第3話 見張り役とはとりあえず戦闘になる...?

小一時間ほど探し回りようやく見つけた多種族連合の本陣。そして大将と話し合いの場を設けることにやっとの思いで成功した。


というか隠れるのうますぎるんですけど…。こっちがキャラ崩壊しそうなほどには。

もう神としての威厳とか全然全くなくなっている感じしかないんですけどぉ。あと警戒心強すぎない?絶対強いよね?


なんてことを考えているとついに大将らしき男が出てきた。そして開口一番に


「我は多種族連合総督、ドラグ・ニーレンだ。頭が高い、控えよ!」


と言った。


うわぁ、面倒臭そうな奴が出てきた...。絶対話拗れるじゃんか。てか“頭が高い、控えよ”とか初めて聞いたなぁ。


などと考えていると...


〔はっじめましてぇ〜!豊穣の女神のラー・ケミストだよぉ〜。お前らの方が頭が高ぁ〜い、控え

よぉ〜!〕


例の駄女神が口走っていた。


とりあえず先輩のことは1発叩いて放置しておいて、話を進めることにした。その間ドラグがいたたまれないような微妙な顔をしていたのは気にしないことにする。


「はじめまして、ドラグさん。私は叡智の女神茶摘楓と申します。まずはこの世界で何が起こってきたのか出来るだけ客観的に教えてもらえませんか?」


そういうと、ドラグはすぐに真剣な顔に様変わりし、話を始めた。


ドラグの話をまとめていくと、


この世界はもともと様々な種類の生物が生きており、それはもう素晴らしく豊かだった。しかし800ほど前から対立が激しくなってきた。特にヒューマン種が技術革新を起こし始めたことで力を強め、亜人系の種族を迫害していた。そして750年前、とうとう耐え切れなくなった亜人種らが同盟を結び多種族連合を形成してヒューマン種に対立し始めた。


というのが一連の流れだそうだ。


「そして750年もの間戦争を続けていたためにこの星はかなり荒廃してしまったのだ。わかっていたとはいえ神が干渉しなければならないほどに荒れていたとは…。この世界の1住人として謝罪する。申し訳ない。」


そういって頭を下げるドラグ。最初の傲慢さはどこに行ったのやら...。


兎にも角にも事情はわかった。後はヒューマン種側の意見(言い訳)を聞きたいのだが…。


〔未だにヒューマン種側の本陣及び大将が見つからないんですよねぇ〜。どこにいるかわかりませんかぁ?〕


絶妙なタイミングでドンピシャの質問をしたラー。先輩流石です!と心の中で賞賛する。


「あぁ、そのことについては大まかにではあるが掴んでいる。我々の調査によると奴らの本拠地は東に約1500キラメ(1キラメ≒1km)の地中だ。」


〔地中に住むとか地底人みたいですねぇ〜〕


と言いながら出された茶菓子を根こそぎ喰らう豊穣の女神。女給の方が半泣きになって茶菓子を出している。てか世界救いに来たのに食料問題深刻にしてどうすんだよ...。


〔楓さん⁉︎ いつの間にそんなに口が悪くなったんですか⁉︎〕


…どうやら心の声が漏れ出ていたらしい。


「すみません、先輩。心の声がつい口に出てしまいました。テヘッ」


〔ひ、ひどいですよぉ〜‼︎〕


といってとうとう泣き出してしまった。しかし流石私。そんな先輩をガン無視して話を戻す。...先輩を慰めている女給の方には後でお礼をしておかねば。


「では私たちはその本拠地があると思われる地点に行ってみます。その間戦争の再開は絶対に禁止ですよ。もし勝手に始めたら…。ニコッ」


不気味に微笑むとその場にいた全員(ラーも含む)が凄い勢いで縦に首を振る。...待て、何故先輩女神まで首を振っているのだ。



---そうしてとりあえずは片側陣営の説得に成功したのだった。---



===



多種族連合の陣営を出発して1時間。私たち2神は情報のあった東の地に来ていた。


「空を飛ぶ魔法ってかなり便利ですね〜、ラー先輩!」


初めての経験で割とハイテンションになっている私。いっぽうで、


〔そ、そうだね。(さっきの楓ちゃん凄く怖かったよぉ)ボソッ〕


「えっ?何か言いましたか〜?先輩〜!」


〔イイエナニモイッテイマセン〕


こんなたわいのない会話をして目的地を目指していた。ある程度近づいたので地上におりて歩いて残りの道を消化していった。しばらくすると、


「何者だっ‼︎ 動くんじゃないっ‼︎」


突如頭上から降ってきた数発の魔法弾と共にそんな声が聞こえてきた。


すると今まで若干顔色が蒼白だった先輩が急に冷たい声音になって、


〔あなた方こそどういうつもりです?〕


と言って、飛来した魔法を全て掻き消した。


…正直先輩が怒るとここまで怖いとは思わなかった。これからは怒らせないようにしないと...。


おそらく同じ思いかそれ以上に聞こえたのだろう。廃墟の上に隠れていた数人のヒューマンが飛び降りてきた。そしてその隊長らしき人物が話しかけてきた。


「私の名前はヒューズ、この隊の隊長です。先ほどは隊員が失礼をしました。どうかお許し下さい。それでどうしてこのような場所に女性が2人でいるのですか?」


どうやらこの隊長格の男は礼儀が正しいようだ。はたまた私たちの正体に気づいたのかもしれないが…。どちらにしろ多種族連合の時との差があり少々驚いていた。


〔はぁ〜い!豊穣の女神ラー・ケミスト

でぇ〜す〕


数人の兵士は先ほどとの差にかなり困惑していたのに気づいた。流石に私もそこには心の中で同意していた。


「私の名は茶摘楓です。叡智の女神です。

こっちのラーの補佐です。早速ですが、あなた方の大将さんのところに案内してもらってもいいですか?」


「誰が見知らぬ奴を連れていくのだ‼︎ 神っていうのも実は嘘なんじゃねぇのかよ‼︎」


ヒューズの後ろに控えていたモブ隊員が出しゃばって怒鳴り出した。


『黙りなさい』


私のもう一つの能力-運動操作-を応用して、その男の声帯の運動を強制的にゼロにした。突然声が出なくなった男は驚き混乱していたが気にせず交渉を続けた。


「それでどうしますか?別に聞かなくとも間も無く見つけられます。ですが案内してもらった方が時間短縮になるのですが...。」


しばらく思案していたヒューズだったが、とうとう口を開いて、


「わかりました。案内しましょう。」


やったぁ!これで楽して目的地に辿り着ける‼︎と思っていた矢先ヒューズは続けて言った。


「しかし私が出来るのは本拠地に連れていくところまでです。その後のことは自分たちで交渉してください。私たちにそこまでの権力はないですから。」


「えぇ、構いません。もともと全て自分で見つけようとしていたので、それに比べたらまだまだマシですから。」


そういって優しく微笑む。


のちにある立ち会った兵士はその笑顔は神々しすぎて直視できなかったと記したことを楓は知らない。


てかこの兵士呑気すぎるでしょ!




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