第16話 知識チートはほどほどに
とりあえず地球に行くことは決定したものの、これと言ってすることは思いついていなかった3人。
「様子を見に行きたいのは山々なんですけど、おばあちゃんたちからは姿も見えないんですよね?そうならすぐ終わっちゃいますし、行く意味が余りないと思うんですけど。」
そんな私の言葉にすかさず反論してくる。
〔そんなことないって〜。知り合いからは見えないだけで今の状態でも他人からは認識されるから散歩くらい、できるから!〕
《それになんやかんやで楓様もウキウキで準備しとーやんか。》
私は2人に秘密で用意していたつもりだったが、尊桜にはバレていたらしい。
「うっ、だって久しぶりの故郷なんだからしょうがないじゃない!」
開き直って堂々と宣言すると残っていた準備を進める。
〔もう準備とか面倒だし、荷物運ぶの嫌だから、今から行っちゃおぉ〜‼︎〕
「えぇ⁉︎ ちょっとまっt...。」
私が止める前にラーは中型の移動魔法を瞬時に起動して3人全員を指定して転移した。
===
転移先はテレビの奥に見た覚えがある場所であった。
〔ここは…?すごい人の量だし、高ーい建物がいっぱいあるし。〕
「私も初めてきたんですが、恐らく東京ですね。幸い過ごしやすい気温でよかったですね〜。」
ちらほら半袖の人が歩いていることから今は春なのだろうと予想する。意識がラーと尊桜に向いたとき、2人の様子に気づいて、呆れ半分、同情半分の気持ちになってしまった。
ラーならまだしも尊桜があれほどはしゃぐのは珍しい。
てか喜ぶ姿、すげぇーかわええぇ‼︎ 尊い...。
「ほら、2人とも! そろそろ行きますよ〜。」
私はそう提案をしたが、
〔えぇ〜、ちょっと待ってよぉ。一週間くらいならここに滞在しても大丈夫でしょ?焦る必要ないって!〕
《そうばい!それに初めて見る食べ物や物が多うて興味があるんや!是非ともそん制作方法ば学びたか物ばい‼︎》
2人の熱意を顔間近で伝えられて、
「暑苦しいから離れてください。わかりましたから。」
〔やったぁ〜!それじゃあ一週間後ここに集合ね。そっれじゃぁ〜行ってきま〜す‼︎〕
それだけ言うとあっという間に去っていった。
《それじゃあ楓様はうちと一緒に回らんか?触れてみたいことはたくしゃんあるんばってんいかんしぇん1人で行動するんな少しえずかけん…。》
「いいよ。先輩のことは放っておいて行こっか。(それに可愛い子と一緒にいるほうが癒しになるし...。)」
こうして3人は一週間、思い思いに日本を堪能したのだった。
===
「どうして、こんなに、疲れてるんだろ、私...。」
私は尊桜に付き合っていたものの、彼女の天真爛漫さと好奇心に振り回されてボロボロになっていた。
さすがに無茶苦茶可愛いからって甘やかしすぎたか...。次回からは気をつけよう。
「それで…、先輩はどこにいっていたんですか?見た目がゴミ以下の煤塗れになっていますけど...。」
〔楓ちゃんは心配してくれているのか貶しているのかわかんないんだけど...。まぁちょっといろいろなことしてきたからね、各地で。〕
そういってはぐらかす。そしてジト目で見ていると、あからさまに話題転換した。
〔そ、そういえば楓ちゃんの転生前に住んでいた場所に行ってみたいなぁ。〕
こいつぅー!絶対ろくなことしてきてない!必ず聞き出してやる…‼︎
知ってか知らずか尊桜はラーに続く。
《あ、確かにうちもいってんごたーばい!どこしゃぃあるんと?》
「はぁ、後でどこでどんな迷惑をかけてきたのか詳細に聞きますからね。」
ラーにクギを刺しておいて話を進める。勿論ラーの顔は引きつっていた。
「私が連れて行きますからつかまってください。まだ慣れていないので時間は少しかかりますよ。」
そう言うと豆鉄砲を喰らったハトのように驚いたラーが食いついてきた。
〔ちょっと待って。私の数少ない頼られていた転移魔法を楓ちゃん、できるの?私のアイデンティティを取らないでよ‼︎〕
「じゃあ自分で来ますか?一度も行ったことのない場所に。」
私が指摘すると、ラーは急激に萎んでいき、潔く私を掴んだ。
先輩の魔法は初めて行く場所への転移に対応しているものの、とても1人で起動できるほどの魔力要求量ではない。
そんなことはお見通しだ!
「それじゃあ、行きますよ〜。」
そうして転移魔法を発動させた。
===
転移の光が収まった先には見慣れた光景が広がっていた。
〔ここが…〕
《楓様が生前暮らしていらした家なんやなあ!》
感慨に浸っている2人を若干の引いた目で見つめつつも、帰ってきたことを懐かしく思っていた。
「唯一、残念なのはおばあちゃんと話せないことだなぁ…。」
そう思いつつもこればかりはどうしようもないと割り切る。
しばらく経って2人と合流して帰ることになった。
《本当にお祖母様ん様子ば見らんまま帰っ
たっちゃよろしかっちゃか?》
私の心中を察したらしく、心配そうに訪ねてくる。
「大丈夫。やろうと思えば数分なら会話することもできるんだけど、それではこの世界の摂理を強制的にねじ曲げることになるからやめておくね。それにもし会っちゃったら帰りたくなくなるだろうし。」
〔えっ?今なんかかなり不穏なこと言わなかった?言ったよね?〕
空気を読まない先輩の言葉はいつもの様に無視して帰る準備を終える。
魔法陣を発動させた直後、家の中からおばあちゃんが出てくるのが見えた。
そして---
-元気でやるんだよ、かえで-
見えていないはずなのにそう言われ、溜め込んでいた気持ちが溢れた。
私がいる方を向いて微笑んでいるおばあちゃんに、今すぐにでも抱きつきたかったが、その直後に転移して神域に戻った。
===
印象深い帰郷に終わった地球旅行から数日。ラーと尊桜は持ち帰った経験を早速生活に生かしていた。
ラーはあの一週間であらゆる技術ノウハウを学んだらしく、この数日で様々な道具を改良した上で作成していた。
「これは…。クーラーにタブレット端末、時計、デジタルカメラ……。なんで転生者の私が自重して、先輩神様が知識チートをかましているんですか…。」
私が呆れている声を聞いてようやく私の存在に気付いたラーはこちらを向いて、
〔だって〜、しょうがないじゃんか。地球の技術、なかなかに興味深い物が多かったんだし試したくなったんだよぉ!それに尊桜ちゃんも同じじゃない。〕
「それは、まぁ、そうですけど...。」
ラーと同じく尊桜も帰ってきてからは新たな趣味に熱中していた。
「さすがにあの子は働きすぎじゃないですか?」
心配するのものの、
〔本人が好きでやっているんだからいいん
じゃないかな。無理に引き離すとかえってストレスになっちゃうよ?〕
と言ってラーは心配している私を他所に自分の作業に戻っていった。
まぁ、おとなしくしてくれているならしばらくこのままでいいか。
---結局私が実力行使するまでこの状態が続くのであった---
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