第21話 私の日常…さようなら(泣)

半年ほどラーの食生活の矯正をしたのち、完治の薬を渡した、いや正確には渡そうとした。


その薬を貰えると分かり、ラーは狂気じみた喜びを見せたため若干引いていたが、


〔これでまた美味しいものがたっくさん食べられ

るぅ〜‼︎〕


などとのたまったので追加で1ヶ月、食事制限期間が増やしたのだった。


当然ラーはそれを聞いたとき、膝から崩れ落ちた。


無情に捉えられるかもしれないが、これは全てラーのためになる。そう、愛の鞭だ!


一部始終をリビングから聞いた尊桜は、


《自分で墓穴ば掘るんなラー様らしいなあ…。》


と、呟いた。



===



ラーの部屋から出てリビングに向かうと、すでに昼食を食べ始めていた尊桜とカスタが話していた。


《ラー様は頭が切るーて思うとったが、最近あれは野生ん勘で本当はタダんバカなんやなかかて思えてきたばい。》


[これこれ、尊桜殿。あんまり滅多なことをいってラー殿に聞かれた暁には、取り返しのつかない面倒ごとが起きるぞ。]


「そういうカスタは先輩のこと、どう思っているの?」


ちゃっかり会話に混ざる。まぁやましい話をしていたわけではないようだから、すんなり馴染めた。


[そうであるなぁ...。普段はかなりキツイ天然成分を含んでおるが、いざというときはこれ以上なく頼り甲斐がある者、という感じであるな。]


確かに。というかソレが本質を的確についている気がする。


《そういえば、ラー様はどげな経緯でラー様と今ん関係になったんか?それにラー様んこと、どう思うとるんと?》


[うむ、私も少し気になっていたのだ。差し支えなければ話して貰っても良いか?]


「あれ、話してなかったっけ?簡単だよ。事故で死んで、転生の選択肢で神の補佐をすることを選んだんだ。それで2,3世界を救ったらいつの間にか先輩より立場が上になっていただけだよ。っね、つまらなかったでしょ?」


かなり圧縮して話したため、今に至るまでの時間があまり伝わらなかったようだ。


《そげん短期間で昇進したんと⁉︎早すぎん?》


「確かにそう思うんだけど、眼の色が変わっていたんだから仕方がないじゃん。基本的に、


琥珀>韓紅からくれない萌黄もえぎ錆浅葱さびあさぎ杜若かきつばた


の色の順で位が高いらしいんだ。それで先輩は今錆浅葱、私は琥珀なんだよねぇ。まぁここにいたるまでいろんなことしたし。」


《まだ転生してから半年も経っとらんのに最上級女神になったんと⁉︎そっちん方がたまがりばい‼︎》


「それがねー、どうもこの色が最高位っていうわけじゃないかもしれないんだよね。調べても出てこないからない可能性もあるんだけど。それに階級は時間と比例しているわけではなさそうだし。」


[楓殿は最高神になりたいのであるか?]


「そういうわけじゃないんだけどね、その最高神が持っているっていう眼の色。桜色になりたいんだ!けどその色になるために必要な何かがまだ足りてないみたいなんだよ。」


調べた限り、救済の条件はクリアしている。しかしもう一つ、調べてもわからなかったが確かに条件がある。


…一体なんなのだろうか?はやく解明して桜色の眼を手に入れてやる‼︎


[そういえばラー殿。話は変わるが、捨てられていた書類を本当に焼却してもよいか念のために確認しておったら、不燃焼用紙の紙が出てきたぞ。]


