第29話 文化祭直前の生徒会
文化祭の準備も着々と進んでいるようで、各クラスの出店準備も始まり、校内はお祭りムードの賑わいで満ち溢れていた。
出店準備が始まる前、姉貴は全校生に通達をだした。
「文化祭では“自由”が重要だが、自由には当然責任も伴う。そのため実行委員で作成した安全マニュアルには従ってもらう。それ以外は好きにして構わん。」
提示されたマニュアルには、食品の衛生管理、お化け屋敷やゲームなどの安全管理面、仕入れから販売方法、在庫管理や価格設定の基準、そして業務分担や宣伝方法のアドバイスまで、安全面と経営戦略まで網羅されたマニュアルであった。
しかし、どれだけ入念な準備があったとしても、突発的なトラブルは起こるものだ。
「吹雪会長! 企画部がバルーン用のヘリウムの発注量を間違えて、多くの在庫が出てしまっているそうです。そこで変声選手権をしようと言いだしてますが……。」
実行委員の女子生徒が困った表情で、姉貴に指示を仰ぐ。
「ヘリウムの吸引は窒息の危険性があるため却下だ。代わりの企画を提案しなおすように。そうだな――何も思いつかなければ、宣伝用のアドバルーンに使うよう指示しなさい。」
「はい、わかりました!」
姉貴はトラブルが起きても顔色一つ変えず、淡々と的確に指示をだす。
「言葉先輩~! すみません! 予算の再配分ですけど、企画の予算を補填した方がよろしいでしょうか?」
「うーん。ヘリウムの誤発注の件は自業自得だからねぇ。さっき吹雪ちゃんが言ってた通り、アドバルーンにヘリウムを使うなら、広報費として正式に落としてもいいけど。」
「なるほど、ありがとうございます!」
一つのミスがあると、そこから他の部署にまで連鎖的に影響を与えかねない。しかし、こうしてお互いフォローすることもできる。
まぁそれも的確な指示ができる人あってのことだ。
「流れるような対応だな。」
現生徒会のメンバーは例年でも精鋭ぞろいだと噂されるが、やはり特に姉貴と言葉先輩の流れるような仕事ぶりにはいつ見ても感心させられる。
俺の言葉に、氷菓は「えっへん!」と小さな腕を組みながら、椅子の上に乗って言った。
「ふふん! 吹雪さまと言葉先輩の仕事ぶりはこんなものじゃないわ!」
無視してやろうかと思ったが、自己存在を強調しようと椅子の上にまで上がる彼女を無視するのは流石に良心が痛んだ。
「……何でお前が得意そうなんだよ。ってか、来年はその偉大な二人が抜けると思うと、やっぱ少し不安だな。」
氷菓自体は現副会長としての経験もあるし、能力的にも一般的にはかなり高いだろう。とはいっても、姉貴と比較するとやはり現状では見劣りしてしまう。
そして副会長である伊達丸尾だが、根性こそはあるものの、能力的には生徒会の重労働についていけるか心配がある。
「それは……そうね。」
氷菓は少し俯きがちになったが、弱気な想いを振り切るように顔を振った。くるんと内巻きになった彼女の髪が揺れる。
「私は吹雪さまにはまだまだ及ばない。でも、私の目指す『生徒の夢を応援する学校』を作るために、必死でがんばるの!」
氷菓も不安はあるのだろうが、それでも彼女の瞳には凛とした光が灯っていた。
「それなら――必死でがんばる次期生徒会長さまを、次期庶務の俺も支えないとな。」
「ふふっ、ありがとね。部活大変なのに、生徒会の仕事引き受けてくれて。」
「いいって。ともかく、目の前の仕事をきちっとやっていこう。」
文化祭の一週間前は怒涛のハードワークであったが、それなりに充実した日々となり、全校生がわいわい楽しそうに準備する姿は、なかなか素敵な光景であった。
前日作業が全て終了したのち、姉貴はみなに労いの言葉をかけた。
「みなこれまでの準備ご苦労だった。当日の明日はまた各々仕事があるだろうが、各自、まずは自分がきっちり楽しむことを忘れないように!」
「「はい!!!!」」
そしていよいよ、体育祭以上に賑やかな文化祭が開幕する。
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