第24話 帝制裁判は理不尽極まりない

「それで…どんな気分ですか〜?自分の都合で交渉のダシにした人物から施しを受けるのは。私は最悪な気分ですよ〜。勝手に交渉材料にされた挙句、理由が私利私欲のためだったなんて聞かされたので。」


ラーから一通り今回の経緯を聞かされた楓はたいそうご立腹だった。


《楓様も一旦落ち着いてくれん。ほら、お代わりんお茶が沸いたばい。》


「私は落ち着いているよ?怒りが限界突破したらなんだか逆に落ち着いてきたんだ〜。」


[これは今までで1番怒っておるな。熱りが覚めるまでかなり時間がかかるぞ。]


「何2人は他人事のふりをしてるのかなぁ〜?あなた達も後で異端審問するからその覚悟をしておいてねぇ〜♪」


私の言葉を聞いて顔色を変え、身震いし始める2人。


なぜラーに協力しておいて許してもらえると思っていたのか。許すわけないじゃないか!


「それで話を戻しますけど、これからどうするつもりですか〜?宴が終わる直前にクランさんに甘言を囁かれてまんまと飛び付き、以前の階級に戻るという私事は達成できたわけですけど。」


正座をして顎をガクガクさせているラーに(私なりに)優しく尋ねる。


頬を伝っていた冷や汗が、顔から離れて床にピチョンと音を立てるのを聞き届けて答える。


〔それは...その〜、私に決定権がある前提の話...ですか?〕


「勿論ないに決まってるじゃないですか〜☆何当たり前のことを今更聞くんですか?」


〔で、デスヨネ〜…。あ、あはは...。〕


それはそうだろう。どこの世界に浮気した方が2人の将来を決定する習慣があるのだろうか。勿論あり得ない。


どうも被害者第一主義の私です。


この場では私が皇帝なのだ。憲法・法律なんのその。多数決…何それ美味しいの?(笑) 量刑はただ一つ、強制労働。さぁLet’s Guilty‼︎


「じゃあ最後の酌量として選択肢をあげますよ〜。これからは今までと比肩できないほど死ぬ気で働くか、生家に強制送還、どちらがいいですか〜?」


〔どっちを選んでも行先全て地獄だ...。〕


そらぁ〜苦しくない罰なんて罰じゃないし。当たり前の事を何言ってんだか。


〔あの家に戻るのだけは絶対嫌‼︎ うぅ〜わかった…馬車馬の如く働くよぅ…。そうすればいいんで

しょ!〕


これで1人目:主犯の裁判が終わった。


少し...いやだいぶ溜飲も下がってきた、かな?


「それじゃあ次、尊桜。ここに来て正座。」


《はい...。》


ラーほどではないがこちらもブルブル震えている。


「あ、カスタも一緒に断裁するからこっちに来て。」


ラーから話を聞いた限りでは2人はそれほど深くは関わっていないようなのでまとめてすることにした。


「それじゃあ、自分たちが何をしたのか正直に教えてね〜。嘘はすぐにわかるから、いたずらに罪が重くなるだけだよ〜。」


その後聞き出した話の内容は、2人とも一致しており嘘や口裏合わせの気配も特に見受けられなかった。


「ふ〜、2人は後手に回ったとはいえ、設定上は私の従臣なんだから報告くらいはできたはず…だよね?」


《楓様、メタいこと言わんでくれんよ...。》


「今はそんなこと気にしな〜い。…決めた!2人にも選択肢をあげよう‼︎」


[ラー殿の時は選択肢があってなかったようなものだったが…。]


「だいじょ〜ぶ。それで、主従契約を解消するか、今まで以上にこき使われるか、どっちがいい?」


《やっぱり選択ん余地がなかっ‼︎》


「確かに選択肢はあげるといったが、選ばせてあげるとは一言も言っていない‼︎」


[ほとんど屁理屈ではないか...。]


「問題ありません、ここでは私が法律ですから。」


《そっちん方が問題やった⁉︎ 情状酌量ん余地とかは…?》


「勿論ないです♪というわけで、判決。2人には今の数倍、働いてもらう!私の気が済むまで、ね。」


[それは刑期が幾らでも延びる、ということではないか。]


「そうです♪異論、反論、抗議等々全て受けません。以上、閉廷〜‼︎」


満足のいく判決を出せたことで機嫌を持ち直した楓。


そのご機嫌な後ろ姿が扉の向こうに消えていったのをただ見届けるしかなかった---



===



〔今回ばかりは本当に殺されるなと思ったよ!本気で怒った楓ちゃん、怖すぎない⁉︎〕


《ほんとやなあぇ〜。共犯ちゅうだけであそこまで怒られたけん、ラー様は...。》


[間違いなく地獄以上...下手をすると獄楽を感じていただろうに。]


先ほどまで滝のように出ていた冷や汗でビショビショになった服を乾かす傍で話を弾ませる。


〔ある意味ではあの家から解放されたと言えるけど…、あぁさようなら、私の自堕落生活。はじめまして、社畜生活...‼︎〕


一粒の涙を流して愛しの堕落生活に別れを告げる。


《なしてそげんまでに自分が生まれた家ば嫌うんと?普通はむしろ恋しゅうなるて思うっちゃけど。》


〔私があの家を嫌う理由...?いいよ教えてあげる。〕


そして聞かされた内容はおよそ印象が540°変わるものだった。


〔実はね…私の母がたかが外れたBL・GL愛好者で、私は生まれた時から


“最高神様は性の与え方を間違えなさった!同性愛がこれほどに素晴らしく尊いものだというのに...。なのに!異性同士でしか生殖できないようにするなんて‼︎ あなたは私の意思を継いで、いずれはこの腐った理を変えるために生まれたのよ‼︎”


って言われ続けたんだ。だから物心がついてしばらくはそう信じ込まされてきたし、そう信じていたんだ。


でも私は求愛なんて自由だという考えを最高神様がしているのを知ってから、母が間違っているようにしか思えなくなった。だから家出をしたし、母の考えが変わるまで帰らないって決めたよ。〕


《壮絶な経歴やなあ...。》


〔おそらくそのことを知って、楓ちゃんは事実上1択の二択の中に入れてきたんだと思う。


…もうあんな同性愛の素晴らしさだけを永遠と聞かされる生活は嫌だっ‼︎ 次私があの生活に戻らなければならないことになったら、その時は...潔く腹を切るよ…‼︎ 尊桜ちゃん介抱は...すぐにしてね。〕


《死ば覚悟しとー⁉︎》


殊の外当人には重大な決断らしかった。


とてもそんな印象は宴ではなかったのに…。


[明らかな個人の思想をさも当たり前のように永遠と聞かされていては、聞く側の精神も持つまい。ラー殿はよく持ったものだ。]


《ある種ん洗脳やけん、違和感ば覚えんかったんやなかやろうか。やけん間違いに気がつくまでは日常ん一部であり、そげん精神的ストレスにはならんかったんやろうね。》


〔私が最高神様の考えを知ったのは6歳の時で家出をしたのが8歳の時だから2年間だね。その間はストレスで体調不良が続き、毎日トイレと仲良く語らいしていたよ...〕


そうラーがいうと、2人はそっと側に寄って優しく背中を撫でるのであった。

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