第8話 生存者のキノコとの邂逅
早速訪れた2つ目の世界に到着したとき、信じられない光景が広がっていて驚きを禁じ得なかった。
なにせ、植物が肉食動物の如く動く生き物を根こそぎ追い詰めて、食らっていたからだ。
しかも数分前に地面に落ちたばかりの種子なのに、もう芽吹いて活動を成体と同様に始めているものもある。植物だとしてもありえない成長速度だ。
その圧倒的なまでの食欲と繁殖力をもってして、この世界を壊滅に追い込んでいることは明白だった。
「これ...、想像以上にまずい状況デスヨネ?」
〔うん、かなりまずいね…。転移場所間違えていたら私たちは今頃粘液まみれだったろうね...。〕
「いや、そっちの心配をしているわけではないんですけど…。」
〔いや、楓ちゃんはもう少し身嗜みとかに気を使ったほうがいいと思うよ?女の子なんだし。〕
「別に気にする必要ないですよ?私は。だって若作りする必要ないですし。それに私、もともと可愛いですし!」
〔うわっ!嫌味かなぁ、それ‼︎ なんだか喧嘩を売られているようにしか思えないんだけど、売っているのかな、かなっ⁉︎〕
「イエイエ〜。ソンナコトアルハズナイジャナイデスカー。」
〔おしっ、表でろっ‼︎ 今から喧嘩祭りの始まり
だっ‼︎ 〕
「そんなことはどうでもいいのではやく次の行動方針を決めましょうよ。」
〔少しは喧嘩を売られた方の気持ちを考えて
よっ‼︎〕
いよいよやかんのように湯気を立て始めたラーに水をぶっかけて落ち着かせ、とっとと次の行動を起こすことにした。
「それじゃあ、まずは安全な寝床を確保して、それが終わり次第生き残っている文化保有生物を探しましょう。」
〔その前にお風呂入りt...、…いえ何でもないです。でも最悪寝床に関しては私たちの能力で作ればいいから、もう生存者を探しに行ってもいいんじゃない?〕
「た、確かに…。そうですね、それじゃあ早速生存者を探しにいくとしましょうか。」
〔やったぁ〜‼︎ ひっさしぶりに楓ちゃんを言いくるめられたぁ〜!ヘクチュッ!〕
とてつもない苛立ちを必死に堪えつつ、探しに出かけるのであった---
===
生存者探しに出かけたのはいいものの、めぼしい場所を知るはずもないので当然見つかるはずもない。間もないうちに2人共疲れ始めていた。
「わかっていたことですが、やはりそう簡単には見つかりませんねー。」
〔探し方を変えた方がいいのかなぁ〜?でも探索魔法を使うと植物共に一瞬でバレて襲ってくるしねぇ〜。結局目視探索しか方法がないんだよね。はぁ〜、疲れる...。〕
「あっ、こんな時にこそ-博学-の出番じゃん!」
と思い、発動しようとしたが、
〔もう発動しているんじゃなかったっけ?〕
「…忘れてました。」
ガクッとうな垂れる楓。
「このままじゃぁこの世界に来た意味がないじゃないですか!はやく見つけないと...。」
と、そのとき目の前の茂みが不意に揺れた。
警戒を一気に高め、その茂みの向こうを覗くと...
1匹(?)のきのこが飛び跳ねてた。
「えーっと、これは生存者ってことでいいんですかね...?」
〔生存者というより生存生物だけどね。どうやってコミュニケーションをとれるのかなあ?〕
会話が成り立つかを不安に思っていると突然話しかけられた。
「おい、そこのお嬢さんら。地上を生身で闊歩するのは流石に危ないぜ?はやく住処に戻ることだな。」
当然、私たちは…
「〔しゃ、喋ったーーーーーぁ‼︎‼︎〕」
驚いた。
「あ、あのぅ。どうやってその体で話すことができるのですか?すごく気になるのですけど...。」
知識欲には勝てず、思わず聞いてしまった。
私ってこんなに理性抑えるの苦手だったっけ?
〔いや、ソレ今聞くことじゃないでしょ…〕
とにかく私たちは生存者第1号を見つけることができた。
===
しばらく歩きながら話していて、大まかなこの世界を取り巻く現在の情勢が見えて来た。
曰く、
この世界ではもともと植物の方が食物連鎖のピラミッドで上位に位置しており、動物はどうにか食べられまいと逃げ延びて来たらしい。そのようないたちごっこを続けているうちに徐々に植物種の個体数が減少して来た。
…おそらく捕食数が減少して餓死していったのだろう。
とにかく個体数が減少したことは動物種にとって僥倖だったのだろう。
しかし悲劇はそのような緩んだ雰囲気の中で起こった。植物種の中から行動できる種類が現れ始めたらしい。
そのことで優勢だった動物種の勢いは一気に衰え、瞬く間に捕食されて今に至るという。
この話を聞いていたところ、ある1つの疑問に行き当たった。
「あの〜、キノコさん。」
「あ?俺のことか?キノコさんはやめてくれや。トードって呼んでくれ。」
「じゃあ、トードさん。なぜ植物種がある時突然変異したのでしょうか?原因とか判明していることはあるのですか?」
「ああ、あるぜ。なんでも奴らには母体の株があって、そいつが配置する地に適した能力を編成して子株に持たせているらしい。おそらくその母株が現れた事が衰退の元凶だろうな。」
「なるほど…。」
〔うぅわ、絶対めんどくさいやつじゃん...。帰りテェ〜。〕
「私に乙女らしさ求める前に、まず先輩が言葉を直しましょ?ね?」
〔何でそんなに母性溢れる顔で微笑みかけてくるの⁉︎ 何だか悲しくなってくるからやめてよぉ〜!〕
「???何だか分かんね〜が、話しを続けていいか?」
そうして私たちの漫才に水をさしつつ話しを続けるトード。
このキノコ、空気読めない上に無意識とかタチ悪いな〜。
「そいでよ、運が悪いことにそんな変異母体がな、10箇所以上に同時多発したらしいんだ。俺たちは何者かの悪意があるって睨んでるぜ。」
「ほぅ…、」
〔確かに怪しいですな。〕
---何者かの悪意を背景に感じつつ、私たちは歩みを進めるのだった
遥か向こうで巨木が不気味に、嘲笑うかのように揺れていることにも気づかずに---
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます