第四章 海水浴とそれぞれの夢
第16話 それはただの男避けの案山子(かかし)である
長い夏休みも折り返しに入り、部活と夏休みの課題、及び受験勉強というサイクルで、特に代わり映えの無い日々が続いていた。夏休みらしいイベントといえば、ちろると行った花火大会くらいである。
夏休みも残り二週間となった頃、思いがけない人物から夏休みらしいイベントに駆り出されることになった。
「今度の日曜、一日あけといてくれる?」
泣く子も黙る生徒会長こと、俺の姉貴である青葉吹雪からの要望であった。
「えっ? 何でだよ……」
「おい、あからさまに嫌そうな顔をするな。」
姉貴は俺の反応を、目を細めて見ながら言った。姉貴のその凄みのある目つきで見られると、どことなく委縮してしまう。
「別に嫌というわけではなく、何の用事か不安なんだけど……」
「大したことじゃない。ボディガードの依頼だよ。」
……それのどこが大したことないのかが知りたい。というか、意味がわからん。
「ボディガードとか、どっかのSPにでも依頼しろよ。そもそも姉貴は師団長クラスの強さだから、ボディガードなんていらんだろ。」
俺のハンターハンターネタは華麗にスルーされ、姉貴は事の次第を語った。
「実は今度の日曜日にだな……受験勉強の息抜きに、言葉と一緒に海に行くことになったんだ。しかし、こんな美女二人だけでビーチに行けば、ナンパされまくって鬱陶しいことこのうえない。そこでナンパ避けとして、雪にも来てほしいってわけだ。」
「ボディガードというより……男避けの案山子って言うべきじゃないか?」
もしくはCDを糸でぶら下げてるやつ。鴉ってきらきらした物が好きなのに、あれ本当に意味あるのだろうか。
「まぁ細かいことは気にするな。そういうわけで、頼んだぞ。」
受験の息抜きに海水浴かぁ――姉貴と言葉先輩に、そこに男が俺一人っていうのもなぁ。どうせなら、もう一人男手が……………っあ!
「なぁ、姉貴――」
「どうした弟よ」
「俺一人だと心もとなくないか? どうせならさ、もう一人男の人がいた方が、ナンパしてくる輩も減るだろ。」
「……何を考えてる?」
「えっ? いやっ、男が俺だけだとさっ……俺も寂しいなぁって。」
話の持って行き方が少し不自然だったか……。姉貴は俺に対して、何か裏があると疑いの目を向けている。
「……ふむ。まぁ、案山子は大いに越した事はないが……。ちなみに誰を呼ぶつもりだ?」
何とか誤魔化せたか? いや、まだ安心できない。
「そ、そうだろ? えっと、サッカー部の元キャプテンの……」
「
「えっ、姉貴……須崎先輩のこと知ってんの?」
須崎先輩は、姉貴と同じクラスになったことはなく、これまで特に接点はないと言っていた。だからこそ、俺に姉貴との接点を作ってもらえないかとお願いしてきたのだ。どうして知っているのだろうか……。
「クラスが同じになった事はないがな。生徒会長なら、学校の全員の顔と名前くらい知ってるのが基本だろ。」
「いや……。そんな生徒会長、俺の知る限りは、ハヤテのごとくのヒナギク会長くらいだけど。」
「本気でキモイからアニメのキャラを例に出すのやめときなさい。」
「……辛辣なご忠告ありがとうございます。それで、須崎先輩の件は……」
「まぁ、私は別に構わないが……。一応、言葉にも確認をとってみる。」
「そっか……。よかった……。」
ほっと安堵の息を漏らした瞬間、姉貴はまたきっと鋭い眼光をこちらに向けてきた。
「よかった――? 何そんなに安堵した表情を浮かべているんだ?」
「え? いや、別に……男が俺一人にならなそうでよかったなぁ~ってさ……。」
「……っふ。まぁいいだろう。」
何か全て見透かされている気もするけど、ともかく須崎先輩と姉貴の接点を作るというミッションは果たせそうである。言葉先輩が俺のお願いを断ることはまずないだろう。
「言葉もそれでOKだそうだ。」
言葉先輩は、俺と須崎先輩が同行する事を快く受け入れてくれたそうで、俺と須崎先輩、姉貴と言葉先輩の四人で海に行くはずだった……。
しかし――海水浴当日、予期せぬ人物がもう一人現れることになる。
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