第29話 追い詰められると思考は曲がる
「はぁ、はぁ、はぁ。風の使い方が、はぁ、うますぎる。自分に当たる風は追い風にして、はぁ、私に当たる風は向かい風にしながら逃げるとか、はぁ、さすが風を司る大聖霊…だね。はぁ、はぁ。」
息を切らしたが、なんとかウイエリティアに追いつくことに成功した。
♠︎そういう君こそ、僕に追いつくとは、かなりやるじゃないか。おかげで、魔力切れ寸前だよ。これは参ったなぁ〜。♠︎
追いかけっこを全力でやったのは久しぶりで童心に戻った気がした。
久しぶりにやると意外に楽しい…。
♠︎君なら僕、友達になってもいいな。なんだか僕と通ずるものを感じるし。ダメ…かな?♠︎
ウイエリティアは手を組み、上目遣いで聞いてくる。
や、やめて…!そんな目で私を見ないで〜‼︎
「う、うん。私こそお願いね。あっ、せっかく友達になるんだったら、愛称で呼び合わない?」
ウイエリティアってなんだか呼ぶ時長いなぁと思っていたので、ここぞとばかりに提案してみる。
♠︎互いに…愛称…?♠︎
「そうだよ!親愛の証としてお互いの愛称を決め合うの。嫌だった...?」
♠︎ううん、すごくいい!今から決めるの?♠︎
「今すぐじゃ無くてもいいよ。」
特に急いてるわけでもないのでゆっくり考えて、慣れていってもいいだろう。
♠︎なら…今決めたい。ちょっと待ってて。♠︎
そういうと、近くに置いておいた角材の上にヒョイっと乗って、ぶつぶつと考え始めた。
…長くなりそうだなあ〜。
今できることを進めて、のんびり待っていると、
♠︎決まった…‼︎♠︎
という声が聞こえてきた。ウイエリティアの元に寄っていく。
追いかけっこをしてわかってきたが、ウイエリティアはあの4人の中で1番乙女らしい一面を持っている!普段は恥ずかしくて隠しているようだけど。
そういう友達の一面も、可愛い‼︎
「どんな愛称に決めたの?」
♠︎えーっとね、名前が短くて難しかったんだけど、琥珀色の眼に名前の楓から†コウカ†っていうのは…どうかな?♠︎
「うん、いい!すごくいい‼︎ 私はウイエリティアのことウィティって呼ぶね♪」
♠︎ウィティ、ウィティかぁ〜。えへへ♪♠︎
「喜んでもらえてよかったよ。これからもよろしくね、ウィティ!」
♠︎うん、僕の方こそよろしく、コウカ!♠︎
友情の握手をして、笑顔でウィティは帰っていった。
勿論残っていた二十数回はきちんとしてもらった。
「やっぱりああいう可愛らしい姿を見せられると、年端もいかない少女っていう印象しかないなぁ。」
最初会ったときと今とのギャップを感じて感傷に浸る。
最初は上に立つものとしての責務からくるプレッ
シャーやストレスでメンタルブレイク寸前のようにも見えた。
その影響で周りで起きることに無頓着になりつつ
あったようだ。
それが私と出会ってから今に至り、ようやく年相応の笑顔を見せた。それはたまらなく嬉しい。
「なんだかんだいって私のことを少しずつでも認めてくれているのかなぁ…?」
それは考えても仕方がないことなので頭の片隅に退ける。
「次しないといけないのは…光量の調節かな。となるとディセクトムに頼むのが1番いいよ、ね?」
なぜか不安を覚えつつも連絡を入れてみる。
「お〜い、ディセクトムぅ〜。今からこっちに来れるぅー?」
4人目ということもあり、かなり気が抜けた口調になったいた。
その上あの4人の中では1、2を争うほどにはラフな性格だと自己紹介の時に感じたからでもある。
♦︎なんだ、楓よぉ。俺ぁ基本誰かと遊んでいるからそれの邪魔されるのは気分が悪いんだわぁ。しょうもねぇ用件じゃあねえよな?♦︎
