第221話 性質

タルトと羅刹の攻防は一進一退でお互いに当てることが出来ず一旦、距離を取り合った。


「格闘技術は素人に等しい…。

それに経験も圧倒的に足りていないのに我輩の動作より早く回避行動を行っておる。

不思議な事もあることよ。

それもぬしの能力なのか?」


明らかに未来の動きが分かった上での行動としか思えずタルトに問う羅刹。

未来予知という時間に関する魔法などこの世界では認知されておらず理解を超えているのだ。


「私は魔法少女です。

奇跡を起こすことが出来るんですよ!」

「奇跡…。

ふん、面白い。

その奇跡とやらで如何に我輩を倒すのか楽しみだ」

「すぐに見せてあげますよー」


そう言ったもののどうした良いかずっと考えている。

未来予知に目覚めたことにより闘いという形はとれているが魔法が通じない相手に決定打がないのだ。


(そもそもリーチが違いすぎだよー!

身長だって倍以上違うんだからどうみても不利だよー!)


タルトの言う通り間合いの長さは実力差を更に広げるものである。

槍を相手に刀で挑む場合は3倍の実力が必要だと言われているのだ。


(動きが単調なのかなー。

格闘技なんて習ったこともないし…。

それならばお互いに動けないようにナイフエッジデスマッチを…。

なんて、無理でしょっ!!

一撃喰らったら私が終わっちゃうし!)


距離をとった短い時間に思考を巡らせ打開策を必死に考える。

だが、すぐ脇道に逸れて自分でツッコミを入れたくなってしまう。


(魔法は魔力弾は駄目でシトリーさんの炎も駄目だった…。

オスワルドさんの魔剣の魔力も無効にされちゃった…。

桜華さんのような物理攻撃は効くけど防御を貫く程の威力と技術はないし…。

リリスちゃんの毒は排出されちゃったんだよね…)


ここまでの記憶を何回も思い返し攻略のヒントを探す。


(どれだけ強力な魔法障壁でも魔法無効の効果でガラスみたいに破られちゃうから一撃も耐えきれないのが状況を更に悪くしてるなぁ…。

ん?

魔法は無効化されるんだよね…?)


ふと、あることが疑問に感じた。


(ねえ、ウル。

何で私は助かったの?)

『先程、説明した通り咄嗟でしたがエアクッションが功を奏したようです。

それで直撃を避けれたのが幸いしましたね』

(それよ、それ!!

エアクッションだよ!)

『言っている意味が分かりませんが…』

(私の考えが正しければ何とかなるかも!

ちょっと試したいけど何がいいかな…)


何か閃いたらしく一人考え込むタルト。


(うん、これがいいかな。

やっぱり魔法少女は魔法で勝負しないと!)


再びステッキを手に握り羅刹に向ける。


「覚悟してください。

これから魔法であなたを倒します!」

「魔法だと?

何を血迷いごとを。

我輩に魔法が効かぬことをまだ理解できぬのか?」


これには周りの仲間も驚きを隠せない。


「聖女様は何をお考えなのか…」

「タルト様なら不可能も可能に出来マスワ。

魔法無効を超える事サエモ」

「いや…馬鹿親父の技に隙はねえ。

タルトが如何に魔力が膨大でも突破するのは不可能だ…。

それは近くで二人を見てきたうちなら分かる」


考えはそれぞれ違うがタルトなら何かを変えれるのでは?という想いが心の奥底に共通であるのだ。


「ふっふっふっ、魔法は無限の可能性を秘めてるんです」


そして、空に向けてステッキをかざすと晴天だった空に雷雲が立ち込める。


「これなら効くはず。

いっけええぇぇー!!」


そのまま勢いよくステッキを振り下ろすと巨大な雷が羅刹へ直撃する。


「ぬうぅぅ!?」


明らかに今までの反応と違い無効化出来ずにダメージがあるようにみえる。


「やりマシタワ!

今までと反応が異なり効いているようデスワ」

「どうなってんだ…?

馬鹿親父の技は属性に関係なく無効化されるはずなんだが…」


タルト以外は驚きを隠せずにいた。


(やっぱり思った通りだ!)

『マスター、一体どういう訳ですか?』

(きっかけは魔法障壁が破られたのにエアクッションは何で効果があったのかなーって)

『なるほど、魔法の性質ですね!』

(そう、そもそも魔法少女の魔法とこの世界の魔法は理が違うって話でしょ?

魔法障壁は魔力の塊だけどエアクッションは本物の空気を固めたものだもんね)


魔法少女は無から発生させてる訳ではなく化学反応によって火や水を出している。

それに比べ、この世界的魔法は魔力を変化させ火や水を発生させていた。

羅刹が無効化出来るのは魔力から発生させた後者であり、自然現象に近い魔法少女本来の魔法は無効化出来ないのである。


(精霊の協力を得てからはこの世界の魔法の方が楽だから使ってなかったけど、こんなところで役に立つなんてね)


想定通りに効果があって意気揚々のタルトであった。


「何故、魔法が無効化出来ぬ!

ぬしはなにをしたのだ?」


この世界では有り得ない事態に羅刹も僅かだが戸惑いを隠せない。

とはいえ、ダメージ自体は軽微のようだ。


「えへへー、乙女の秘密です!

どんどんいきますよー!!」


掛け声と共に次々と雷鳴が鳴り響き羅刹を襲っていく。

だが、雷の直撃を受けながら不気味な笑みを浮かべる羅刹。


「ふはははははは。

心地よい痛みと言うべきか。

面白くなってきたわ」


雷が直撃など無かったかのように精密な動きでタルトに襲いかかる。

先程より切れの良い技にタルトの方が逃げ回りながら魔法で攻撃を仕掛ける。


「わわわっ!?

むしろさっきより激しいんですけどー!!

ダメージ入ってるんですよね!?

なんで嬉しそうに笑ってるんですか!?」


未来予知で一瞬先の動きを読んでいても躱すのにギリギリで余裕が全くない。

羅刹にとって今までは闘いではなく一方的な殺戮のようなものである。

久しぶりに痛みを与えた相手が現れた事に歓喜しているのだ。


「さあ、もっともっとだ!

この闘いを楽しもうぞ!」

「全然楽しくなんてないんですけどっ!!」


タルトは全てを回避しながら雷でのダメージを与えていく。

だが、それでも倒せる気が全くしなかった。


(なんかラスボスに挑んだらHPを1ずつしか減らせない感じだよっ!

長期戦で気を抜いたら一気に全滅みたいな…)


このままでは一瞬の気の緩みで状況をひっくり返されるだろう。

それくらい追い込まれている感じがした。

それは見守る仲間も感じていた。


「タルトの方が確実にダメージを入れてるが圧され始めてるな…。

あの程度じゃ倒すのは無理だぜ」

「聖女様…」


時間が経過するにつれ焦りを感じるタルト。

このまま消耗戦が続いても先程と状況が変わらないのだ。


「早く倒れてー!!」

「まだまだこれからぞ!

まだ秘めている力があれば出すが良い!」

「もうないですってばー!!」


心の底からの気持ちが響き渡るが攻撃の手が緩むことはなく激しい攻防が続くのであった。

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