第7話 和睦は締結し、選定をする
ヒューマン種同盟のパースからようやく妥協を引き出すことに成功したことで、亜人族らの各集落ではお祭り騒ぎになっていた。
この人ら、まだ和平は終わってないことは覚えているよね…?
確かに歴史的な勝利には違いないのだろうが、いま浮かれて本番失敗しちゃいました〜!とかはさすがに洒落にならないから気をつけてほしいなぁ。
これから行う和平交渉の行く末を(1人で)危惧していると不意に話しかけられた。
…1人で考えてたけど何か悪い?
「楓様!素晴らしい作戦をありがとうございました! そのおかげで我らだけでは成し得なかった交渉の場を設けることができました‼︎」
率直に褒められると照れるんだけど...。何にせよ素直な言葉は嬉しかった。
「どうもありがとう。でも本番はこれからよ?今、気を抜きすぎて交渉の場で失敗しては意味がないのですからね。」
私の言葉でまだ第一歩しか踏み出していないことを思い出した一同は僅かに緊張感を孕んだ空気を取り戻した。
「それでも今日くらいはゆっくり休んでくださいね?今まで緊張状態が続いていて、身体もきっと疲れていますから。」
〔はぁ〜い!〕
勢いよく返事をするラーだった。が、
「先輩は今すぐに片付けないといけない事案がまだ残っているでしょ!さあ、行きますよ!」
そういって執務部屋の方に先輩を連れていく私。
〔え、ちょ、待ってよ楓ちゃ〜ん!もう少しだけ、もう少しだけでいいから仕事を忘れてパーティーを楽しませてぇぇえ‼︎〕
問答無用で会場から引き摺り出されるラーの姿はとても神とは思えないものだった。
しかし自らも楽しんでいる彼らには、その姿もすら酒の肴にしかならなかった。ある意味私たちよりも図太い神経してるなぁ…。
===
そして3日後、両陣営のトップらはどこにも属さない土地である、レイス島に来ていた。この島は快適な気候をしているが、凶悪な動物や植物も蔓延っているらしい。
しかし昨日のうちに、会談場所一帯の生息する生物で、会談の邪魔をしそうな生物は粗方先輩に始末させたので問題ない…はずだ。
(ちなみに先輩は討伐から帰ってきたとき、神とは思えないほどボロボロで、半泣きだった。)
兎にも角にもレイス島にきた私たちは時間はまだあるものの一足先に会場入りしたのだった。
===
定刻通りに始めることができた会談は、開始早々波乱の幕開けになりそうなほど険悪なムードであった。
私とラーの両脇にドラグとパースが座り、その奥に各陣営のトップ級が座っていた。しかしその対面している顔にはあからさまに嫌悪の感情が表れていたからだ。早く抜け出したい、この会場から...。
「では第1回和睦会談を始めます。進行は私がしますのでそのおつもりで。まずは…」
始まったばかりの頃こそ険悪だったが会談が進むにつれてようやく、少しずつではあるが両者の隔たりがなくなってきたように思えた。
勿論私が取り仕切っているので問題など起きるはずがありませんけどね!
全ての和平に関する検討が終わり、会議は閉会に差し掛かった。
「ようやく終わりそうですね、くだらない争いが。私は嬉しいです!」
私が率直な感想を言い、無事会談は終了した。
そしてこの日、後世に“茶摘平和条約”と呼ばれるようになる歴史的な条約が発効し、この日を和睦の日と決めたのだった。
…何この条約の名前、恥ずかしいからやめて!!!
===
無事1つ目の世界を救済し、帰路についていた楓とラー。
「いやぁ〜。無事成功しましたね。よかったです!」
〔私…後半空気だったんですけど...。泣いてもいいかな、いいよね?〕
「いいですけど、泣いている間は近づかないでくださいね?鬱陶しいので。」
〔言葉の鋭さに磨きがかかっている…だと…⁉︎なんてことだ‼︎ 転生したばかりの時はあんなに初心で可愛らしかったのに...。〕
その言葉すら無視され、とうとう泣き出したラーでさえ見事に空気扱いする楓。
そして新たに救済すべき世界を探すのであった---。
〔うぅ...。そういえばあの世界に茶畑作っていないけどよかったの?〕
「…あっ⁉︎ 忘れてたーーーーーっ‼︎」
そういって急いできた道を引き返す楓。
〔はぁ〜。普段はビックリするくらい物覚えがいいのに、たまにこういうことがあるからなぁ〜。うん、可愛い‼︎‼︎ やはりあなたを転生させてよかったよ。〕
楓を追いかけながらもそう思うとつい笑みが溢れてしまう。
結局茶畑を作ることは不可能になっていた。
楓はそのことを知り、この世の終わり、という顔をしていて、ラーはその顔を精一杯に笑った。
その結果喧嘩が勃発し、3日ほど神域に帰るのが遅くなったのは今では笑い話だ。
===
とある世界にて…
「あぁ、このもうこの世界は終わりだ...。」
目の前に広がっていく絶望を前にして彼はそう呟いた。
===
神域に帰ったのち新たに救済すべき国を選定していた。
〔う〜む、なかなか私たちが出向かなくてはいけないほど危機に瀕している世界はありませんねぇ。〕
「それ、本当はいいことなのですけどね。…あっ、この世界はどうですか?植物型モンスターが陸上のあらゆる生物が侵食されて、ほとんど多様性が失われているようですよ?」
それを見たラーは
〔おぉー!いいね。面白そう‼︎〕
「いや、当事者からしたら洒落になっていない状況だと思うんですけど…」
こうして2つ目に訪れる世界が決定した。
---のちにラーはこの世界を訪れたことを今までで最も後悔したのだった---
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