#9 決戦前夜
翌朝、休日だったこともあって早い時間にログインできたので、ルアさんが被害に遭っている山荒らしの森に行ってみることにした。
アイデン鉱山の近くにあるということで、場所自体はかなりわかりやすくすぐに見つけることができた。
「ここの森、通れたんだな」
「わたしもここが通れるは思わなかったな…」
二人でよくアイデン鉱山に来ていたときにここも当然見つけてはいたのだが、入口らしきものがどこにも見つからず、この森を迂回するようにして向かっていた。
これ、入口がどこにもないように見えて実はどこからでも入れるやつなのでは…。
だとしたらいつも先回りされているのも説明がつくかもしれない。
「みゆ、いつも彼女が襲われていたのはエリアの真ん中あたりだったよな?」
「うん。そのはずだよ」
「じゃあ、一旦そこに向かってみよう。もしかしたら今もいるかもしれない」
「わかった」
十分ほど歩くとルアさんがいつも襲われているであろうマップの近くまでたどり着いた。
罠探知をし、目視でも確認したところ設置型の罠のあとがあった。
ただ、置かれていた形跡があると言うだけで今は設置されていないようだった。
「設置型の罠はすぐに設置できる。作るのに手間はかかるけど、一度の作業でいくつか出来る」
「つまり、彼女を何度も襲っている誰かは彼女が森へ入るのを確認してから罠を張ってるってこと…?でも、そんなことができるわけ…」
そこまで言って、彼女もその可能性に気づいたらしくハッとした表情で俺を見上げてきた。
「もしかしてこのマップ、周辺のどこからでも入れるの…?」
「うん。その可能性が一番高いと思う」
二人で確認してみたところ、本当にどこからでも出入りができるエリアになっていた。
これはビンゴだな。彼女に報告しよう。
あとは彼女がどの時間に襲われていたかだけど…。この時間じゃ明るすぎる。十中八九夜完全に暗くなってからだろう。
明るいと罠が見つかってしまう可能性も上がってしまうからな。
「いったん戻ってルアさんに報告しよう」
「うん。ここまで情報が集まれば十分だよ」
ルアさんと連絡をとり、二時ごろに彼女がうちに再びやってきた。
「ルアさん。俺たちで昨日あなたが言ってた場所に行ってみたんだ。それで、あなたはもう気づいていたかもしれないけど…あそこはどこからでも入ることができるんだ」
「…つまり、周りのどこからでも入れる、ってことですか?」
この反応を見るに彼女も知らなかったのだろう。表情に出ないように隠してはいるが驚きが隠しきれていない。
こういう仕掛けは、特段珍しいわけではない。このゲームではあそこだけかもしれないが、他のゲームでもああいったマップはある。
ただ、今言ったようにどこからでも入れるマップというのはこのゲームでは初めてだ。しかも、あんなにPKのしやすい場所がその対象になっているとは思わないだろう。
「いつも、どれくらいの時間にあそこを通っているんですか?」
「えっと…時間はバラバラですが、基本は暗くなってからですね」
あそこを暗くなってから通るのは自ら死にに行っているようなものだ。
あそこはPKをするには絶好の場所だし、たとえモンスターのレベルが低いといっても、囲まれたりすると危険だ。
特に暗いときに囲まれると囲まれていることに気づかないこともある。
「でも、あそこを通らないだけじゃ根本的な解決にはならないな…」
「そうだね…」
根っこから問題を解決するには討伐が一番だけど…一回で懲りるような連中じゃなさそうだし…。
なにかいい方法はないもんか…。
「あの…私が囮になって、おびき寄せるというのはどうでしょうか…?」
「「えっ?」」
「その、私が囮になって、注意が私に向いたところでお二人が奇襲するというのは…」
「それは…」
確かにありかもしれない。ただ、ルアさんのリスクが大きすぎる。もし捕まって殺されたときのペナルティが馬鹿にならない。
「ルアさん…」
「はい」
彼女の瞳には強い決意に宿っていた。俺たちが口を挟む余地がないくらいには強い決意が。
「…わかりました。それでいきましょう」
渋々といった感じで頷くと、彼女は満足そうに微笑んだ。
そして、辺りがだんだんと暗くなりはじめ、間もなく真っ暗になろうとしている。
「私が前に出るので、お二人は後ろから…」
「いや、俺たちは奴らを待ち伏せます」
彼女が森に入るのを確認しないことには奴らも先に待っていることはできないだろう。
奴らが森に入ってきたところを一気に叩く。
戦いの火蓋が、切られようとしていた――。
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