第18話 ラーはどこでも災難続き
ラーが左遷...もとい送り込まれた世界は一見したところ、なんの違和感もない世界だった。むしろ地球と比べるとこちらの世界の方が綺麗なくらいだ。
〔全然問題なんてないじゃん!転送に失敗したのかなぁ。〕
楓が失敗したと思い込み、つい気を抜いて周囲の警戒を怠っていた。すると、どこからか不穏な音が聞こえてきた。
〔え?なんの音、これ?何かがこっちに走ってきている様な…。〕
音を聞いて警戒をMAXまで引き上げたラーは、音のした方向を緊張気味に見つめていた。
程なくして音の正体がわかった。
一度走り始めると目の前にいる全てのものを轢き殺すほどのスピードを数日に渡って出し続ける鳥型の神獣、アークァイアだった。
〔えぇ⁉︎ なんでこんなところに神獣がっ⁉︎ というかアイツらこっち向かってきてる!こっち来ないでよー‼︎〕
狙いをつけられたラーは轢き殺されないように逃げ回り、なんとか振り切ることに成功した。
「…というわけでもう体験したのでわかると思いますが、先輩の今いる世界は神域の果ての世界、聖芒星です。そしてそこでしてもらう仕事は、ズバリ聖獣たちの間引きです。対象と個体数、簡易の特徴はリストにして送っておきましたから見ておいてくださいね。では頑張ってくださいね〜。」
通信が切れて、自分が今いる場所を思い浮かべる。しかし全くもって絶望しか湧いてこないラー。
〔最悪だ...。よりにもよってこの星になるなんて...。リストの聖獣も殆どが神1人で相手するの結構きつい凶暴な奴ばかりじゃんか。〕
今回、ラーの討伐対象は3種10体。
①スライム型の聖獣、トランス。
敵のトラウマを読み取り、その相手の姿に柔軟な成分でできた身体を変容させる。加えて全属性の魔法を放つ。
討伐数:5体 討伐難易度:☆☆☆
②ネコ型の聖獣、ティグリッツ。
猫のような柔軟な身体の構造を持つ上、金属以上に硬い毛皮を持つ。物理系攻撃は速すぎるため視覚は当てにならない。知能は人間レベル。
討伐数:4体 討伐難易度:☆☆☆☆
③ヒト型の聖獣、神姫−ピースシス–。
闘神並の力と、智神並の叡智を持つ。これまで幾多の神が討伐を試み、尽く返り討ちにされた。聖獣の中でも頭一つ抜きん出た者。
討伐数:1体 討伐難易度:★★★★★+
〔①②はまだしも③はなんなのこれ...。絶対私も返り討ちにされるだけじゃんか。★×5+とか、要は強さが不明ってことでしょ?瞬殺されるわ‼︎〕
これはどう考えてもただの嫌がらせだ。しかも嫌がらせで殺しに来ている。今すぐにでも逃げ出したいところだが...。転移魔法をロックされていて発動できない。
どうしたものか、と考えていると再び楓から連絡が来た。
「センパ〜イ、どうですかぁ?反省しましたかぁ?まぁ今更反省しても遅いんですけどねw」
〔ねぇ、殺しに来ているよね?まだ死にたくないから許してください、お願いします。〕
誠心誠意の真心を込め、かなりガチトーンで謝る。
これなら流石に許してくれるでしょ!許してくれる...よね?許してくれるといいなぁ。
「あ〜、そのことなんですけど。早々に帰ってきた尊桜と話し合った結果、ピースシスだけは私たちも参加するのでそれ以外は全て先輩がやってください。」
おお、ちょっとだけ情状酌量された…のかなぁ。それにしてもきついなぁ。
〔うぅ、それでもキツイけど…。まぁ、それくらいなら大丈夫。そっちには終わり次第連絡すればいいの?〕
「あっ、それは大丈夫です。先輩がトランスとティグリッツの討伐を完遂し次第、私たちも行きますから。」
《ラー様も頑張ってくれん!ちゃんと見よーけん‼︎》
その言葉を最後に通信が切れた。
