第215話 戦う理由
翌朝、神殿の前には遠征用の馬車が停まっていた。
事情はごく少数しか知らされておらず街はいつも通りの平穏な朝を迎えている。
「ノルンさん、他のみんなも留守をお願いします!」
「ああ、無茶なことをせず無事に帰る事だけを考えろよ」
「任せてください、それでは行ってきます!」
馬車はまず北へと進路を向ける。
直進するなら北東が正解なのだがすぐに闇の勢力圏に入ってしまうので無駄な戦闘を避ける為、北方へと進み最短距離で東への道を進むことにした。
暫くは安全な道を往くため馬車では和やかな雰囲気である。
「桜華さん達の故郷になるんですよねー。
どんな街なんですか?」
「私め等が故郷は鬼族の最大の都市となっており
「何もねえつまんねえとこだぜ」
「姫様、そんなことを仰らないでください!?
他とは違い木造建築を基本とし趣のある街並みとなっています。
織物や鍛冶も盛んに行われており活況がありますね。
そして、中央にある小高い丘には当主である姫様のお父上、羅刹様の居城がございます」
タルトとしてはこの世界に来て人間以外が造った街としてドワーフ以来、2度目であり少しワクワクしていた。
「それと少し寒冷な土地でもあるからかタルト様がお好きな温泉もございますよ」
「わあ、それは楽しみですね!
少し不思議なんですけどそれだけ発展して平和に暮らしてるのにどうして人間と戦うんですか…?」
未だに何故、争いあってるのか理解出来なかったのである。
「平和だと暇だからじゃねえかあ?」
「姫様は黙っててください!?
変に伝わってしまいますから!」
既に寛ぎながら飲み始めてる桜華に邪魔されながら雪恋は説明を続ける。
「発端は不明ですが永きに渡る戦いにより積もった怨恨があるからでしょう。
私めも小さい頃よりそう教えられましたし疑う事もしませんでした。
当時は人間を敵と思い戦場で斬ることに躊躇いはなかったのです…」
「そんな…」
「それは人間同士でも同じことをしてるだろう?
人間の歴史も戦争ばっかりじゃねえか」
桜華のいうことは正しく何度も繰り返し続けられてきたことだ。
人間の歴史は戦争の歴史でもある。
それはタルトの元の世界も例外ではない。
「姫様の言う通りでございます…。
国、人種、民族、考えなど少しの違いが原因で争いは起こるものです」
「そうですけど…」
「ですが、タルト様に出会い眷属となった事で不思議と考えが変わり平和を強く望むようになりました。
我らも変われるのであれば世界も変えれるのではないかと思っています」
「そう…ですよね!
みんなが一緒なら出来る気がします!」
馬車の中は再び和やかな雰囲気になった。
旅の序盤は順調に進んでいく。
ディアナとドゥムノニアの二国の東方側を抜けていった。
そこは時代によっては戦の最前線となる場所であり街道の整備も行き届いていない。
更に通過する村は寂れている場所が多く、昔のアルマールを思い出させた。
もうすぐ闇の勢力圏に入る前に寄った村は今にも廃村になりそうな状態である。
「なんだか村の人も元気がないですね…」
見慣れぬ豪華な馬車を見ても無気力なままである。
するとボロボロな家から若い母親が赤子を抱き抱え馬車に近づくと土下座で懇願してきた。
「どこの貴族様か存じ上げませんが、何卒御慈悲を!
もう村には食べるものもなく…この子を助けてあげてください…」
その様子を見たタルトは馬車の扉を開け飛び降りた。
「頭をあげてください!
私で出来る事は協力しますから。
この村に何が起こってるんですか?」
「令嬢様でしたか…。
この村の井戸が涸れそうで作物が育たないんです…。
このままでは年を越すことが出来ません…」
「新しく井戸は掘れないんですか?」
「このような寒村に井戸を掘る道具も技術もございません…」
「それなら此処から他所へ移り住むことデスワネ」
シトリーも馬車から降りてきて冷たく言い放つ。
「ひっ!
悪魔がなんでここに!?」
そんなシトリーを見て母親は驚愕し怯え始めた。
すぐにタルトがフォローに入る。
「落ち着いてください!
このシトリーさんは悪い悪魔じゃないです」
「悪魔を連れて…。
美しい金色の髪…もしかして…」
地面に額が付くくらい頭を下げる母親。
「噂でお聞きしました聖女様でございますか!?」
その様子を見ていた村人も次々と集まってきて土下座を始める。
「聖女様」
「どうか我らをお救いくだされ…」
「御慈悲を!」
「ちょっとっ!?
みなさん、頭をあげてください!」
これにはタルトも困ってしまい何故か一緒に土下座をしている。
暫く土下座合戦が行われたあと落ち着いて話を聞くことが出来た。
先程の情報からはそれほど新しいものは出てこない。
この地域は川も遠く井戸に頼りきりで涸れ始めた頃から段々、寂れていき人々の活力が失われたらしい。
「それでさっきシトリーさんが言ったように他には行けないんですか?」
「他に行く当てなんてございません。
それに生まれ育ったこの場所を離れたくないのです…」
「なるほど…。
事情は分かりました、何とかしましょう!」
ない胸を張って任せないと言わんばかりにどや顔をする。
「とりあえず問題の井戸を見せてください」
村人に付いていくと乾燥した畑の横に昔話に出てきそうな井戸があった。
試しに桶を落としてあげてみると水面に当たりすぐ底に着いてしまう。
「あらら、確かにもう全然なさそうですねー」
「これは地下水脈が涸れたのデショウ。
土地も貧しいですしもうここは終わりデスワネ」
「そんな…聖女様、何とかなりませんでしょうか!?」
村人達の必死さは痛いほど伝わってきた。
「ちょっと周辺も見てみますね」
タルトは魔法少女へと変身し空へと飛び上がった。
空高くから村周辺の状況を確認する。
「川は…全然見あたらない」
周辺を見ることで元々、雨も少なく痩せた土地であることが分かった。
再び地面へ降り立ち、今度は地中の調査を行う。
魔力を地中に流しソナーのように状態を広範囲に確認していった。
「…これは。
現在に井戸の三倍くらいの深さにかなり大きい水脈がありますね」
「三倍…そんな深いところまで掘るなんてとても…」
「任せてください、これくらいチョチョイです!」
タルトが地面にステッキを向けようとすると村に若者が慌てれ走り寄ってきた。
「ま、魔物がこっちに向かってる!」
「先程の魔力に反応したのかもしれマセンワ」
魔物の出現にざわつく村人達。
だが、勢いよく馬車のドアが開き桜華と雪恋、リリスが降りてきた。
「ちょうど運動したかったところだ。
魔物はうちに任せてタルトはそっちに集中してな!」
「分かりました、お願いしますね!」
嬉々として魔物の方へ向けて走り出していった。
「魔物は桜華さんに任せておけば大丈夫です。
さて、こっちもいきますね!」
ステッキから放たれた魔力弾は地面を穿ち、ぽっかり大きな穴が空いた。
すると突然、大きな音を立てて水柱があがる。
「さすが聖女様だ…」
呆気に取られる村人をよそにタルトは次の準備に取り掛かる。
馬車から持ってきた小麦を畑一面に撒いていく。
そして、周辺一帯に治癒魔法の要領で植物の育成を促す魔法をかける。
するとみるみるうちに芽を出し大きくなっていくと黄金色の絨毯のような光景に変わっていったのであった。
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