ちょうど今遊んでいて、その邪魔をしてしまったようでか〜なり不機嫌だった。
「これから手伝ってもらいたい仕事があったんだけど…お邪魔だった?」
申し訳なさから声のトーンが自然と下がってしまう。
なんだか私、聖霊たちに連絡をするたびに萎えている気が…。
♦︎おいおいそんなに気を落とすんじゃねぇよ。別に手伝わないわけじゃないんだ。ただタイミングが悪いからあとでもいいか?♦︎
「強制じゃないんだからそんなに罪悪感を覚える必要はないよ。じゃあ後で手伝ってね。」
♦︎わーってるって。約束は守る。♦︎
連絡が切れた後、
どうやって時間を潰そうか、いや考えるまでも無くやることしかないな。家を建てるのとかまだ始まってもないし−−−。
などと悟った笑顔で1人虚しく笑っていた。
あぁ、これも癖になってる…。
===
〔ねえ、ふと思っちゃったんだけどさ。生命がいるかいないかで判断できるのかな?〕
《しきるて思うばい。生命んおらんってことはなんらかん条件が不足しとって、誕生しぇんってことやけん。》
それは普通に考えればそうなるが…。普通じゃないからなー、私たち。
[それは普通はそうだが、楓殿は最高神級の力を持っているのだぞ。少しくらいなら自分で作り出せてもおかしくあるまい。]
おぉ、私が思っていたことをカスタはみごとに代弁してくれた。
話し方が渋くって苦手だったんだけど意外に気が合う…のかな?
〔ま、とにかくその可能性も視野に入れて絞り直すとしますか!〕
さぁ〜!
過去の自分をぶん殴りたい...。
===
いやぁ〜。罪悪感を感じる必要はないとは言ったけど、まさか丸1日待たされるとは思わなかった。
クッッソ、信じた自分を殴りたいっ…‼︎
♦︎はっはっはっ!まさかマジで待ってるとは思わなかったぜ。律儀なもんだなっ‼︎♦︎
悪びれずによくものうのうとそんなことが言えるな!…などとは口が裂けても言えない。
「こ、こんなに遅くなるんだったら昨日のうちに連絡の一本でもほしかったんだけど…?まさか1日も待たされるとは思わなかったなーっ!」
かろうじて煮え繰り返る腹わたを押さえつけ、遠巻きに皮肉る。
♦︎はっ!俺が手伝う義理はねぇからな!気分が急に変わったんだからしょうがねえだろ。♦︎
よし決めた。今後コイツには何も頼まない。なるべく
「わかったから、もういいよ帰って。そんなに面倒ですオーラを放っている奴と一緒に作業をしても、私も不快だしお互いに利益がないでしょ。」
別に聖霊たちに手伝ってもらわなくても時間さえかければできる作業だ。嫌な思いをしてまで手伝いを乞う必要は微塵もない。
…てか純粋にこれ以上関わりたくない(2回目/切実)。
♦︎なんだよ、せっかく来てやったのに帰れとか。自己中にも程があんだろーが。もういいわ、お望み通り帰らせてもらうからよぉ。♦︎
捨て台詞を吐き、帰っていった。
♦︎なんだよぉ〜、グスン。せっかく美容院とか理髪店で調整してもらったのによぅ、グスッ...。♦︎
などと言っていたのは気のせいだろう。…悪いことしたかな?いや、していないはずだ、多分。
ディセクトムが帰って間も無く、ウィティがやってきた。
♠︎ねぇ、コウカ。ディセクトムと何かあったの?あいつ、帰ってきて早々に住処に引きこもっちゃったんだけど…。♠︎
おぉぅ...。まさか空耳に聞こえたことは本人が本当に言っていたようだ。にしても…相当落ち込んでるなぁ。
「実はね、ディセクトムに仕事の手伝いを頼んでいたんだ。その時は“あとでもいいか”って言われて
待ったんだけど、結局それで1日も連絡を寄越さなかったんだよ!しかもようやく来たと思ったら開口一番“今ままで律儀に待ってたのかw”って馬鹿にしてきたんだよっ!これで怒らないほうがおかしいよね、ね?」
