第23話 神でも権力に溺れる
1人を除いて存外、ストレスを感じることなく宴から帰ってきた。
その分その1人は数年分年をとったように老けて見えた。
《いやぁ〜、楽しかった!もっと堅苦しかもんやて思うとったけんちょっと意外やった。》
[たしかに。私も特に肩に力を入れずに食事を楽しめた。普段からあのようなものなら、次も馳せ参じたいものだ。]
〔現最高神様がああいう性格だから、堅苦しい雰囲気は苦手なんだ。それに伴って宴も軽やかな雰囲気なんだよ。〕
パーティーを精一杯楽しんだラー、尊桜、カスタは各々前向きな感想を口にした。
「もう嫌だ…、まさかこんなことになるなんて…。想像以上だ。(いよいよ誰にもバレないように隠居する場所探すかな)」
その一方で全くもって面倒臭い最高神の仕事を押し付けられた楓は密かに逃亡を考えていた。
私が穏やかならぬことを考えているとは露とも思っていない3人は私に追い討ちをかける。
〔いい加減に諦めたら?〕
「人ごとだからってぇ。最悪の場合に陥った時用の対策はしてあるんですからね!」
[ならそれほど心配することではないではないのか?]
「いやぁ〜、それ以外の対策が全く思いつかないんだよねぇ。」
《ちなみに、そん最後ん作戦うて?》
「うん、私の代わりとして先輩に最高神になってもらうものだよ。そして私が補佐をする方法なんだけど...。」
[その方法では結局楓殿も働くことになるのでは?]
「そうなんだよね。だから苦肉の策なんだよ。」
本当に追い詰められた時用の対策案として出したものだった。しかし−−−
〔それは無理だね。最高神になったことを示す儀式では、十分に力がないと戴冠できないようになっているからね。〕
早々に切り札が失われた…。絶体絶命、再び‼︎
「ならいっそのこと、敢えて最高神になって仕事を全部代行神方に丸投げすればいいか。悪印象を与えられれば辞退できるようになるし、そうでなくても私が仕事をする必要はなくなる。…我ながら見事な作戦だ!」
〔なかなかゲスな考えになっているの、自覚してる?〕
[それほどまでに追い詰められているということだ。そっとしておく方がいいだろう。]
「わたしの愛しい日常〜帰ってきてよぉ〜。グスン」
《たしかに、ばり精神的に参ってしもうてますね…。》
[精神を安定させる魔法でもかけてやるのでもいいのではないか?]
〔あいにく私は精神干渉系魔法には適性がないから使えないんだ。〕
これといってできることもない3人は、落ち着くまでそっとしておいてやることにした。
===
一晩経ってどうにか持ち直した楓は、しかし何とかして自分が最高神になるのを避ける方策を考えていた。
「マジでやばい...。何とかしないとなりたくない地位につくことが確定してしまう…‼︎」
《いや、既に確定しとーて思うんやが?》
特に重く考えていない尊桜は気付いていないフリをして見逃してきた事実を的確に付いてくる。
「いいかい尊桜。生命を授かったものは等しく現状を変える権利と義務を持っているんだ。だからこそ今ここで諦めるわけにはいかないんだ!」
自分でも苦しい言い訳をしていることがわかった。
これほど追い詰められたのはいつぶりだろうか。
[なんだか駄々をこねている幼き児だな。]
〔しかもタチの悪いことに、無駄に思考回路が発達してるから言い訳の説得力が多少なりともあるんだよねぇ〜。〕
ラーと尊桜とカスタは、私の置かれている現状に同情半分、往生際の悪さに呆れ半分の視線を送っていた。
そんな居心地の悪くなる視線を一身に受けるが、お構いなしに思考を続ける。
しかしこういう時は、都合よく妙案が思いつく…はずもなく悩み続けていた。
気まぐれに尊桜を見ると、珍しい服を着ていた。
「その服どうしたの?私、初めて見た気がするんだけど…?」
《こん服と?ゴヒキシワば参考に縫合してみたばい。翼ん黄色ば頑張って表現してみました!〕
はしゃぐ尊桜を微笑ましく思うが、先程の会話中に出てきた言葉が引っかかる。
…
そして電光石火の如く一気に思考が進み、ついに問題を解決する方法を思いついた。
日常の何気ない瞬間からインスピレーションが得られることって意外に多いよね☆
とにかく、やっと...やっとこれでストレスから解放される‼︎
[楓殿、不気味なぁ笑みを向けるのはやめてほしいのだが。少々恐怖を駆り立てられる。]
「ごめんごめん。」
どうやら嬉しさのあまり顔にも出てしまったようだ。反省しないと...。
カスタが少し怯んでいたようので、とりあえず謝っておいた。
しかし新たに思いついた策が成功することを確信していたので、その日は緩んだ頬を吊り上げるのに必死だった。
===
必ず成功させるべく、着々と準備をすすめていく。
「これさえ成功すれば…、私は面倒ごとから解放される‼︎」
《楓様〜、ご飯できまし...。まだやっとったんと。》
「止めないで尊桜。これは私の将来がかかった一大事だから。」
さも重大ごとをしているかのように話を盛る。
しかし冷静になると、今やっていることをばかばかしく思う私が意識の底にいることに気づいていたので迷いが生じていた。
というかどうしてこんなことになったんだろ…?