《そりゃ内容が重要やけん使われとるんやなかと?なんでそげん代物ば捨てようなんて...。》


そんなことするなんて明らかに怪しい...。これは尋問する必要がありそうだ。


「まあ取り敢えず、中身を見て判断しないと。あと尊桜、悪いんだけど先輩を呼んできてもらえる?」


《わかった。》


そしてラーを連れてくるために立ち上がって部屋を出ていった。


---さぁ、尋問ゲームを始めようか。



===



「…それでどうしてこの紙を処分しようとしたのかね?」


生前、テレビで見た刑事の真似をして早速ごうm...もとい尋問を始める。


〔だって既に終わった内容なんだよ⁉︎ 別に要らないじゃんか‼︎ というか早くこの拘束解いてよぉ!〕


「いいわけないじゃないですか!それにこの書を見ると先輩、人間を神に転生させることが禁忌だと知っていましたよね?どうして破ったんですか?」


〔だって、私だけだったんだよ...!パートナーが227年もいなかったのは!しかも数年に一回は屑家族に会いに行かないといけないし、その度に見合いをさせられるのはもううんざりだ‼︎〕


《そういえばケミストって...、確か8柱しかおらん代行神ん名前にもあったような気がするね。ましゃか…⁉︎》


何かに気づいた尊桜は口をパクパク動かしていた。


尊桜にしては珍しい反応で、なかなかに愛らしい。


[代行神とはなんであるか?]


途中から話についていけなくなっていたカスタが疑問を口に出す。


やはりピンときていなかったらしい。


「代行神は通常時、最高神の代わりに一般業務を執り行う補佐的な立場の方ですよ。」


〔そうそして私、ラー・ケミストはその代行神の一族の子女ってわけ。だから媚を打ってくる馬鹿な神たちがうじゃうじゃいるってわけ。〕


[自由奔放の裏にはそんな事情があったとはな。全く知らんかった。]


〔あれっ?私、楓ちゃんにもこんな話してないよね?〕


「代行神のことは文献を少しかじっただけでいっぱい出てきましたよ。一族の家系表も、ね。そしたら先輩の名前もあって、さすがの私でも驚きましたよ〜。」


いやぁ、あの時はほんとに度肝を抜かれたなぁ〜。そんな素振り全く見たことなかったし。


〔ここにある文献の私に関するデータは全て処分したはずなんだけど...?〕


「あぁ、それなら問題ないですよ。自分で【真実の法典コードヴァリタティス】という魔術器を作りましたから。自分で言うのもなんですけど傑作なんですよ〜!全ての真実がこのページ面上に自動で記されていくんですから。過去も、現在も。未来は流石に隠蔽魔法をかけて見えないようにしましたけど。」


《あ〜、神器級ん魔術具ば作ったけん眼ん色も変

わったんやなあ!おめでとうごじゃいます‼︎》


「…えっ?」


急いで鏡の前に立って覗く。なんと、自分でも気がつかないうちに桜色になっていたのだ!


「えぇっ⁉︎ いつの間に⁉︎」


《つい最近んことば〜い。》


つい最近…。あ、やっぱり真実の法典を作ったからかな?


とにかく、夢叶っちゃったよ…。


〔え、ちょっと待って。なんで楓ちゃんが最高神様と同じ眼の色を持っているの⁉︎〕


〔桜色の眼を持った神は、次代の最高神になること請け合いなんだよ!すごいじゃん‼︎〕


[む?ということは次の最高神はラー殿で私や尊桜は最高神に仕える聖獣になるってことか?]


《そうやなあ。ほんとにうちら、アポストロになるーってことやなあ‼︎》


「いや、私は最高神になるつもりはないから。あなたたちも最高神に仕える聖獣;アポストロになることはないからね。今の生活の方が楽しいし。」


〔でもその眼になった以上、代行神は黙ってはいないよ?もしかしたら今すぐにでもやってくるかもね!〕


そうしてケタケタ笑っていると、遠くから純白の鷹が飛んできた。


その足には手紙が括り付けられていた。


「えーっと、なになに?


“新たなる最高神の誕生を祝う宴を開かせていただきます。宴の前に現最高神様が貴方様にお会いしたいとおっしゃられていますので、何卒手早くいらしてください。”


だって。め、めんどくさい...。」


ちょうどさっきまで笑い話として一笑に付していたことが現実のこととなり、軽く絶望する。


〔でも最高神様が主宰になっている以上、代行神も全員が揃うだろうし絶対断れないよ、これ。〕


あぁ...私の愛しのまったり日常が飛び去っていく...。

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