#4 初狩り
「みゆ、杖持ってるのってなんで?」
「あ、言ってなかったね。わたし、魔法使いになることにしたの」
魔法?このゲーム魔法も使えるのか?
みゆ曰く、武器スキル一覧の一番下にあったらしい。俺みたいにもともと使う武器を決めてるやつは気づかないだろうし、一番下までスクロールするプレイヤーも少なさそうだから案外気づかれてないのかもな。
その証拠に、杖を持っているのは俺たちの周辺ではみゆだけだし、物珍しそうに彼女の杖を見ている。
「えへへ。実はね、わたし魔法使いに憧れてたんだ」
「女の子ってそういうの一度は憧れるものなんだな」
「うーん、どうなんだろうね。まおちゃんとかはあんまりそういうのなさそうだけど…」
「まあ、あいつはな…」
小さい頃のまおとか外で元気に走り回ってる姿しか想像できないし。
みうも同じことを思ったのかうんうんと頷いていた。
「ゆきくんはいつも通り短剣にしたんだね」
「おう。これが一番使い慣れてるからな」
「いつも双剣じゃなかったっけ?」
「ああ、取得可能スキルのところになかったんだよ。短剣上げれば取れるっぽいからそれまでの辛抱だな」
「そっか。わたしも手伝うから、早くとれるように頑張ろうね」
「おう。ありがとうな」
と、まあなんとも気の抜けた会話をしながらフィールドを歩いているのだが、これにはちゃんと理由がある。
「モンスター、いなさすぎないか…?」
そう、モンスターがリポップしないのだ。
街を出てすぐのところはあらかた狩りつくされてしまっていて、2~3分に数体リポップしては近くにいたプレイヤーに狩られるというのを繰り返していた。
「なあみゆ、ここじゃ全然だめだしもう少し奥に移動してみないか?」
「うん、それがいいかもね」
――そんなわけで移動を続けて30分、ようやくプレイヤーの姿が見えなくなった。
つまり、モンスターの数もそれだけ多いというわけで――。
「ゆきくん、後ろ!」
「大丈夫、だっ!」
前にいるモンスターはRPGでは定番のオーク、後ろにはこれまた定番のゴブリン。けっこうどころじゃなくやばい。
前にいるオークをいなして、後ろを振り向かずにゴブリンを突き刺して倒す。
みゆも魔法で俺の援護をしてくれている。
レベルもすでにいくつか上がっていて、新しいスキルを取れたりするのだが、そんな余裕はない。
「――みゆっ!」
みゆの死角からゴブリンが粗悪な剣をみゆに向けている。
みゆは目の前に集中していて気づいていない。
俺は目の前のオークの目を突き刺して視界を奪い、そのままゴブリンに向かって突進した。
キンッと金属がぶつかる甲高い音が響き、無理な体勢で受け止めたためか俺は地面に倒れこんだ。
「ゆきくんっ!」
みゆが手に持った杖でゴブリンを殴り飛ばし――え?
そこから先はみゆの独壇場だった。
近づいてくる敵を殴り飛ばしては初級魔法のファイアボールやアイスアローで焼いたり貫いたり…。とにかく俺の出る幕はなかった。
一応、パーティーを組んでいるので経験値は平等に分配されるので、みゆのレベルが上がるのと同時に俺のレベルも上がっていく。
これがパワーレベリングってやつか…。(違います)
「まさかパワーレベリングを体験するとは思わなかったよ」
「あはは…。ちょっとやり過ぎちゃったね」
「あれでちょっとなのか…」
「だって、ゆきくんを傷つけようとしたんだよ?わたし、すっごい怒ってたんだから」
「まあ、わかるけどさ…」
「ゆきくん」
「ん?」
「助けにきてくれてありがとう。すっごくかっこよかったよ」
一瞬で顔が熱くなった。たぶん真っ赤になっているだろう。
言った本人まで赤くなっている。
「そこで照れないでよぉ…」
「…みゆが可愛すぎるのが悪い」
「っ!わ、わたしのせいじゃないもん!」
そんなやり取りをしながら歩いていると、小さな村のような集落が見えてきた。
ちょっと寄ってみるか。装備も新調できるならしたいし。
集落の門の前までくると、衛兵NPC二人が立っていた。
「冒険者の方ですか?」
冒険者…?この世界ではプレイヤーをそう呼ぶのか?
みゆはNPCに返答しない俺を不思議に思ったらしく、普通に「はい」と言って中に入っていった。
パーティーメンバーであれば問題ないのか俺もそのまま通ることができた。
「お、おい。大丈夫なのか…?」
「わかんないけど、冒険者ってたぶんわたしたちプレイヤーのことでしょ?だったら大丈夫かなって」
「まあ、俺も同じこと思ったけど」
「なら大丈夫だよ。ゆきくんの言ってることはだいたい合ってるし」
ここにきて俺に対する信頼がすごい。
それだけ好いてくれてるってことなのかな。
そう思うと、勝手に頬が緩んでニヤニヤしてしまった。
「?ゆきくん、なにかいいことでもあったの?」
「あったよ。とびきり嬉しいことが、な」
「なになに!?聞きたい!」
「内緒」
「なんでー!?」
新しく着いた村でじゃれつく二人の声は、村中に響き渡っていたという――。
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