第22話 神の笑いのツボはブラックホール

まもなく始まる祝いの宴の会場のとある一室---


2人の話す影があった。


<新しい最高神の候補、ねぇー。本当に生まれたのかな?しかも八代行神以外から。>


<これは確かな話です。楓という若輩者、私の娘ラーが規約違反をしてまで転生させた元人間のようですよ。それでもこの短期間で成すとは信じられないのもわかりますが。>


<ならさ、宴の席の前に試してもいいかな?いいよね!それならその楓という神がどんな器かわかる

じゃん‼︎>


---宴の前に一波乱があることを楓はまだ知らない---



===



宴の会場に到着した楓たちは、ラーを除いてその規模にただ驚いていた。


会場が設営されている土地面積だけでもおよそ皇居くらいはありそうだ。しかもそこにこの神域での最高権力者や有力者、将来有望な跡取りなどが集まっている。


「ここまでする必要がほんとうにあるのかな?こんなことしている暇があるなら、一つでも多く仕事をすればいいのに。」


今回のパーティーは最高神主催のもので、その一環として次期最高神の誕生祭を催すらしい。


甚だ不満で、面倒臭いことこの上ない。


〔こらーーー!どこで誰が聞いているかわからない場所でなんてこと言っちゃってるのさ!お願いだからこういうときにこそいつもの礼儀正しさを発揮してよ‼︎〕


こういう場でのマナーはやはり幼い時から仕込まれてきたラーの方が上手らしい。珍しいことに注意する側とされる側が逆転していた。


「いいじゃないですか〜、別に。普段の私たちで構いません、って手紙にも書いてありましたし。」


〔例えそうでも、TPOくらいは弁えるもんだよ‼︎〕


そう、私(+カスタ)は手紙の通り普段着で、普段の話し方をしているだけだ。


普段通りでいいと書いてあるのにわざわざ堅苦しくする必要があるとは思えないし。相手方の要望なんだし、何が悪いのかワカラナイ。


《そりゃ置いといて、はよう最高神様にお会いしぇなパーティー始まってしまうばい!》


そう、それが今日1番の山場でもある。


今回私たちを呼び出した最高神は会場の奥に見える神執の間という場所にいる。ここにきた以上最高神の元を訪れないわけにはいかない。


尊桜の言葉で目的を再認識し、気を引き締め直す。


「それじゃあ行きますか、最高神様のもとへ!かちこみじゃあーーー‼︎」


〔行く趣旨が替わってるぅ⁉︎ というかそんな物騒なことしないし、キャラも変わってるよ‼︎〕


やはりボケとツッコミが逆転して非日常になっているのだが、いつもと違うテンションの2人には些細な問題にもならなかった。



===



楓たち4人が到着したのを確認して−−−


<それでそれで、どうしようか?例の子、到着したみたいだよ。>


<ただ小細工をするだけでは測り切れないでしょうね。うーん、一層のこと最高神様に上奏して一手交えていただくのでいいのではないでしょうか?>


<…最近になって急に思い始めたんだけど、投げやりな神って上位になる程多いよね。>


<それは地位が安定しているからですよ。気にすることではないです。それでどうしますか?>


<他に案も思いつかないし、それでいいんじゃない?>


とある代行神の2人は、計画を胸に仕える主人の元へと向かうのだった。



===



〔ここが最高神様がいらっしゃる執務室だよ。くれぐれも粗相がないようにね。普段の振る舞いをし

ちゃうと、代行神からの反感がとてつもないことになっちゃうから。ほんっとうにお願いね‼︎〕


最終忠告をして執務室の扉を叩く。


なんとなくは察していたが、どうやら代行神たちは私が次期最高神候補になった事が不満らしい。


…私にそんなのぶつけられてもなぁ〜。私だって気がつかないうちになってたんだし、どうしようもないじゃん。なんかそう考えると無性に腹が立ってきた!