〔自業自得とはいえ、この仕打ちはあんまりじゃないかぁ…!でも尊桜ちゃんは可愛かった‼︎〕
悲痛な声で抗議をするも、当然届かない。ただ周囲に無情に響き渡るだけだった。
===
とりあえずこの場にいては逆に危ないので、安全な行動拠点を探す。
〔どこかいい感じに深い洞窟とかないかな。あとはトランスかティグリッツがどこにいるかある程度目処もつけておきたいなぁ。〕
崖側を伝いながら、ぼんやりと呟く。
そのまま歩いていくと、不意に3mほどの大穴が現れた。
〔結構大きな穴だなぁ。でもこの穴の奥で自分専用に穴を掘ったらかなり安全かな。〕
拠点決めがかなりスムーズに進み、早速拠点作りを始める。夢中になって穴を掘っていると何かの気配が入り口の方からしてきた。
〔この気配、あの姿。まさか...!〕
姿を確認するとやはり探し求めていた聖獣、ティグリッツだった。
洞窟の入り口いっぱいの大きさに圧倒されていると、向こうがこちらに気がついたらしい。
耳が張り裂けそうな咆哮をあげると同時に、超巨大な落雷を頭上から落としてきた。その威力は洞窟があった山が一撃で半壊するほどだ。
〔なんなんだよ、あの威力は!直撃してたら下手すると即死だよ‼︎〕
この威力の魔法が放てるにもかかわらず物理攻撃の方に特化しているという事実に驚愕していた。
そしてティグリッツの方を見るとあからさまに物理攻撃をする準備をしていた。
〔まさか私に突進してくる気⁉︎ ヤバイ、洒落にならない‼︎〕
急いで絶対防御魔法を発動した直後、ティグリッツが攻撃を仕掛けてきた。
…というのはわかった。しかし攻撃そのものの動きは時間の流れを極限にまで遅らせたにもかかわらず、一切見えなかった。
〔知性ある聖獣故に、極限まで無駄な動きを削いだ攻撃をする、か。しかも防御壁にあの速度で体当たりして無傷とか。マジでえげつないね〜。〕
なんとか攻撃を防いだが、未だ攻略の糸口は見つけられずにいた。
なんとかして、異常なほどの攻撃速度と圧倒的な耐久力を攻略しなければ...。
何度も防御壁を壊されては張り直しながら考え続けていた。
邂逅&戦闘開始から1時間。
防御一辺倒な戦いも佳境に入っていた。ようやく策を思いつき、隙を狙っていた。
〔あとは45°くらいで相手に突っ込ませるだけだけど、それが難しいんだよなぁ。それに知性があるならそう簡単には引っかかってくれないだろうしね。〕
独り言を呟いて現状を確認した。そしてうまく嵌めるため場所を先導した。
誘導した行き先は川辺だった。
〔ここならうまくいくはず。それじゃあ、反撃と行きますか!〕
こうして行動を開始した。まずティグリッツの全身を川の水で濡らしてやる。そして落雷をティグリッツの脇腹に落ちるように調整して細長い金属線を巻き付け、放つのを待った。
そして距離をとると、やはりティグリッツは落雷を放ってきた。
狙い通り落雷は金属線に吸い込まれていき、ティグリッツは自分の攻撃で感電死した。
〔やっぱり思った通りでしたなぁ。外側の防御力が高いなら内側はそのぶん弱くなっているはずだもんね。知性があるとは言っても流石にここまでは頭は回らなくってよかった。でもこれをあと3回も繰り返す必要があるのか〜。〕
先行きが不安であるものの、とりあえずは1匹目の討伐を成功させた悦びに浸るラーであった。
その後、残り3体の討伐も終え新たな拠点を見つけた。
四度目の朝陽を見てしまったラーはそこに倒れ込み、丸一日雑魚寝したのであった。
まだ半分も終わっていないことに戦々恐々していたにもかかわらず、である。
「やっぱり先輩は、神経図太いですね。」
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