第30話 新しい世界への扉はすぐに開く
尊桜とカスタが明らかに微妙な顔をしている。何も言っていなくても“何言ってんだ、コイツ。”って顔に書いてある。
…ふっ、これだから頭が回らない奴は理解が遅くて困るゼ!
〔そんな顔しないでよぉ。まだ何も詳しく言ってないんだからさぁ〜。〕
[それはそうだが、些か現実味をゴミ捨て場に捨ててきた者が放つような言葉だったのでな…。]
《訝しまれたっちゃおかしゅうなかことば言いよーんば自覚してくれんね。》
おっと、どうやら想定以上に私は馬鹿だと思われていたらしいなんでだよ...。私以上に聡明で頼りに
なって神様らしい神様っていないでしょ!
〔はい、私の株が大暴落して超デフレを起こしているのはあとで解決するとして。その方法っていうのはね…。〕
私が提案したのは、
どうにかして連絡をとり、話し合いに応じてもらう。その際に多少の楓への譲歩は辞さない。
というものだった。
《確かにそん方法ならまた会えるばってん、問題はいくつかあるんやね。まず連絡ば取る方法がなかこと。》
[そして主人殿が話し合いに応じるメリットがないこと。さらにどれほどの譲歩をしなければならないか不明なこと、と言ったところか。]
ぐっ...、やはり痛いところをついてくる。これだから頭がいい奴はいけ好かないわ。言うこと全てが的確で、でも感情面を一切考えないから無性に苛立たせるやつ…。
《そもそも交渉ん場に来てくれんていう可能性もあるんやしね。》
[こんなガバガバな作戦は本当に作戦と呼べるものなのか?これではただの願望ではないか。]
しょーがないじゃんか!どれだけ考えてもあの叡智の女神である楓ちゃんを出し抜ける作戦なんて思いつく訳ないんだし‼︎ それから私、農耕の女神だし‼︎‼︎
文句を言うなら意見くれ!
〔なら一つ一つの星を虱潰しに捜しに行く?〕
今の私にとっては天啓、3人の置かれた状況的には絶望の1フレーズをくれてやる。
たった一言だったのにバラバラだった心境は再び寸分違わず一つになる。すなわち−−−もうあんな短調作業なんて嫌だ−−−と。
同じ気持ちになった者の扱いなんて朝飯前だ。
〔尊桜ちゃんは今一度楓ちゃんの部屋に行って何か手がかりがないかを探してきて。カスタちゃんは私と一緒にリストからの洗い出し作業ね。それじゃあ始めましょう!〕
掛け声を合図に動き出す。
−−−首を長くして待っていてね、楓ちゃん!必ず見つけ出すからね‼︎
−−−
しばらく手がかりを求め、リストを洗い出していると、何故かマークされている星の名前があった。
〔ねぇカスタちゃん。これ、どういう意味だと思う?〕
私とは逆に生命が存在している星リストを漁っていたカスタは、
[わからぬ。ただこちらにも数カ所だけ印をつけてある星があった。おそらく主人殿はこれらの星のどこか一つにいるのではないか?]
確かにその可能性は高いが、そんなにわかりやすい手がかりを残してくれるような性格ではないから、別の意味である可能性も十分にある。
策士は味方にいると心強いことこの上ないが、敵に回るととにかく面倒くさい。しかも今回の相手は叡智の神だ。面倒臭さは既にカンスト中。もしかしたら限界突破もワンチャンあるかも!
勝負中に進化する敵ほど、“それ、チートだろ!”と抗議したくなることはない。
〔その線もあるね。けど別の可能性もあるから念には念を入れてもっと調べてみよ。あとはこのマークの色の違いも明らかにしたいしね。〕
カスタが頷くのを見て、作業に戻る。この作業も今回で終わりにしたいものだ。
さらに数刻すぎて、慌ただしく降りてくる足音が聞こえてきた。
[尊桜殿、もう少し静かに降りてくるくらいせぬか。はしたないぞ。]
尊桜にしては珍しく取り乱していた。(最近は取り乱した尊桜の姿は珍しく無くなってきたが。)
…これはかなりマズいのでは?
尊桜が慌て回る事ばかりが起こっている最近の非日常さに危惧を覚える。
だが今尊桜が慌てているということは何か新しい手がかりが見つかったのだろう。
《2人とも!今回ん【家出計画書㊙︎】っていうのが出てきたっちゃんっ!》
…世紀の大発見、私たちにとってはまさに国宝級の
〔本当にっ⁉︎ それ、私たちを泳がせるためのトラップじゃないよね?〕
散々捜し回ってな〜んにも見つからなかった辛い経験(最近のただの徒労)があったので、出てきた手がかりも簡単には信じられなくなっていた。
[それが事実だという確かな理由はあるのか?もう引っ掻き回されるのは勘弁してほしいのだが…。]
同じ気持ちを共有している私たちは、考えていることも同じだった。
《そりゃ…確証はなかけど…。ばってん、金庫ん
ロックば外して出したけん重要書類で間違いなかて思うっちゃけど…。》
−−−ピシッ。
空気が一気に凍ったのを感じた。
尊桜もその空気の変化を感じ取ったのかオロオロしている。ただ急に変化した理由はわかっていないらしい。
〔尊桜ちゃん...。金庫の鍵を開けられるの…?〕
《え、あ、はい。しきるけん今ここしゃぃ手がかりになりそうな書類ば持っとるんばいけど…。》
−−−ヤヴァ〜イ。この話し合いが終わったら、すぐに金庫の中のものを絶対に目のつかない場所に移しておかないと。
金庫の中なんて見られたらマズいあ〜んなものやこ〜んなものが山ほど入っている。それをいつの間にか開けて見られたら、軽く死ねる。
[尊桜殿は天性の才能で盗人かハッカーの能力でも
持っているのか?それとも…日本に行った時にでも身につけたのか?]
