられないじゃないか!この話し合い闘い、負けるわけにはいかないんだっ‼︎



===



《あっ、あれが楓様がおるて思わるー星やなあ。地球に似とって水が豊かな星なんやなあ。》


ついに最後のチャンスが巡ってきた。この話し合いの結果次第で未来は大きく変わるだろう。


[尊桜よ。綺麗ではあるが見惚れている場合ではないぞ。ここからは気を引き締めて行かねばなるまい。]


ムスッとはしているが、本人もわかってはいるので反論はしない。


〔ここで言い合うのはお終い。さぁ、元の生活を取り戻しに行こうよ!〕


尊桜とカスタの手を引いて、名もなき青い星に降り立つ。欠けてしまった1人日常に戻ってきてもらうために−−−。



===



降り立ってきたのは、やはり私を裏切った3人だった。のうのうと顔を合わせようと思った蛮勇だけは褒めるに値する…わけないじゃん!どこまで私の日常を台無しにすれば気が済むのさっ‼︎


袋小路の思考だけで怒りがこみ上げてくる。しかし今は1人ではない。すぐ近くにウィティの気配を感じられる。それだけで励まされている感じがして安心する。


怒りのオーラが収まったところでラーが切り出す。


〔楓ちゃん…あの時はごめんなさい‼︎〕


「あの時ってどの時のこと言ってますか?」


もちろん目は…押して量るべし。


〔それは…目先の利益に目が眩んで楓ちゃんを勝手に交換条件に挙げたとき、です…。〕


一応、私が怒っている理由の一端は理解しているようだ。もしそれすらわかっていなかったら、問答無用で帰ってもらっていたところだが。


「それだけではないですが…今はそれでいいでしょう。それでなぜここに来たのですか?並大抵の理由では帰らないことくらい、3人ならわかっているはずですが。」


それはもちろん楓に帰ってきてもらうためだと分かっているはずだ。だが、上手い理由が見つからない…。どうしよう、せっかく見つけられたのに帰ってきてくれないとか骨折り損になってしまう。


やはりというべきか、相も変わらず後先考えず突っ走っているようだ。ただ、そこが先輩らしいところであり、同時に甘いところでもある。いい加減自覚してほしいものだ。


「特に私を説得する材料はないようですね。それでは帰ってください。私には今からやることがたくさんあるので。」


見切りをつけて、膝を浮かせかけたとき、ラーとは別に待ったがかかった。


[見限るのはまだ待ってほしい。私らも闇雲にここに来たのではないのだからな。]


さっきからその目的を聞いているのに答えないのはそっちじゃないか。それなのに私が待つ必要なんてなくない?


《うちらがここしゃぃ来たんな、あんたに戻ってきてもらうためばい。理由はなか。》


[強いて言えば楓殿がいないと私らの関係が上手く纏まらないから、か。]


私がいる意義が見に染みて分かっているようで何よりだ。ま、戻るつもりはさらさらないんだけどね☆


〔やっぱり戻ってきてくれないかな?もうこれ以上この生活が続いたら、関係も崩壊する未来が確定的なんだけど。〕


ほうぅ…。どれどれ…。


「ふむぅ〜。ところそんなことが起こるのはけどねー。心配しなくてもよさそうですね。それで、後は何を交渉材料に出すんですか?」


マジですか…。楓ちゃん、いつかは【未来知覚】ができるようになりそうだとは思っていたけど、まさか家出中に習得しちゃうなんて…。


いよいよ並の神とはかけ離れていく楓の能力。それなのに感情的になると年相応な反応になるんだよね。可愛いとは思うけど、今は純粋に愛でれない。


[それならばこの交渉の結果も既に視えているということでいいのか?]


おっと〜、それは私も気になる…。


「その結果がわかっていたら、この場にはきてませんよ。」


ふむ...、どうやら視えていないらしい。自分に関する未来は視えないというテンプレなのだろうか?