楓の心の内とは裏腹に順調にことは進む。


〔失礼します。ラー・ケミスト、件の女神を連れてまいりました。〕


『中に入るがよいぞ。』


ただ一言、無愛想な返答が返ってくる。


やだなー、もう返事を聞いただけで堅物感がハンパない。もう今すぐ帰りたい...。


ラーは私の気持ちを推し量るはずもなく扉を開ける。


その先に見えた光景は---



===



扉を開けた先には2人が両脇に立ち、真ん中に1人座っているよくある構図が広がっていた。周りは本棚と書類の山で埋め尽くされていた。


『よく来てくれた!私が現最高神、サーミなのだ‼︎ …でいいのだな?』


真ん中の執務机の向こうに座っている私と同じくらいの年齢に見える少女が自己紹介した。


彼女が最高神…?とてもそうには見えない…。


<問題ないですよ。確認を私たちにしなかったならば、ですが。>


『でも、きちんと聞かないと相手には分かってもらえないのだろ?そうビーオも言っていたではないか。』


ビーオと呼ばれている女神はかなり落ち着きのある雰囲気だが、その内面が全く見えてこない。なかなかに末恐ろしい女神だ。


<とにかく今は客人がいるのです。初対面なのでなんとしてでも相手に格上の印象を与えなければ舐められますよ。>


『そうなのかっ⁉︎』


<まぁまぁ、ラーも楓も席につきなさい。とりあえずお茶にしましょう。話はそれからです。>


席につくよう促され、サーミが座っている仕事机の前にあるソファーに腰掛ける。


<それで、ラー。その楓が次最高神なのですね?当然、こうなるに至った経緯の説明をしてくれるわね?>


〔勿論ですお母様、いえクラン様。〕


「えっ⁉︎ お母さん⁉︎」


この神様が先輩のお母さん...。先輩とは絡っている雰囲気とか所作が正反対で、全てに雅があるような印象を与えられる。とても親子とは思えないほどに美しかった。


血の繋がりは信用できるのかできないのか、なかなかに分かりにくい‼︎


<じゃあ早速説明をしてもらえるかな?>


ビーオが説明を催促すると、ラーは首肯し説明を始めた。


〜〜〜


<なんというか…>


<ラーちゃんらしいね。というかまるでかつてのクランそっくりだ。>


クランはバツが悪そうな顔をし、一方でビーオはケタケタ笑っていた。


可愛い…。うん、ありだ。なんだか普段落ち着きのある人が笑うと、その可愛らしさは際立って見える。


〔私がお母様そっくり…ですか?いえ、たしかに私はクラン・ケミストの子ですが性格は正反対ですよ、ビーオ様。〕


先輩にも落ち着きがない自覚はあったらしい。てか自覚があるなら直して欲しいものだ。


<いや、それはクランの性格が長い年月を経て大人びただけだよ。うん、やっぱりそういう考え方をするところもかつてのクランに似てるね。>


昔の自分を掘り起こされるのは恥ずかしいのか、


<そんなことはどうでもいいのです。しかし、腑に落ちません。どう考えても最高神が誕生するには短すぎます。>


クランは強引に話題を変える。


『あんまりめんどくさいことは気にしなくても良いではないか!ようやく私はこの重責から解放されるのだ‼︎』


<まぁ、サーミ様にとってはさほど重要ではないかもしれませんが、これはかなり大事ですよ?下手をすると、今机にある書類の束が4倍以上になる程度には。>


『詳しく話を聞かせるのだ。』


自分の自由が離れるきっかけが目の前にあることを悟り、あっという間に切り替えて話を聞く姿勢になる。


なんだか私が最高神になる前提で話が進んでいる気がする…。ならば釘を刺しておこう。


「いえ、私は最高神になるつもりなんてありません。ですので帰ってもいいでしょうか?私にはこの会場の雰囲気が場違いすぎて、気疲れちゃいましたし。」


<『…はい?』>


〔ちょちょちょ、何言っちゃってるの⁉︎〕


<サーミ様に面と向かって言い放つ度胸。惚れ惚れするほどね🎶>


反応は一様だが、やはり私の宣言の内容が驚くに値するものだったようだ。


一矢報いりたり...‼︎


『ぷっ、あっはっは!おもしろいおもしろい‼︎ 私、こんなにも正面切って意見言われたの久しぶりなのだ!おまえ、名は?』


肝の据わった発言をなぜか気に入ったサーミが上機嫌になる。


「茶摘 楓です。以後よしなに。」


『うむ。今は私は甘んじてこの仕事を続けるとしよう。だがいずれ私の後を継がせてやるから覚悟しておれよ、楓?』


「ホントはそれも嫌なんですが、逃してくれるなんてことは…」


『ないのだ‼︎』


「ですよね...。」


最高神にいずれなる運命を逃れられないことに対して、ゲンナリしていた楓。


その様子は眼中にないとばかりにサーミが手をパンパンと叩いて、


『話はここまでなのだ!さあせっかく来たのだし、目一杯宴を楽しむのだぁ〜‼︎』


仕事の苦労を一切忘れようと言わんばかりに目を輝かせていた。


「宴を楽しめるほど気分が乗らないですよ…。そんなに重要な話の後では。」


そのあと宴の会場に戻り、誰よりもサーミと大騒ぎし会場内は大騒ぎになった。


あまりにも騒ぎを広げた楓はクランにこっぴどく怒られたのだった。


また、共犯のサーミはビーオに連れて行かれた。


…どこに、かは泣きながら連れて行かれたサーミの様子からわかった。


「宴の余韻に浸ることもできずに仕事をさせられるのは、絶対嫌だなぁ。でもいずれは私もああなるのかな…?」


そう考えるだけで一気に酔いが覚めるような気がした。


<…あ、結局楓とサーミ様の決闘、見られなかった...。>

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