第204話 情報

アルマールからレッジドへはひたすらに西方へと歩を進めていく。

レッジドの領内に入ると他国では見られないほど街道が広く綺麗に整備されている。

これは商業が盛んで大型の馬車が行き交いするためであった。

途中の小さな村でも沢山の商店がならび多用な商品を取り扱っている。

中には道端に移動型の店舗を持つ行商も多く見受けられた。


「なんか凄い見られてますし物売りの人が声を掛けてきますね…」

「それはやむを得まい。

見たところこのような貴族が乗るような馬車を見たことがないのだろう。

それにそれだけ金を持っていると思われてるのも一因だな」


今回の旅路には久々にノルンが同行している。

そして、オスワルドが手配した馬車はレッジドでは微妙に目立っていた。

この国では商人が権力を持っており貴族が非常に少ないのだ。

だから、豪華な馬車は珍しく注意を集めている。

そして、商魂たくましい人々はお金の匂いを嗅ぎ付けて商売をしだすのであった。


「今のところ私の正体はバレてなさそうですね」

「寧ろ羽を持つ私の方が目立ってしまってるな。

まあ、天使が人間の馬車に乗るなど有り得ないからな」

「騒ぎにならないようにどんどん進んじゃいましょう!

馬車から降りなければ天使とはばれにくいですしね」


途中にある大きな町の立派な宿屋に宿泊した。

翌日に外に出た途端、無数の商人が待ち受けており囲まれてしまった。


「なんですか、この人たちはっ!?

あのー、通して欲しいんですけどー!」

「バーニシアの貴族令嬢だとお見受けします。

是非、レッジドの特産物を見ていってください!」

「いえいえ、こちらのお召し物がとてもよくお似合いだと思いますよ!」


次々と入れ替わり立ち替わりさまざまな商品を進められ目が回るタルト。


「ふにゃあぁー…。

うぅ、どれも欲しくなってしまぅ…」

「やれやれしょうがないな。

どれ、通して貰おうか」


財布を出して購入してしまいそうなタルトの襟を掴んで商人の波を押し通るノルン。

そのまま馬車へタルトを放り込み自分の乗り込んだ。

馭者はそれを確認すると馬に鞭をいれてその場から離れていく。


「何を買いそうになっているのだ?

そんなことをしに来たんではないぞ」

「いやあぁー、あんなに進められたらよく分かんなくなって。

それに通販とかつい欲しくなるけど冷静に考えると要らなかったな、なんてことありますよね?」

「ツウハン…?が何かは知らんが天使に物欲はない。

秩序を守るために闇の勢力と戦うのが使命だからな」

「それって人生つまんなくないですか?

何の楽しみがないなんて…」

「今まではそんなことを考えた事もなかったな。

だが、タルトに出会ってから少しだが人間の考えも理解できてきたつもりだ」

「それなら良かったです!

これからも一緒に楽しいことを見つけていきましょうね」


再び馬車に揺られること3日の後にレッジドの王都へと着いたのであった。

魔物の襲撃は少ないことから都全体の守りは他国に比べると緩いように感じられるが、誰でも受け入れ多くの人が行き交う事で巨大市場が形成されている。

大きな問屋も軒を連ねて各国の品々が集まってきており、それを仕入れる商人も多数訪れる事から常にあちこちで交渉を行う威勢の良い声が聞こえた。


「むむむ…外に出て見て回りたいけどこの前みたいに囲まれたらやだしなぁ」

「用件が終わってお忍びで行けば良いだろう。

町民のような服で出歩けば大丈夫じゃないか?」

「いやぁー、溢れる私の気品が隠せるか心配ですね」

「その心配は要らなさそうだがな…」


すると急に馬車が停止したのを感じ窓から外を除いた。

目の前には塀に囲まれた大きな庭付きの屋敷が見える。


「ここは?

何か富豪の家みたいですね」

「止まったということはここが目的地か?

