#7 なりゆきで…
――オオオオォォォ
地の底から響くような叫びをあげながら、トレントがこちらに迫ってくる。
トレントはリーチが長い分動きは遅いが、一発一発の攻撃力がかなり高い。
俺が懐に入れればかなり有利になるだろうが、長い腕を振り回しているため近づくこともままならない。
これはしばらくみゆの魔法でちくちく削っていくしかなさそうだな・・・。
「ゆきくん。わたしが頑張ってタゲとるから、隙を見て一気に決めて」
「了解。なるべく早く終わらせる」
「無理はだめだよ?」
「わかってる」
「ゆきくんはなるべく後ろに回って」
「了解」
「いくよ、ファイアボール!」
みゆが初級火属性魔法「ファイアボール」を連続で三発、しかもそれぞれ違うところを狙って着弾させた。
トレントが心なしか悲鳴のような声をあげる。
というか、もう連続で魔法打てるのな…。
敵に回したら終わるやつだこれ…。
「ゆきくんっ、今!」
「ああ!」
まだ煙があがっているうちに、トレントのごつごつした樹皮を斬りつけていく。
――が、あまりダメージにはなっていないようでHPバーはほとんど減っていない。
それどころか、タゲが俺に移って思いきり吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ…げほっ。なんつー攻撃力だよ…」
「ゆきくん!?」
一発もらっただけなのにHPが7割近くも削られている。
とにかく、回復しないとだけど…。
回復するにも時間がかかるし、その間みゆ一人でもたせるのはかなり無理がある。
「ゆきくんっ、薬飲んで!わたしもヒール使うから!」
「頼む!」
ポーチから回復薬を取り出して一気にあおる。
決して美味しいとはいえない液体が喉を通ると同時にみゆのヒールがかかってHPがほぼフル回復する。
しばらくは薬の効果でHPリジェネが入るので、多少のダメージなら回復しなくても戦える。
「せあっ!」
なるべく樹皮が剥がれているところを狙ってダガーを振るう。
樹皮が剥がれているところは部位破壊状態になっているようで、トレントのHPがどんどん減っていく。
時折、トレントの腕が迫ってくるが、そのたびにみゆが魔法で攻撃して防いでくれている。
それでも完全に防げるわけではなく、じわじわと俺のHPバーは減少を続けていく。
「ヒール!」
危険域に突入する前にみゆのヒールがHPを回復してくれてはいるが、そろそろMPが切れてしまう。
そうなったら全滅は避けられない。
だが、俺たちのラッシュをもろに受けているトレントも、もうほとんど瀕死の状態だ。
「みゆ!このまま押しきるぞ!」
「うん!いくよ、ファイアアロー!」
「セイッ!」
果たして――、中ボスクラスのモンスター「トレンブルトレント」は怨嗟の声をあげながら白い光の粒となって消滅した。
獲得経験値とアイテムの窓が現れると、二人ともその場に座りこんでしまった。
「あぁ…疲れた…」
「そうだね~。お疲れさま、ゆきくん」
「ああ、お疲れ」
獲得アイテムの欄の中には、ちゃんと目的のアイテムが揃っている。
それに、かなりの経験値量だ。俺は4つ、みゆは6つもレベルが上がっている。
いくら中ボス級とはいえ、上がりすぎじゃないか…?
『システムアナウンスを行います。森林エリアのフィールドボスが撃破されました。次の街への移動が可能になりました。』
…え?
あれフィールドボスだったの?
あのおっさん、そんなのの素材を取ってこいって言ってたのかよ!
彼女もまったく同じことを思ったのか、微妙な表情をしている。
「ちょっとは文句言っても許されるよな…?」
「あはは…。まあ、倒せたんだからよしとしようよ」
「くっそ…。なんか馬鹿馬鹿しくなってきた。戻ろうぜ」
「うん。はやくラッセルさんに渡さないとね」
村に戻った俺たちは、ラッセルに文句を言って宿屋でご飯を食べ、次の街へ――出発しなかった。
「なんか、なりゆきでボス倒しちゃったけど…。どうする、このまま次の街行ってトップ走るか?」
「うーん…。それもいいと思うんだけど…」
「…ど?」
「この辺拠点にしてまったりやらない?」
この彼女の一言が、俺たちのこのゲームでの立ち位置を決めたのだった――。
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