第220話 開花

桜華の叫び声が戦場へ響き渡る。


「リリス!!」


だが、眼を疑うような事が起こる。


羅刹に貫かれたリリスが霧散するように消えていった。


「むう…手応えがないな。

幻の類いか」


羅刹もすぐに異変に気付いた。

いつの間にかすぐ近くに白いフードを着た人物が立っており、その足元にはリリスがいる。


「うぬは誰だ?

我輩を欺くとは中々やりおる」


キョトンとしていたリリスも直ぐ様、フードの人物から距離を取る。


「リリス、無事で何よりだぜ」

「アァ…何事もないのは良かったがコイツ何者ナンダ?」

「さあなあ…お前は誰なんだ?

存在感だけであればタルトと同等くらいに感じるぜ、只者じゃねえだろお」


桜華の質問に無言のままだ。


「オイオイ、返事なしカヨ…。

助けてくれたってことは敵じゃねえでいいノカ?」


フードの人物は頷く動作をする。


「誰か知らねえが今は助かるぜえ。

敵の敵は味方ってえやつか知らねえが、このままじゃ全滅するところだったぜ」

「ふむ…何奴かは知らぬが邪魔をするなら一緒に死ぬが良い」


突然現れた第三者に多少の動揺はしたが現状からでは渡りに船であった。

何処の誰かなどは重要ではなく味方か敵かだけで十分である。



その頃、タルトは急速に治癒が進み意識も少しずつ戻ってきていた。

うっすらとであるが瞼が開き現状を確認することが出来る。

まさにリリスが殺られそうになった瞬間であったが謎の人物が現れたところであった。


(あれは誰だろう…?

フードを来ているけど黒じゃなくて真っ白だ…。

影ではないのかな…)


羅刹の猛攻をヒラリと回避するフードの人物を眺めながら全員の無事を確認した。


(ボロボロになってるけどみんな生きてる。

治癒魔法を掛ければ助かりそうで良かった…)


身体の治癒はほぼ完了していたが心が折れている状態では起き上がる気力が全く出なかった。


(力が入らない…。

それに…怖いよぉ…)


白いフードの人物が羅刹の猛攻を何とか回避してるが分が悪そうに見えた。

何とか立ち上がろうとするが心の何処かで恐怖に怯えて邪魔をする。

そんなとき、ふとあるものに視線が止まった。


(これは…)


それは手首に巻かれたリボンである。

リーシャが出発の前夜に巻いてくれたものであった。


(そうだ…約束したんだ。

みんなで帰らないと…。

約束守らないないなんて駄目なお姉ちゃんだ)


消えていたタルトの心に再び火が灯る。

少しずつ身体に力が漲ってきた。


「ふぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ…」


他の全員は羅刹と謎の人物に意識が集まっておりタルトが立ち上がろうとしているのに誰も気付いていない。

やっとのことで立ち上がると美しい金色の髪が風に揺れている。

その眼には強い意思が宿っておりすっかり恐怖が消えていた。


「よし!

いこう!!」


タルトは光に包まれ魔法少女へと変身する。

その光は周囲を照らし全員の注目を集めた。


「聖女様!!」「「タルト!」」「「タルト様!!!」」


満身創痍だった仲間に気力が湧いてくる。


「ごめんなさい、みんな!

もう大丈夫だから。

すぐに治しますね!」


タルトのステッキから放たれた光が全員に降り注ぎ傷を治癒していく。


「治癒魔法とは。

これは殺さずに役立てたほうが良さそうだな」


その光景を見ていた羅刹が治癒魔法に驚嘆している。

失われた魔力は戻る訳ではないが全員が立てるほどまで回復した。


「待ちくたびれたぜえ、タルト!

うちらじゃあと一歩ってところだったからお前に任せるぜ!」

「桜華さん、無理しすぎですよー。

でも、あとは任せてください。

そうだ、フードの人にもお礼を…って、あれ!?」


周囲を見渡すが白いフードの人物は忽然と姿を消していた。

現れたのと同じようにタルトに注意が向いている間にいなくなったのである。


「結局、誰だったか分からないままだったよ…。

でも、気を取り直して頑張らないと!」


気合いを入れ直し羅刹の方に振り向く。

だが、羅刹の方はあまり興味が無さそうだった。


「うぬの実力は分かっておる。

大人しく我が配下に加わり治癒魔法で役に立つが良い」

「そんなのお断りです!

私には帰る場所もあって待ってる大切な妹がいるんです!」

「そうか、ならば力ずくで従わせるのみ」


再び対峙する二人。

威勢とは別に内心は焦っているタルトであった。


(調子の良いこと言っちゃったけどどうしよう…。

魔法効かないんだよなぁ…)


全く攻め手が見つからないまま考えてても始まらないので突っ込む事にした。


「考えても分からないから突撃だー!!」


そんなタルトを見て鼻で笑う羅刹。


「血迷うたか?

そんな細腕で何が出来る?」


タルトの右拳が羅刹の左頬に打ち込まれる。

完全に油断していた羅刹の巨体が揺らぐ。


「むぐっ!?」

「「「おおおお!?」」」


強大な魔力で強化された身体能力での一撃は羅刹の想像を遥かに超えた威力であったが、僅かなダメージだけにとどまった。

周囲からは驚きと喜びの歓声が上がる。


「やるな。

素手でダメージを負ったのはいつ以来か覚えておらぬ」

「次行きますよー!!」


勢いづいたタルトはラッシュを仕掛ける。

しかし、今度は悠々と全てを躱されてしまう。


「ふにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃー!!」


次々とパンチを繰り出すが空を切るばかりであった。


「威力と速度は申し分ないが動作が素人だな」


如何に身体能力を強化していても格闘技の素人であるタルトの攻撃は卓越した相手には通じないのであった。

初手は羅刹の油断というだけである。


「他にもう何もないのであれば終わらせるか」


羅刹が攻撃に転じる。

タルトの動きに合わせて死角から正拳を放つ。


「ぬっ!?」


羅刹の攻撃は一切見えないはずのタルトであるが、まるで知っていたかのように回避する。

二人は距離をとって対峙して動きが止まった。

長きに渡る羅刹の経験の中でもあのような動きは見たことがなかったのである。


(何だかよく分からないけど変なのが見えたよー!)


誰よりも驚いていたのはタルトであった。

羅刹の攻撃の瞬間、相手が動くより早く先の映像が頭の中に浮かんだのである。


(おでこに変な顔ついてないよねっ!?

もしかして時も飛ばせるようになるのかな?)

『何を言ってるんですか、マスター。

どうも固有魔法が完全に開花したみたいですね。

予知夢を前から見ていましたが所謂、千里眼の一種のようですね』

(ええええぇぇ!

時が飛ばせなかったら全然、無敵の能力じゃないじゃん!!

せいぜい回避するだけで役に立つのかなぁ…)


再び動き出す二人であったがお互いに攻撃は当たらず決着には時間が掛かりそうである。

だが、互角そうに見えるが当たっても防御の堅い羅刹に対し一撃でも当たれば終わりのタルトの方が圧倒的に不利であった。

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