第13話 新たな仲間との数奇な出会い

神域に帰って数日。ラーと楓は久しぶりにダラダラしていた。


「前回は帰ってきてすぐに次の行き先を決めましたけど、ゆっくりするのも悪くないですね〜ぇ。」


〔私は楓ちゃんが転生する前は大体こんな感じの生活だったんだけどねぇ。やっぱりぐうたらが1番だよぉ。〕


「結局面倒ごとが嫌なだけじゃあないですか。そんなこと思っているから危機に陥っている世界があるんじゃないですか?」


〔でも、面倒ごとが嫌いなのは楓ちゃんも同じじゃんか。ただ楓ちゃんは私よりも甲斐甲斐しいってだけで。〕


「まぁ、それはそうなんですけど...。」


のんびりしながら会話を弾ませる。


〔なんだかんだ言って、そこもいいところなんだけどね!かわいいし!〕


「もぅ〜、先輩ったら〜!褒めても何も出ませんよ‼︎〕


パシッと乾いた音がした。


それと同時に


〔ヘボバッ‼︎〕


先輩が妙な声を出した。


何事かとそちらを見る。


そこで先輩は頭を抑えて蹲っていた。どうやらいつのまにか、私は先輩を叩いていたらしい。


少し反省して、タンコブに医療魔法をかけておく。


そのあと、ティータイムにするためお茶や茶菓子の用意を始めた。


「フンふふ〜ん♫」


鼻歌まじりに用意を進めていると、不意に何者かの気配を感じ、動きを止める。


「先輩、この気配は一体…?」


〔ん…?何か感じるの?〕


「いえ、気のせいかもしれません。」


先輩は何も感じていなかったようなので、先ほど感じた違和感を気のせいとして排除した私は、再び準備に戻った。


準備を終え、お茶と茶菓子をテーブルに運び、ティータイムを始めると、程なくしてより強い気配を感じた。


「やっぱり、何かいませんか?」


〔確かに何かの気配があるなぁ。でもこの次元に来れる生き物なんているのかな?〕


「念のために確認しましょうか。」


索敵魔法と使役魔法の組み合わせ、{魔獣索敵}を使って気配のもとを辿る。


見つけたものは…


〔これは…、獣?いや、魔蟲?なんだかよくわからないものが這いずり回っているんだけど。〕


得体のしれない生き物だった。


「マジですか...。とにかくこの領域にいる以上排除しないといけないことには変わりないんですけどね。」


〔じゃあお茶が冷めないうちに駆除しちゃおっか。〕


徐に立ち上がり、謎の生物がいる地点に向かうの

だった。



===



2人は言葉を失っていた。


目の前に蠢く生物が異形のものにしか見えなかったためだ。


その生き物かすらわからないものには脚がなかった。それだけならまだ良かったものの、よりおぞましかったのは他の部分だった。動きこそスライムのようであるが、それから放たれるプレッシャーはもはや神にも勝るとも劣らないほどであった。


「…こんな生物初めて見ました。しかも一切聞いたこともないんですけど…。」


〔いや、それ私もだよ…。こんなのがいるのがわ

かっていたなら、私も流石に行動するよ。ホントなんだろこれ…?〕


すると、こちらに気づいたのか、それは方向を変えてこちらに向かってきた。


〔ちょっ⁉︎ なんで私たち上空に浮いているのにアイツ上に向かってきてんの⁉︎ 〕


「どうやら流動体の性質を使って、身体を伸ばしているみたいですね。なかなか知性もあるようですね...。」


あくまで冷静に分析するが、決して余裕があるわけではなかった。


「いよいよ本物の未確認生物ですね...‼︎ 興味がそそられますぅ〜‼︎‼︎ 先輩、ちゃんと生きたまま捕獲してくださいね!」


〔えぇー!イヤだよ、あんなn…〕


好奇心の渦に呑まれ、正常な判断力が欠落していた私は先輩に詰め寄った。


「い・い・で・す・ね?」


〔…はい。〕


よかったぁ〜、ちゃんとわかってもらえて。えっ?強引だって?知らんな、そんなこと‼︎


楓の興味によって救われた謎の生命体CR(勝手に楓が仮称した)は楓の異様な雰囲気に若干の戦慄を覚えた。まるで被験体になることをが決定したかのような悪寒も---


探究意欲に駆られた楓は最早誰も止められない。


5分もしないうちに、従魔の捺印を刻まれたのだった---



===



いろいろ詳しく調べた結果、CRは神獣の一種である聖龍の変異種だと分かった。そしてスライムのように見えたのは輝きが失われたことで自我存在が消え始めていることにあったようだ。


「それでどうすれば生命力を取り戻せるんですか?」


《簡単ですよ。私の主人になってくれればいいんです。けど...。》


そこでなぜか迷いが生じている聖龍。


「どうしたんですか?」


《実はですね…。その、私は変異種なせいか聖龍らしい鱗を持っていないんですよ...。神様はその鱗目当てで聖龍を飼っていることが多い、と聞いたことがあるので大丈夫なのかな、と…。》


その心配に答えたのは私ではなくラーだった。


〔私たちをそんな阿呆神たちと一緒にしないでほしいなぁ。それにその姿だから来たんじゃんか。というかそもそも、もう主従契約完了しちゃってるしねぇ。〕


「むしろウェルカム、変異種‼︎‼︎ヒャッホー‼︎」


〔楓ちゃん⁉︎キャラ崩壊しちゃってるよ‼︎〕


私たちの言葉を聞いて安心したのだろう。溜めていた鬱憤や涙が激流の如く溢れ出ていた。


《ゔわあぁーん!あゔぃゔぁどうごじゃいま

じゅ‼︎》


何言っているかわからないが、まあしばらくそのままにしておいてやろう。数百年もの間ずっと1人で居ざるをえなかったようだし。


結局泣き止ませるまでの間、ずっと泣き続け、私たち2人は涙でびしょびしょになったのだった---。



===



ティータイムを再開しようと戻り冷めたお茶をみた楓が絶望して地に伏している頃、ラーと聖龍は相談していた。


〔さすがにその図体のデカさではウチには入らせられないなぁ。〕


むむむ...、と悩んでいるとふとあることを思いついた。


〔ねえ、あなたは小型化できるの?〕


《それは、まぁ人型ならなれますよ。ただ余りなりたくないんでs…。》


〔よしそれで。さぁなってすぐに、ほら!〕


《は、はいぃ‼︎》


突然何かに火がつき、エキサイトし始めたラーに動揺しつつ、渋々変身した。


光が収まるとそこには…


1人の10歳くらいに見える幼女がいた。


〔きゃーーーーー‼︎ カワイイ‼︎‼︎ もう最高っ‼︎〕


ついに発狂した...。


その狂気に満ちたラーの絶叫に驚いた楓が、何事かと中から飛び出してきた。


しかし---


「きゃーーーーーーーーーー♡可愛すぎる‼︎ 誰この子⁉︎ ウチにおいで、精いっぱいの待遇は保証するよぉーーーーー‼︎」


今度はラー以上の爆発ぶりを発揮して、結局事態が収拾するまでにしばらくの時間を要するのだった。


---勿論変異種聖龍は快く招き入れられ、新たな名前として尊桜そうらが与えられた。本人はかなり複雑そうな表情をしていたのだが---

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