#5 鍛冶師との邂逅
もういい時間だったので、宿屋を探してそこに泊まった。
しばらくはここを拠点にしてやっていこう。
そんな話をしていると、くぅ…とみゆの腹が鳴った。
「…そろそろ、飯にするか」
「あうぅ…。恥ずかしいよぉ」
「誰だってなるんだから気にすんなって。…くくっ」
「あーっ、今笑ったでしょ!?」
「わ、笑ってないって」
「むぅ…」
やべ、だいぶ拗ねたなこれ。
俺と顔を合わせてくれない。
頬を膨らませて少し涙目になってるっぽい。
「ごめん。笑ったのは謝るから機嫌直してくれよ」
「…反省してる?」
「そりゃもちろん」
「…じゃあ、あとで言うこと聞いて」
「お、おう。わかった」
なにを言われるんだろう…。
あんまり無茶なのじゃなければいいけど…。
宿屋で出てきたご飯はものすごく美味しかった。
不機嫌だった彼女が嘘のように鼻唄まで歌い出したのだ。
「すっごくおいしかったね」
「ああ。正直ここまで美味しいとは思わなかったよ」
「それで、さ。さっき言ってたことなんだけど…」
急にしおらしくなった彼女は意を決したように俺を見たが、すぐに顔を逸らせてぼそぼそと俺に聞こえるギリギリの声で言った。
「あっちのお部屋で待ってるから。すぐ、きてね…?」
そしてそのままログアウトしてしまった。
俺はしばらくの間フリーズしていたが、すぐに彼女を追ってログアウトした。
――――――――――――――
ログアウトしてヘッドギアを外すとすぐに、みゆが思いっきり抱きついてきてそのままの勢いで押し倒されてしまった。
なにをされるのかと思ったら、甘えるように俺の胸にぐりぐりと頭を押しつけてきた。
「お、おい。どうしたんだよ急に…」
「……」
無言のままどんどん強く頭を押しつけてくる。
…なんか、だんだん痛くなってきたんだけど。
「あのー、そろそろ離れていただけると…」
「…んっ」
「みゆ、ちょっと痛い」
「あ、ごめん…」
やっと離れてくれた…。
で、改めて理由を聞くとなんとなく甘えたくなったとのこと。
なんとなくって…。
「というか、なんであっちじゃだめなんだ?」
「…こっちじゃないと、ゆきくんの体温とか感じられないから」
ちょっと拗ねたような口調で俺の胸に顔を埋めたまま言った。
恥ずかしかったのか、一度やめたぐりぐりが再開した。
あまりにも可愛かったので、髪をすくように頭を撫でた。
すると、だんだん落ち着いて静かに寝息をたて始めた。
「寝ちゃった、か」
まるで離さないとでもいうように俺の服の裾をぎゅっと握っている。
ほんと、こういうところは子どもっぽいよな。
俺もそろそろ寝たいんだけど…。こんな状態じゃ寝れないし、どうするかな…。
…あ。
ちょうどいいところ、あるじゃん。
すぐ近くに転がっていたヘッドギアを被り、再びMtcにログインした。
パーティーメンバー全員がログアウトすると、自動的にパーティーが解散されるらしい。
俺だけレベル上がるのはちょっと忍びないけど、軽くレベリングしますか。
でもその前に、このボロボロの装備をなんとかしないとな。
鍛冶屋はさっき通った気がするけど、どこだったかな…。
「あ。あった」
あったんだけど、さっき通った鍛冶屋ではない。確実に。
なんかものものしい雰囲気が漂ってるし、客もいないはずなのにこの時間でもずっとハンマーで金属を叩く音が聞こえる。
でもここ以外の鍛冶屋を探すのも面倒だし…。
そう思った俺は、ここの鍛冶屋に入ることを決めた。
「…すみませ~ん」
ドアを開けると、いろいろな種類の装備が所狭しと並べられていた。
何本か短剣も見つけたが、どれも初期装備で陳列用に作ったようなものだった。
一通り作業が終わったのか、こっちに人影が――。
「で、でかい…」
「なんだてめぇ。入ってきて一言目がそれか?」
…二言目なんですけど。まあいいや。
ただ、俺が思わずそう言ってしまうくらいにその鍛冶屋のおっさんは大きかった。
俺二人ぶんくらいの横幅に、俺より一メートルは高いであろう身長。
天井ぎりぎりの大きさである。
「あ、ごめんなさい。あまりにも大きかったもので…」
「ふん。まぁええわ。で、用件は?」
「えっと、装備を新調したいんですが…」
鍛冶師は俺の装備を一瞥すると「ふん」と鼻で笑った。
なんか嫌な予感がする…。
「てめぇばりばりの初期装備じゃねぇか。よくそんなんでここまでこれたな」
「あ、ありがとうございます」
「本来なら絶対ぇ受けないが…面白そうだから作ってやるよ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「ふん…」
このあと、なにが必要なのかを言われてとりにいくことになった。
なんか中ボス級のモンスターの素材が多くて、思った以上にきつかった。
「おっさん、持ってきたぞ」
「おう。そこにいろ。すぐいくから」
ついでに敬語もいらないと言われた。なんか違和感があるんだとか。…知るかそんなん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます