第31話 頑張れば報われる

とにかくただ事ではないので声がした部屋に急いで向かう。


勇ましい声で発狂したのは容姿は3人の中で一番幼いように見えるカスタだった。


そして先に様子を見にきていた尊桜がカスタと同じく、鳩が豆鉄砲くらったかのように目を見開き驚いていた。


〔カスタちゃん⁉︎ 似合わない声を出してどうしたの?〕


私が声をかけると、ようやく我を取り戻したカスタがその原因を見せてくる。


と言っても、見せてきたのは暗号の結果ではなく、その向こう側にあった机だった。


その机の上には乱雑に置かれた(おそらく暗号解読の途中で出来たのだろう)紙の束があり、さらにその上に黒光りする数cmの物体が乗っていた。


そうGだ。種族、宗教、世界などに関係なく共通で嫌われている(一般的に)生き物だ。ある意味ではエンペラーともいえるだろう。私にはその感性はわからないが...。


尊桜とカスタも例外ではなかったようだ。尋常なく集中していた2人の集中をも乱すゴッキーは、もはやその分野の神ともいえるのでは?


ともかくこれ以上は不利益にしかならないので、早々に退場してもらおう。


掃除用のポケットに突っ込んでおいたゴム手袋をとりだし、やたらと硬い外骨格を掴む。


かろうじて立っていた2人は私のその姿を見て、とうとう床にへたり込んだ。そして私に奇異の眼差しを向けてくる。


“…なんでこれといってやばいことなんてしていないのに畏怖の目で見られているのだろう。”と、黒い悪魔を鷲掴みにしたまま思っていた。


しかしこの場にいても邪魔になるだけなのを思い出した私は、Gを捨てるために部屋を出た。


−−−


夕食の時間になり、晩ご飯の仕上げに取り掛かっていると尊桜が2階から降りてきた。


顔や目は疲れからか既に輝きを失いかけていた。


〔そ、尊桜ちゃん…。それほどに大変な作業なの、暗号解読は?〕


心の隅で密かに安堵していた私は、好奇心半分、進捗状況の確認半分で聞いてみる。


《あー、それやっぱり聞くよねー。知りたかと?後悔するて思うばい?》


え?ナニソレ…。そんなにやばいことでも書いて

あったのかな?


[小さな文字の方は解読できたんだが...。]


《居場所んカギになるやろう数字ん方はかろうきしなんや。しかもわかった小文字ん方はあからしゃまにうちらば断罪したかっていう気持ちが溢れ出とったけんね。》


それ、わりと詰んでるんじゃ…。そもそもなんで小文字の方でも解けたのかすご〜く気になるけど。


〔それじゃあ、数字を解読するにはまだ時間がかかるってこと?〕


[それに関しては問題ない。数字の方は私が担当していたのでな。それに、もう解けた。]


今なんて?さらっとトンデモナイコト言わなかった?聞き間違いかなー。そうだといいなー。現実って甘くとろけるチョコじゃないからなー。


[数字の方が意味していたのは


“ここから最遠の場所にいる”


という感じだったが。これでは結局探す星が増えただけではないか。]


最遠の場所か…。そんなに遠くに、茶の楽園を作るのにばっちりな場所なんてあるのかなぁ?


《あぁ、こん時んためんリストなんやなかと?絶対楓様はそげん目的で作った訳やなかとは思うばってん。》


え、でもリストって生命の有無で分けられてるん

じゃなかったっけ?


私の心を見透かしたかのように、尊桜は勝ち誇った笑顔を向けてくる。くそっ、イラかわいい‼︎


《それに関しては問題なか。神域からん距離別に分けられたリストもちゃ〜んとあったけん。》


なんで尊桜ちゃんが作ったのでもないのにドヤ顔してるんだろうか。可愛いからいいんだけどさ。


[ではどれくらいの星が候補に残りそうなのだ?]


カスタが聞いた瞬間に視線が漂い始めた。これ、ダメなやつだ。


《必要なことやけん言うばってん、たまがらんでくれんね。》


一度言葉を切って深呼吸をする。


何度かすううぅぅー、はああぁぁと大きく深呼吸をした後、よしっと呟いて覚悟を決めた。


次に出てくる悪い数字がどれほどなのかを緊張した面持ちで待つ。


《…1万とんで12ばい。》


増えてるっ⁉︎ ちょっと待ってよ!桁一つ繰り上がってんじゃん‼︎ もうやだよぉ〜!


などと切り開かれた未来(絶望しかない)を嘆いていたので、まだ何か言いたそうにしている尊桜の様子に気づくのに遅れた。


そんな私の様子に見かねたのか、小さくため息をしてカスタが続きを促す。


《こん10,012ちゅう数字はフィルターばかくる前ん母数ばい。ここしゃぃ条件ば加えて絞り込むと18まで数ば抑えられた。》


スゲェーーー!1%未満までに落とし込むとかどこの神業だよ!もしかして私の加護が働いたのかもしれませんね♪…現実見ろーわたしー。


改めて考えなくても私の加護が働いてどうこうなる話ではない。だってぇ〜、私の加護の効力、豊作になるとかばっかだしねっ⭐︎


[さっきから笑って落ち込んではしゃいで虚ろに

なってと表情をコロコロ変えて頭でもおかしくなったのか?]


〔えっ⁉︎ 顔に出てたっ⁉︎ うわぁー、恥ずかしいよ〜!…というかそれ、私の反応が鬱陶しいって暗に言っていない?〕


先ほどの表情展覧会のことはなかったことにした。そうしないと話が進まないしね。


〔それでその18ある候補の星のどこにいるかまで見当はついているの?〕


一応は聞いてみたけど、そこまで見当が付いているなら今までの全ての行動が水の泡になっちゃうからやめてほしいなー。でもはやく楓ちゃんを見つけ出したいし…。あーもう、頑張れ私っ‼︎


《そこまではわからんやった。ただ、それに関連するかはわからんが面白かことは見つけたばい。》


面白いことぉ〜?精神クライシス寸前のこの状況でよくそんなことをヌケヌケと…、ふざけるな!詳しく聞かないわけないじゃないか‼︎


〔面白いことの〕


[詳しい内容は?]


素直でまっすぐだった尊桜は今でははぐらかすということを覚えてしまったようだ。誰だ、他人の純情を汚したのはっ‼︎


ブーメランを思いっきり投げたことには全く気がつかないラーだった。


《実はやなあ、風ん噂でちょうど楓様が家出した頃に聖霊たちん活動が活発化したげなばい。もしかしたら楓様は聖霊たちん力ば借って何かしとーんかもしれん。》


そんな噂は聞いたことがありません一切。何をしたらそんな話を耳にするのだろうか。聞いてはいけないことの気がしたのでグッと我慢する。


〔ということは最近急に変化があった星にいる可能性がかなり高いということだね。〕


《そう思うて調べてみたら、1カ所だけ該当する星が見つかった。どうすると?》


やはり尊桜は行動が早い。そして1カ所に絞られたとなれば答えは一つしかないだろう。


〔もっちろん、行くしかないでしょ!〕


こうして楓捜索は佳境を迎えるのであった。

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