天使のような可愛い過ぎるクラスメイトと、俺を好き過ぎる可愛い後輩、どっちを選べばいいんだ!?

冨田秀一

高二 一学期 七月の出来事

第一章 一途な後輩からの告白

第1話 桜木ちろるは一途だから、きっと全力で俺をほれさせにくる


 この物語には、青春にまつわる悩みがいくつか登場する。


 ただし――主題はタイトルの通りであり、ヒロインは二人存在し、必ず主人公はそのどちらかと結ばれる。


 なお作者は、主人公が誰と結ばれるかを最初から決めたうえで書いている。また何故そのヒロインと結ばれるかについては、思い付きではなく一つの大きな理由に基づいて決定されている。


(ハーレムエンドやアナザーストーリーの要望があれば、本編とは異なる形で書く)



―― 高校二年生 七月初旬 —―


「先輩の事が――好きですっ。好きっ……大好きっ……///」


 必死に懇願するような声で、サッカー部マネージャーである一つ下の後輩、桜木さくらぎちろるは俺の胸にひしっとしがみ付いてきた。彼女の細い首から小さな耳にかけるまで、顔全体を紅潮させている。


「えっ……」


 青天の霹靂であった。突然の後輩からの告白に、俺は激しく動揺した。


「………///」


 ちろるは恥ずかし気な表情を浮かべ、俺の胸へぎゅっと顔をうずめている。彼女の体温と激しく鳴る鼓動の音が、俺にまで制服ごしにも伝わってくる。


 可愛いらしい後輩から突然の告白……ここで俺がとるべき行動は……?


 俺の脳内には――少し前のオダギリジョーが出ていたライフカードのCMのように、三枚の選択肢が書かれたカードが浮かび上がった。


 本命、俺には他に好きな人がいるんだ、告白を断る

 対抗馬、ちろるんこんなに頑張ってんじゃん、ちろるの告白をOKする

 穴馬、回答を保留する。


 どうする? どーすんの? オレ? どーすんのよ!!!


・・・・・・いや、まじどーすんの?


 恐れ多くも正直に言うと、俺には入学当初からずっと好きな女の子がいる。


 その子は同じクラスの神崎かんざきさんという、下界に落ちてきた穢れを知らない天使である。吹奏楽部でフルートを吹き、あどけない笑顔が可愛い、黒髪の清楚な女の子だ。そんな彼女が好き過ぎて、もう他の女子生徒は案山子かかしやブリキ人形に見えるほどである。


 ここは男らしく、本命の神崎さん……と言いたいところだが、可愛いらしい後輩であるちろるからの一生懸命な告白をOKしてやりたい気持ちもある。


 自分の想いを諦めて、後輩からの好意を受け入れるべきか――


 はたまた自分の神崎さんへの想いを貫き通すか――


「ごめん――ちろる――。」


 俺は彼女の震える肩に手をあて、俺の身体から引き離した。


「…………はい。」


 桜木ちろるは消え入りそうな声を出し、全てを悟ったかのように悲し気な瞳で足元を見つめた。


「ごめん、今までそういう風に、お前の事を見てなかった。――だから、今は返事ができない。」

「……え? それって返事は……保留って……ことですかね?」


 まさかの大穴、回答を保留する。我ながら全くもって情けない


――けど、もう少しよく考えるための時間がほしい。


「勝手なこと言ってるよな。本当にごめん。」

「いえ……、わかりました。」


 ちろるは制服の袖で顔をこしこしと拭った。そしてにこっと笑顔を作った。少しぎこちない笑顔だったのだけれど、それはどこか決意に満ちたような表情だった。


「そうですか! ……ということは、私にもまだまだ先輩とお付き合いできるチャンスはあるってことですよね!」


「おっ……、おう。」


「これからばんばんアピールしますからね! 全力で惚れさせにかかりますから、覚悟してください!」


「……。」


 後輩の前向きな発言に、俺は思わず無言で感心してしまった。


「ちょっと、何か反応してくださいよぉ~! 不安に……なっちゃいます……。」


 ちろるは上目遣いで、俺の反応をおそるおそる覗うように眺めた。


 そうだ――好きな人に思いを伝えるのは不安なのだ。


 好きな人に自分はどう思われてるのか? 嫌われていないだろうか? 


 そうつい一喜一憂してしまうものだ。せっかく告白してくれて、ここまで言ってくれる後輩に、こんな不安そうな顔をさせてはいけない。俺もお前が好きだとは今は言えないが、せめて笑顔にしてあげたい。


「……ははっ。そうだな。どんどんかかって来い! 返り討ちにしてやる。」


「えぇっ!? 返り討ちにされるんですかっ!?」


「そうだな。俺のことを惚れさせるように、せいぜい頑張ってくれ。」


「はぁ!? なんかムカつくんですけど! ……ふんっ、先輩なんかもう知りません!」


 ちろるは頬を膨らませ、怒ったように背を向けてしまった。


「え、ちょっ――ごめんってば。」

 

 慌てて謝罪の言葉を口にすると、ローファーの踵を軸にして、彼女はくるっと回ってこちらへ振り返った。


「ふふっ、怒ってないですよ。」


 ちろるはそう言って、慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。


 ついお道化どけてしまったが、とりあえずは、ちろるの元気が出てくれたようでよかった。


 回答を保留するという決断は、男らしくないだろう。俺が少年ジャンプのラブコメの主人公なら、読者から総スカンを喰らって、今頃ネットで大炎上している頃だ。


 でも、本気で悩むための保留は、適当な返事をするよりいいのではないか。


 俺には神崎さんという好きな人がいる。

 でも、ちろるの告白を受け入れたい気持ちもある。


 それが今の、正直な気持ちである。

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