第4話 永森氷菓はガチレズのロリっ子である


 その日の部活が終わった後、俺は氷菓との約束のため、彼女を校門の前で待つことにした。


「あれ? 雪ちゃん先輩、帰らないんですか?」


 校門前で立ち止まる俺に、桜木ちろるは不思議そうな表情で呼びかけた。


「あぁ、何か副会長に呼び出しくらってさ。何の用かはまだ聞いてないんだけど……。」


「えっ……!? ちょっとそれって…………もしかして、告白?」


「いや、まぁそれはないわ。」


「わかりませんよ!? ラブコメ恒例……マンネリ化を避けるための、二学期新キャラヒロインの登場かもしれません。」


「こらこら、ちろるん。そういうメタっぽい発言はやめなさい。」


「本当に告白じゃないんですか? ヒロインレースに遅れたのを取り戻そうと、いきなり告白とか怒涛の猛アピールで追い上げて来るかもしれませんよ? 読者人気かっさらおうと企てているかもですよ!?」


 いやいや――「第一話冒頭でいきなり告白してるあなたがいいますか」――とは突っ込まないでおこう。


「まぁロリっ子副会長はガチレズらしいし、俺になんか興味ないってば。」


 慌てるちろるを宥めていると、俺の背後からどこか舌ったらずなロリボイスが聞こえてきた。


「――誰が、ロリっ子でガチレズなのよ。とんだ風評被害だわ。」


「このロリボイスは……!?」


 俺とちろるは声のする方向を振り返ったが、そこには誰もいなかった。


「あれ誰もいませんね……。空耳ですかね?」


「本当だ。もしくは幽霊の仕業かもしれんぞ。」


「ちょっとっ!! いい加減にしなさいよっ! 今日それ二回目でしょうが!」


「おぉ、氷菓じゃないか。」


「わっ、ちびっ子副会長じゃないですか。びっくりしました。」


 驚く俺とちろるに対し、氷菓はいらいらした様子で迫ってきた。


「嘘つけ! そこの女子生徒! あんた振り返った時、私と目会ったでしょっ!」


「いえいえ、合ってませんけど……」


「雪ならともかく、あんたは私とそこまで身長変わらないでしょうがっ! 絶対に目あってた!」


「いえいえ、合ってませんよ。」


 何だこの吉本新喜劇――さすがに少し氷菓が可哀そうに思えてきたので、俺は二人の仲裁に入った。


「まぁまぁ、氷菓は俺に何か用事があるんだろ? その要件を教えてくれよ。」


「あっ、そうだったわね。」


 永森氷菓はちろるから俺の方へと向き直り、少し恥ずかしがりながら言った。


「あ……あの……、私は生徒会選挙までに、吹雪さまみたいになりたいの。だから、それを手伝ってほしい。」


「――はぁ?」


 何を言っているのか意味が分からない。俺の姉貴みたいになりたい?……それを手伝う? 何を言っているんだこいつは。


「雪ちゃん先輩、このちびっ子は何言ってんですか?」


 傍で聞いていたちろるは、俺と同じ思いを抱いていたらしく、きょとんとした表情で尋ねてきた。


「さぁ、俺に聞かれてもわからん。」


「誰がちびっ子よ! あんた一年生でしょ? 口の利き方に気をつけなさい!」


「いやぁ、すみません。その見た目だと年上の気がしなくて……。」


「何だとぉ! ふんっ、あんたこそ胸はお子ちゃまじゃないの。」


「っはぁ!?/// 胸だって私の方がおっきいからっ!!」


 ちろるは涙目になりながら、「私の方が大きいですよねっ!?」と尋ねてきた。


「ちろるん悪いけど、ちょっと話が進まない。ほら、チロルチョコあげるから、しばらくお口チャック。」


 きなこもち味のチロルチョコを包みを開けて手渡すと、ちろるは一口でぱくっと咥えて「……むぅ~。」と不服そうな表情を浮かべながらも押し黙った。

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