警戒心を包み隠さず言葉に乗せてカスタは聞く。流石にマズいことをしでかしたことに気がついたのか、しかし開き直ったような声音ではっきりと答える。
《えぇ、身に付けたばい。確かにテクニックは盗人ばいばってん、うちゃいつか役に立つことがあるて思うて習得したばい?実際今回役に立ったやなかと!》
おぉぅ、まさか逆ギレされるとは思わなかった。しかもあの優しい尊桜ちゃんが、なんて。
[これこれ一旦落ち着け、尊桜殿。別に私たちはお主を責めているわけではない。その技術に助けられたのも事実だからな。]
1番の冷静さを保っていたカスタが上手に場を執りなしてくれたおかげで、険悪になっていた雰囲気もなんとか持ち直した。
〔そ、それじゃあ話が逸れていたけど、中、見ちゃおっか。タイトルからして明らかに怪しいし。〕
居心地の悪い空気にとどめを刺して、カスタからのせっかくの助け舟に上手く乗れた。
《…そうやなあ。それじゃあ開くるばい。》
尊桜が家出計画書㊙︎と書かれた表紙をめくる。するとそこに書かれていたのは−−−。
⦅lJJr38四零KsBDt50gY三零LkV48yPLZuB四一i⦆
1ページの真ん中に、ただこれだけが書かれていた。どこからどう見ても暗号だ。
[これが解読できれば居場所が分かりそうではあるが…ヒントなしではやはりわからんな。]
少なくとも私や尊桜よりは楓の思考に近いカスタも、この暗号の前には無残に玉砕したのだった。
《大きしゃん違う文字や、表記ん違う数字には何か意味がありそうやなあ。…ばってん意味は全くわからん。》
カスタに続き尊桜もギブアップ。いよいよ詰みに王手をかけた!
しかしそこはわ・た・し。この程度で諦めていては同じく家出してる身としては負けた気しかしない。そんなのは勘弁だっ‼︎
私と暗号のにらめっこは次のご飯の時間まで続いた。しかし結局解読は出来なかった。
すごく…、悔しいです…‼︎
時間をかけて家中を探し回って、手がかりらしきものは見つかったものの結局使えない。つまりは時間の無駄だったのだ。この事実は3人に追い討ちをかけるには十分だった。
〔…今日はもう寝よっか。〕
何をすればいいかわからなくなったら取り敢えず寝る。これが一番!
というわけで3人は自分の部屋に戻って一晩を過ごした。
翌日、みんな揃って目の下には塗りつぶしたかのような隈ができていた。
〔2人とも、どうしたの?昨日よりやつれてひどい顔になってるけど?〕
[それをいうならラー殿、お主も同じぞ。]
私は昨日自室に戻ったあと、どうしても寝付くことができずにいた。そこで眠気が強くなるまでの間で暗号解読に向けて頭をフル回転させていた。その結果、徹夜コースになったのだった。
〔それで2人は解けたの?〕
最後の最後まで時方の片鱗も思い浮かばなかった私は、望みを2人に託していた。
諦めがいいので評判なラーですはい。
[小文字は暗号が示す本文とは関係ないことくらいしかわからんだ。]
え…、それ結構重要なことじゃない?私、そんなこともわからなかったんだけど…。
《うちゃ小文字以外は数字に変換する必要がある、ちゅうことまではわかったばい。》
カスタよりも一歩進んだところまで解読していた尊桜。なんだか何もわからなかった自分の無力さが恥ずかしい…。
[ん?尊桜殿、どうかなさったのか?]
流石にラーの様子が変に気づいたらしいカスタが心配をする。
〔いやぁ、何も出来なかった私の能力が情けなくってねー。特に気分が悪いわけじゃないから気にしないで。〕
その心配は必要ないので遠慮する。というか善良な眼差しで心配されると尚更罪悪感がすごい。
《特に問題なかならよかっちゃけど…。体調が少しでも悪かなら遠慮なんてしぇず、しっかり休んでくれんね。》
それだけ言うと、2人はまた暗号解読に意識を集中し始めた。
…何もできない自分はどうすればいいのだろう。食事の用意とか掃除とかだろうか?頭が回らない私には出来ることなんて限られているけど。
いかんいかん、ネガティブな思考は全ての行動に悪影響しかないから気をつけないと。
とは言っても謎解きなんて3食食っても発想が下りるとは到底思えない。
そういうわけで家の中で出来ることをそつなくこなしていく。家事って意外に数が多くって大変だわ。掃除、洗濯、食事作り、etc...
とにかく尊桜やカスタが考えている間、彼女たちがしてきた家のことをなるべく済ましておく。
最初は、
〔いやだーーー!そんなめんどくさいことなんてしたくない‼︎〕
と、駄々をこねたくて仕方がなかった。しかしやっているうちになんだか楽しくなってきた。これは将来主婦っていうのも悪くないかも…。
そのとき、狂声が家中に響き渡った。
何事かと思い、急いで声を発した張本人の元に駆けつけた。
にしてもあの叫び声、“あぁぁぁぁぁあっ!”(cv:女の
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