第15話 代わりのない日常には代償が付き物

結局何処も見つけられず、しばらくは神域にステイすることが決定した3人は各々の生活を送っていた。



===



Side of ラー・ケミスト


ラーの朝は早い。これは生来の習慣であり、神としての務めでもある。農耕は朝が早いからだ。もう少し遅くてもいいとは個人的に思うが…。


しかし、早起きではあるものの最近は2番目に起きていることになってしまっていた。


そう、1番は楓の臣獣となった尊桜だ。これは使えるものの使命らしく、絶対に私が起きる前には朝食を作り始めているようだ。眠たくはないのだろうか?


以前は私が先に起きても一切何もせず、朝食は楓が作っていたのだが...。


そう考えて尊桜を見ていると、なんだか自分自身が情けなく見えてしょうがない。


そうは思いつつ、自己の料理の腕を考えると手を出さない方がいいだろう、と無理やり納得した。


適当なことを考えていると、楓が起きてきたようだ。


すると…


「なに回想っぽいことしてるんですか...。早く終えて次行ってください。」


〔えっ?ちょっとm…。〕


---寝ぼけた楓によって強制的に回想を終わらせられたラーだった。---


〔なんでそんな事出来るのよおおぉぉぉーーー‼︎〕



===



Side of 尊桜


尊桜の朝は誰よりも早い。


1番に起きては3人分の朝食を作り、家中の家事作業は基本私だけでやる。


というか主人様あるじさまの手を煩わせるわけにはいかないから必ずやり遂げる。


〔家政婦的な仕事ばかりしていると腕が鈍る

よぉ〜。〕


と以前ラーから言われたが私はそもそも戦闘は余り向いていないことを自覚していた。そのため


《大丈夫ばい。》


と答えておいた。しかし心配されていることには変わりがない。むむむ…、何か別の方法で負担を減らさなければ。


1日も終わりに近づきお風呂に入っていると、主人様が入ってきた。風呂はかなり広く、5人程度なら入っても余裕があるほどだ。


楓様が体を洗うのを手伝おうとしたら、丁重に断られた。


曰く、何かに怯えて駆り立てられているように見えてヤらせるのが申し訳ない...らしい。


あっ、他意はなかばい。


そしてそれは、また捨てられるのではないかという不安から来ているそうだ。


私自身は余りそう思っていないつもりだったが、おそらく本能的に2度目を恐れてしまっているのだろう。


そう考えを巡らしていると、楓様から何かを握らされた。


握った掌をそっと開けると、手の中に入っていたのは、楓様と私との関係の象徴である従魔の捺印そのものだった。なぜ私に渡したのか分からず困惑していると理由を話してもらった。


「今の関係が崩れることを恐れているなら絶対に崩れないようにすれば良い。本体がなければ私が契約を破棄することはできない。これで悩みの種は無くなったね!」


そういわれて、私は改めて心の底から祝福され幸福を噛み締めているような気がした。


---あぁ…、私は幸せだ。私の生涯は全てこの方に捧げよう。いつ、何が起こったとしても…。---


そう心の中で誓い、今日も楓に尽くすのであった。



===



Side of 茶摘楓


最近新しく家族になった尊桜のおかげで私の家事負担はかなり楽になった。何しろ今まで私がやっていたことを全て尊桜がやってくれているからだ。


さすがに全て任せるのは1人ではとても厳しいことはわかるので幾つかは私がやろうとして名乗り出た。


しかし尊桜自身が拒否したので、結局全て任せることになってしまった。


そのため最初に比べて仕事が一気に無くなったので大変時間が長く感じるようになった。


時間魔法を使わない限り、いつ如何なる時でも時間の長さは同じはずなのに...。


特にやることを思いつかなかったので久しぶりに茶葉の研究を進めることにした。そうは言っても土はないので実際に植えることはできないのだが。


理論上のデータ算出を進めていると気がついたときには朝になっていた。


どうやら貫徹してしまったらしい。美容の大敵...気をつけないとねっ‼︎


そうして朝食を取るためにテーブルに向かうと、ラーがボゥっとしていた。


回想でもしていたのだろう。なんか同じことをしていたと思うと無性に腹が立ってきた。


だから先輩の回想を強引に現実に引き戻してやった。


突然引き戻された先輩は豆鉄砲をくらった鳩のように目を丸めて驚いていた。


何その顔おもしろーい‼︎ プークスクス!


最初こそ面白かったもののあっという間に心は別の感情で満たされていった。


…はぁ、何してるんだろう、私は。


私がしていることがどのように役に立っているのかを考えると、何故か心の中に寂寥感を感じた。


朝食を終えて自分の部屋に戻ったとき、初めてその違和感の正体に気づいた。


いま、転生前に似た平穏な日々を過ごしているうちに、故郷を知らず知らずのうちに懐かしく思っていたということに。


そのことに気がついた私は早速行動に移すことにする。具体的には1度日本に戻るのだ。



===



楓から帰郷の話を聞かされたラーと尊桜はこれといって驚くこともなく聞いてくれた。


〔なんかいいだしそうな予感は前からしてたんだよねぇ〜。〕


どうやら無自覚のうちに心残りがオーラにも表れていたらしい。


《よかやなかやろうか。人間から転生したんなら向こうん家族んことは当然気がかりやけんね。特に楓様はお優しかし。それに…》


そう続けて尊桜は言う。


《楓様ん故郷がどげん場所か見てんごたーばいし!》


本心はこっちのようだ。


まぁ、魔法のない世界は珍しいみたいだから新鮮な体験になるだろう。


兎にも角にも地球に行くことが決定した。



===



久しぶりに地球に戻れることになり浮き足立つ楓。その姿をラーは怨みがましく見ていた。


《ラー様?なしてそげん恨みが積もったような表情ばしとるんか?》


尊桜は不思議に思い尋ねる。


〔そんなの決まってるじゃんか!今なら警戒心も薄いから、回想邪魔された仕返しが出来るって思ったら恨みくらい顔に出るよ‼︎〕


《やめといたほうがよかて思うばい。ラー様ん性格上必ず失敗するし。それに楓様は転んだっちゃタダでは起きんけん。》


〔大丈夫だって!〕


その後、楓に仕掛けたもののものの見事に追い返されたラー。泣きっ面のラーを見て、


《やけん失敗するって言うたとに…。》


トドメを刺す尊桜だった---。


なぁむぅ〜。

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