門番もいるようだし降りてみるか」


タルトとノルンが馬車から降りるのと同時に屋敷の方から誰かが歩いて来ていた。

そして、門番に一言声を掛けると金属製の門がゆっくり開けられていく。


「聖女様と天使様でございますね。

私はここで執事役を仰せつかっている者です。

主がお待ちしておりますのでどうぞこちらに」


執事を名乗るものに付いていくと屋敷の一階にある大きな客間へと通された。

そこには既に恰幅の良い男が待っておりタルトを見るなり嬉しそうに声を掛けてくる。


「おお、これは聖女様。

よくぞお越しくださいましたな!

以前の七国会議以来やな」

「レッジドの王様!

ここって王様の家なんですね、なんか普通にお金持ちが住むような豪邸な感じが」

「ああ、そのことかい。

それほどこの国では王っていっても対した権力もないんや。

だから、そんなごっつい城を作らんでも良いんですわ。

それに城なんて金の無駄なだけっつうわけやな」

「何か凄い守銭奴な感じが…」

「いやいやいや、ケチとはちゃうんや。

必要のないものに金を使うのは勿体ないだけやな」

「まあ、良いですけど…。

それで、私が知りたい情報って何ですか?」

「慌てなさらんで聖女様が好きそうな食べ物を用意してるから茶でも飲みながら話しましょうや」


示された椅子に座ると給仕の方がぞろぞろと食べ物や飲み物を次々と運んでくる。

それはどれもタルトが好みにあったものばかりであった。


「わっ!

好きなものばっかりです!」

「それはもう聖女様の事は色々と情報を仕入れてるからやな。

例えばここに来る途中に商人に囲まれて困った事もあったやろ?」

「えっ!?

なんでそれを知ってるんです?」

「取り扱ってる商品は何も物だけじゃあらへん。

今の時代、情報は立派な商品になって高額で取り引きされる場合もあるんや」

「何か凄い見られてる気がしてきました…」

「今のはこの国の情報の収集力を見て貰って、信じてもらうのが狙いやな。

さて、本題の情報の対価なんやけど」


来たな、とノルンは思う。

真実味が高いと思わせて高額な物を要求する気なのだろうと考えていた。


「端的に言えばタダで渡しましょか」

「えっ!?タダ?」


これにはタルトもノルンも驚いた。


「タダで教えて貰えるんですか…?」

「正確に言えば聖女様の信頼を買う感じやな。

それに貸しを作っとけば有事の際に助けて貰えますやん。

聖女様に守って貰えるんなら武器の調達や傭兵を雇うより安心ですやん」

「先行投資という奴だな」

「えっ?

どういうことですか?

別にそんなことしなくても何かあれば助けにきますよ」


タルトの言うことは最もで先の七国会議でも防衛をアルマールの軍が担う約束となっているのだ。

だから、改めてお願いするのに何の意味があるのかが分からないのである。


「聖女様が優しいのはよう理解してますわ。

問題は優先順位ですわ。

同時に各国が襲撃を受けた場合に覚えが良ければ優先して支援して貰えますやん」

「商人というのは目先の金銭ではなく未来を見据えた考えが出来て凄いものだな。

短命な人間にしては面白いものだ」

「天使様の考えはようわかりませんが国も店も継続させるのが一番大切なんですわ。

長く安定して稼ぐよう常に考えないかんのですよ」

「優先できるかはその時の状況にもよりますからねー。

味方の割り振りと敵の戦力によって采配すると思うんですけど、そんな感じでもいいんですか?」


実際に軍の戦力には大差があるので今までも相手に合わせて味方の組み合わせを考えてきた。


「それでええですよ。

何も襲撃だけでなく他に困ったときに助けて貰うこともありますわ。

それに贔屓され過ぎて他国に睨まれても本業に支障がでますから」

「それくらいで良いならいくらでもお約束しますよ。

困ったときはいつでも相談してください!

それじゃ、安心して情報を教えて貰えますか?」


ゆっくりと語りだした王様から意外な単語が出てきたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る