「というか、どうなるかわからないことが楽しいのに、先がわかってしまったら退屈でしかないじゃないですか。」


えぇーっ…。視ようと思えばいつでも視れるということじゃないですか。どんなチートなんですかねそれ…。


《話ん論点がずれとーばい…。それで、楓様は今んところ帰ってくるつもりはなかっちゃか?》


こういう時に尊桜の冷静さはとても頼りになる。そもそも感情の揺らぎが激しいのは私だけなんだけどね。


「もちろん、帰るつもりなんてないよ。見ての通り今は私にとってここが理想郷なんだからね。ここを荒らそうっていうなら…覚悟を決めないといけないけど。」


この場所はもう楓にとって大切な場所になっていたようだ。もしかすると交渉を続けても、無駄なのかもしれない、と思わせる程度には。


[そのような心算はさらさらない。だからその殺気を抑えてくれぬか?そろそろ周りの環境に悪影響が出てしまうぞ。]


おっと、危ない危ない。自分で苦労して作ったのに自分で壊しては、今までの努力が水の泡になってしまう。


〔やっぱり戻ってきてはくれないか〜。でもこのまま諦めるわけには…。あーもうどうしよう‼︎〕


「別に戻ってもいいですよ?私が出す条件を呑んでくれたら、ですが。」


さっさとこのツマラナイ交渉を終えて、作業に戻りたい。その一心でとうとう妥協してしまった。


〔えっ⁉︎ 本当に?本当っに帰ってきてくれるの?〕


「いや、だから条件さえ聞き入れてくれれば吝かではないといっt…」


〔ぃぃぃいいいやったーーー‼︎ ようやく努力が実ったーーー‼︎〕


ダメだ…。やっぱり聞いていない。少しは落ち着きを覚えた方がいいと思う。


[それで、条件というのはどういう内容なのか?]


ここでも発揮されるカスタの冷静さ。彼女の不動の心は私が家出したあとから、さらに磨きがかかったようだ。…ていっても、ぱっと見無表情だから無感情なのかわかりにくい。


「そういえば言っていませんでしたね。簡単ですよ?


・こちらでの生活を全面的に認めること

・今まで以上に仕事をこなすこと


ね、簡単でしょ?」


いや、たしかに、たしか〜に内容自体は簡単だ。が、しかし、それを認めてはいよいよ楓ちゃんと同じ‘わーかーほりっく’になってしまうではないか!いやだ!“あの方、休めるときも健やかなるときも仕事をしていらっしゃるようですけど休んでおられるのかしら?”みたいな目で見られたくない‼︎


今後の人生が決まる選択が目の前に置かれると、どんな身分・種族に関係なく悩むものだ。


〔うおぉぉぉー!私はどうすればええんやっ!〕とキャラ崩壊を起こしていると、問題ないといった感じの軽い返事を私の隣から返す尊桜がいた。


《うちゃ全然問題なか。仕事が嫌すぎることもなかし。》


おや?私が知らないうちに尊桜ちゃんにも禁断症状が出始めてる…?


[私もその条件くらいなら呑もう。この不毛な時間はもう終わらせたいしな。]


票数2:1で交渉延長の負け‼︎


もう選ぶ権利など残っていなかった。


「これで先輩が拒否したとしても、多数決の原理に基づいて‘条件を呑む’になりますね♪おめでとうございます!」


〔いやだああぁぁーーー‼︎〕


さようなら、自堕落生活。おはよう、社畜生活。(2回目)


今日会ってからようやく笑った楓。だがその笑顔も所詮は風の前の塵に同じ。新しいトラブルが向こうからやってくる。


−−−ドーーーーーン‼︎


空から前触れなく降ってきたのは厄災のイメージからは程遠いものだった。


〈もおっ‼︎ 私のせっかくのティータイムを邪魔する不届きものはどこの誰なのかなっ‼︎ 今すぐ成敗してやる!〉


砂埃が収まった後に見えてきた姿はかなり戦闘には不向きなものだった。


ロイヤル・アイシングと漆黒のガーターに最小限の防具、背中に身体の2倍はある弓の神器蒼穹そうきゅうを携えた楓より幼く見える幼女神だったからだ。

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知識で乗り切る異世界生活(?) 饅頭屋せんべい @manjuya-senbei

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