#2 サービス開始
「ふいー、今日も疲れたな~」
「全面的に同意~」
気の抜けた感じで話している二人は俺とみゆの親友。
男の方が保科一平(ほしないっぺい)、女のほうが
一平は少しちゃらめの茶髪イケメンで、まおはショートカットの快活そうな美少女だ。
どっちも体育会系っぽくみえるが、普通にゲーマーだったりする。
まあ、俺を除く3人は全員普通に高スペックだけど。
「あはは…。わたしもちょっと疲れたな~なんて」
「というか、あれの講義で疲れないやついないだろ…」
とまあ、こんな感じでひとしきり愚痴ったあと、話題はあのゲーム「Mtc」へと移った。
「ねね、今日の19:00から
「明日は一日休みだし、一日潜るぞ俺は!」
「どこ集合にするよ?」
周りも俺たちと同じような会話をしていた。
結局19:30に初期地点付近で集合しよう、ということになった。
「そうと決まれば、俺はさっさと帰って準備するわ!じゃ後でな!」
言うが早いか一平は走っていってしまった。
あいつ、行動速すぎるだろ…。
「あたしも準備とかあるから帰るね。ばいばい!」
あ、もう一人同類がいたわ。
なんか、嵐みたいなやつらだよなほんと。
あいつらとも高校からの付き合いだけど、未だに慣れない。
「わたしたちも行こっか」
「そうだな。少し早めに飯食って潜れるようにするか」
「そうだね。じゃあ帰ったら夜ご飯の準備しよっか。手伝ってくれる?」
「もちろん」
今日の献立は生姜焼きだった。
さすがみゆと言うべきかものすごくおいしかった。
「ごちそうさま」
「はい。お粗末さまでした」
「洗い物はやっとくから、風呂入ってきていいぞ」
「ありがと。じゃあお言葉に甘えさせてもらうね」
俺は夕飯の前にささっと入ってきてるからいつでも潜れるし、結局ほとんどなにも手伝えなかったからこれくらいはしないとな。
俺が洗い物を終える頃にはもう彼女も風呂から上がっていた。
風呂上がりだからか、少し上気した頬やうなじが艶かしい。
「洗い物、ありがとうね」
「気にすんな。結局ほとんど手伝えなかったし」
「得手不得手あるからしょうがないよ。じゃあ、お部屋行って準備しよっか」
「そうだな。行こうか」
数日前に届いたヘッドギアは俺の部屋に置いてある。
始めは各々の部屋に置こうとなっていたんだが、みゆはほとんど俺の部屋にいるから俺の部屋に置くことになった。
一応みゆは隣の部屋に住んでいることになっている…のだけれどもそっちの部屋はもうほとんど物置状態になっている。
もちろん定期的に掃除はしているし、彼女の私物の一部もまだそっちにある。
ただ、衣類とかは俺の部屋にあるのでもともとこっちで一緒に住むつもりだったのだろう。
「ゆきくん、ヘッドギアには事前設定とかあるからもう始めたほうがいいよ」
「え、そんなのあるのか?」
「うん。5分くらいで終わるけど、もうあと10分もすればサービス開始だから」
「もうそんな時間なのか…。わかった。今からやるよ」
事前設定は驚くほど簡単で、本当に5分くらいで終わった。
やったのはおおまかな身長を入力して、軽く動作の確認をするくらいだった。
――そして、時計の針が19:00を指した。
俺たち二人はしっかりと手を繋ぎあって、ゲームを起動した。
意識が浮遊し、次に落下する感覚。
それらはすぐに収まり、目の前にはキャラクターメイキングの画面が現れた。
「ようこそ、Multi tincta coloreへ。まずはこの世界であなたが使用するアバターを作成してください」
髪型や髪の色、体形まで変えられるらしい。
面倒だからほぼリアル基準にして、髪と目の色だけ変えるかな。
髪は少し灰色がかった白に、目の色は…変えなくていいか。
キャラクターメイキング終了ボタンを押すと、プレイヤーネームの設定画面が出てきた。
いつも通り、ハユキでいいか。
最後にパスワードの設定があった。
ユーザー一人一人にユーザーIDというものが割り振られていて、パスワードとともに入力してログインするシステムらしい。
「キャラクターメイキングが完了しました。プレイヤーネーム『Hayuki』でログインします」
自動音声とともに視界が白い光で包まれ、視界が戻った頃には見知らぬ広場に立っていた。
「ここがWtcの中、なのか…?」
周りを見渡してみると、俺の他にもたくさんのプレイヤーと思われる人々が白い光とともに現れてきていた。
そうだ、みゆたちはどこにいるんだ?
…ってわかるわけないか…。
仕方ない。少し時間を置こう。
ステータスやらなんやらの確認もしたいし、もう少ししたら見つけやすくなるだろう。
とりあえず、確認してみてわかったのはステータスはレベルアップでのみ上昇すること。ただ、どのステータスを上がりやすくするというのは選べるらしいこと。
スキルはスキルポイントと呼ばれるものをレベルアップやモンスターなどを倒すことで手に入れて、レベルを上げていく必要があること。そして、フレンド機能の存在。
ここまで確認するのに30分近くかかってしまった。
ぼちぼち探し始めるとしますか。
――結局、全員合流するまでに一時間近くかかってしまったのはまた別の話。
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