そんな私の葛藤も知らず、
《どうなったっちゃ知らんばい。ご飯、ここしゃぃ置いとくるね。冷めんうちに食べてくれんね。》
それだけ告げると尊桜は部屋から出て行った。
なんか私に対する態度、冷たくなった…?
気のせいだよね?気のせいだな。気のせいに違いない。気のせいだといいなぁ〜。
何か悪いことしたかな…?
===
「ふっふっふっ...、ついに完成した...‼︎ これで伝説の刀剣を見つけられる‼︎」
病みをこじらせにこじらせた楓はその知識を総動員して、運命を改変する能力があるという黄翼刀を探し出す魔道具を作成した。
〔本当にやるの?もう諦めて潔くなりなよ。そっちの方がみんなのためになるんだって。〕
なんだかやたらと私を最高神にさせようとしているような…。気のせいかな(2回目)?
「私は神になりましたが元々は人間です。だから初めから神だった者とは違って感情が豊かで傲慢なんですよ。だから諦めません‼︎」
[その気概だけは天下一品であるな。]
「なんだかみんな薄情すぎない?誰も私の味方をしてくれないし…。」
《もしかして知らんのか?最高神ん地位についた者及びそん系譜ん者には称号だけでのう、それ相応ん権威も与えらるーばい。》
〔そう、つまり楓ちゃんが最高神になれば私に尊桜、カスタそれぞれに権利が与えられて、それぞれが楓ちゃんの補佐をしていくんだよ。〕
「それだと…、私だけではなくみんなも権力に縛られることになると思うんですけど?そういう意味だったらやっぱり面白くなさそうじゃんか。却下却下‼︎」
[楓殿...。お主が私らに命令し、私らが勅命として命令すれば我らは自由に行動できるということだ。]
《多少は不自由になるかもしれんが、今ん生活と大きゅう離るーちゅうことはなかばい。やけん安心してくれん。》
「むむむ...。みんながなぜそこまで私が最高神になることを望むのかわかんないけど...」
少し躊躇ったが、決断を言葉で紡ぎ出す。
「今とあまり変わらないならいいよ。私、最高神になるよ。」
〔[《おぉ〜!ついに‼︎》]〕
あんまり乗り気にはならないが、最高神に
なって利益があるなら吝かでもないか…。
〔これで約束通り元の
「…はっ?」
どうやら私を説得する代わりに何かを頼んでいたらしい。俗に言う交換条件というものを誰かと結んだらしい。
《ちょっと、ラー様⁉︎ 今言うちゃまずかやなかと⁉︎》
[むぅ…、最後の最後で気が抜けるのはラー殿の悪い癖だ。我らも気をつけなければ。]
私をダシに自分の利益を取るとは...、後輩とはいえ舐められたものだ...‼︎
味方を易々と売る態度は私の怒り度数を臨界突破させた。
「セ〜ンパイ!約束って誰といつ、どこで、どのように、なぜ結んだのかを私に詳しく偽りなくせ・つ・め・い、してくれますよね???」
青筋を浮かび上がらせ、微笑みながらドスの効いた声音で問いただす楓。
その姿を見たラーは、自分で墓穴を掘ったことを静かに悟ったのだった−−−。
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