怒涛のマシンガントークに我ながら戦慄する。まさかここまで鬱憤が溜まっているなんて…。しかも
ウィティは若干引いてるし。
♠︎ま、まぁとりあえず落ち着いて?コウカ、今凄い顔つきだから一旦お茶でも飲もうよ。話の続きはそこで聞くから、さ。♠︎
赤一色のココロを理性で仮縫いしてお茶の準備をささっと済ませる。
席についた時には最初に比べかなり落ち着いた。
♠︎…うん、だいぶ落ち着いたみたいだね。それじゃあ話の続きなんだけど…ディセクトムも本当はそんなつもりじゃなかったと思うんだよね、僕は。♠︎
ん…?どういうことなんだろう…。
イミガワカラナイを言外に伝えようと気張っていると、ウィティは察したのか困り顔で微笑んだ。
♠︎え、えーっとね、そんなつもりじゃなかったというのはね…。♠︎
ウィティが肝心なところを話していたとき、遥か彼方に嫌な記憶を思い出させる魔力を感じ取った。
無意識に顔を顰めていたのかウィティが心配そうに覗き込んでくる。
上目遣いで覗き込んでくる仕草がカワユスッ‼︎ かなり近い…。ほのかに甘い香りがする…。いいっ‼︎
♠︎コウカ…、なんだか怖いよ?何かまずいことでもあったのかな…?♠︎
「うん。かなりまずいかも...。もし万が一があったらウィティの住処にお邪魔してもいいかな?」
断られる可能性の方が高いけど、ダメ元で頼んでみる。
♠︎そ、それって…お泊まり会ってものだよねっ!うん、いいよ!なんだか楽しそうだし‼︎♠︎
あっさりOKしてくれたので、拒否前提で考えていた私はかな〜り驚いた。
友達の力ってスゴイ‼︎
…人間の時は裏切り裏切られを繰り返していたからなぁ、無闇に信用すべきじゃない!(ソース:私)
===
《帰りたい...。》
[帰りたい。]
〔帰りたい!〕
普段は纏りのない3人の意見が久しぶりに一致した。よくある、追い詰められると団結する悪党的なヤツだ。
…もう私たちが悪党でいいので、いい加減に終わらせたい今日この頃の
《一度、3人であん家に戻らんか?これ以上はうちらん精神が持ちそうになかし....。》
[それ…しかあるまい。]
〔なら、そうしようか。しょうがないけど...。じゃあ20分後に集合ね。それじゃあ。〕
とうとう今の状況に我慢できなくなった3人は、
〔……〕
《……》
[……]
気が沈みきった3人は会話一つ交えられないほどに疲れ切っていた。それはもう以前とは見間違うほどに痩せこけて、体力も無くなっていたらしい。
唯一変わっていないことと言えば…イエバ…。言えるとこ、なかったわ。
全くない食欲を捻り出し、尊桜がさっき作ったサンドウィッチを口に加える。
…味がしない。味付けを忘れたのだろうか。
[…よ。其方は味付けを忘れたのか?このサンド
ウィッチ、味がしないのだが。]
《実はうちもなんや。おかしかねぇ、ちゃんと味付けした筈なんに…。》
無味だったのは私だけではなかったようだ。よかった〜、私の味覚だけが馬鹿だった訳じゃなくて!状況は全く良くないけど。
味を感じないサンドウィッチを詰め込んで、ご飯を終えた。
久しぶりに3人顔を合わせられたのはよかったものの、ムードはお通夜レベルで落ち込んでいる。
さすがにこの状況はマズイ…。そう思った私は兼ねてから考えていたことを打ち明ける。
〔ねぇ、探す方法なんだけどさ。向こうから来てもらうっていうのはどうかな?〕
…は?家出した本人が来るわけねぇだろ。
尊桜とカスタ、2人の意見が合致した瞬間だった。
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