第203話 レッジドからの使者
その日はとても良い天気で青空がどこまでも続きポカポカと暖かい日であった。
タルトはリーシャ達を連れて見渡す限り花が咲き乱れた場所に弁当を持って訪れる。
「色んな花が咲いてて虹の絨毯みたい!
こんな場所があるなんて知らなかったなー」
そこはオスワルドから教えてもらった場所でピクニックとして子供達を連れてきている。
念のためカルンが子守りと警備の二役として付いてきていた。
「コラ、背中に乗るのは一人ずつ順番ダ!
ちゃんと並んで待ってイロ!」
さっきから子供を背に乗せて空を飛んであげてるので大人気である。
「カルンちゃんも何だかんだいって優しいよね。
面倒見も良いし悪魔だってこと忘れちゃうよー」
「リーシャもカルンさまにはいっぱいおせわになりました。
いまよりちいさいときに聞いたあくまのいんしょうとぜんぜんちがってびっくりでした」
「それはミミもどうかんなのです。
おにもじゅうじんもほんとうはやさしいしゅぞくだとおもうのです」
「そうだと思う!
人間だって悪い人はいっぱいいるし種族のくくりだけでは駄目だと思うよ」
モニカが作ってくれた弁当を口いっぱいに頬張りながら談笑をしていた。
久々の平和な日常を満喫してるこの瞬間は争いがある世界とは思えないであろう。
「クソ、おいタルト姉も手伝ってクレ!
一人でこんな人数を乗せるのは無理ダ!」
「やれやれしょうがないなー。
ほーら、こっちにも並んでごらん!
一人ずつ乗せてあげるからねー」
タルトは子供を背中に乗せると空高く飛び上がっていった。
下では空を飛行するタルトとカルンを見てきゃっきゃっと嬉しそうに手を振ったり追いかけたりと各々に楽しむ子供達。
だが、ここは異世界。
危険な魔物が棲んでいる場所でありゆっくりと魔手を伸ばしてくるのである。
「きゃああぁあーー!!」
子供の甲高い悲鳴が静かな花畑に響き渡り、空高いタルトにも届いた。
下を見ると子供達の頭上に大きな鳥の魔物が何匹も飛び回っており、今にも狙いを定め襲いかかりそうである。
「カルンちゃん、この子をお願い!」
タルトはおぶっていた子供をカルンに預け垂直に地面へと下降を始めた。
地面ではリーシャとミミが前衛に立って子供達を守ろうとしている。
リリーは昼寝したまま起きる気配がない。
「狐火!!」
ミミが尻尾を振って起こした炎で上空の魔物を牽制する。
その間に魔力を溜めたリーシャが魔法を全力で放つ。
「エアブレイカー!!」
それはタルトが使っていた風魔法でリーシャのお気に入りで何回も練習していたものだ。
威力も向上し普通の木なら切断出来る程である。
頭上の魔物はそれなりに大型だが一匹だけは仕留められるだろう。
タルトもよく知っており急いで助けに入ろうと地面まであと少しのところまできていた。
「えっ!?」
リーシャから放たれた魔法は大きな竜巻のようになり、そこにいた魔物とタルトも巻き込まれ上空へと吹き飛ばした。
「あーーーーれぇーーーーーーーー…」
不意をつかれたタルトは上空へ飛ばされ近くの林へと落ちていく。
「タルトさまっ!!」
何よりも驚いたのは魔法を放ったリーシャ本人である。
ガサガサと藪の中からフラフラしながらタルトが戻ってきた。
「リーシャちゃん…魔法の威力が上がったんだね…」
「ごめんなさい!
こんなのはじめてで…」
そこへ上空からカルンが舞い降りてくる。
「大丈夫カ、タルト姉?」
「何とか大丈夫…。
リーシャちゃんも分からないけど魔力が増えてるみたいなの。
こういうことってあるの?」
「普通はネエナ。
あるとすれば眷属の主の影響は受けて増すとかダナー。
実際にタルト姉の眷属になったら増えたシナ。
そもそもタルト姉みたいに自分だけでどんどん増えるのが変なんダヨ」
それは魔法少女としても例外であった。
生まれつきの魔力量は変わることがないはずなのにタルトはこの世界に来て増え続けている。
それに比例してシトリーなどの眷属も魔力が増えていた。
これは通常では有り得ないことなのだ。
だが、リーシャに至っては比例以上な伸びの増加量で皆、驚いたのである。
「そういえばエルフの里で長が気になることを言ってたのが関係してるんじゃネエカ?」
「トゥアハさんが言ってたこと?
確か魔物の迷宮から出てきたら私とリーシャちゃんの間にパスが感じられたって言ってたやつだよね?」
「アア、それダ。
おそらくだが、そのパスからタルト姉の魔力が流れてるトカ?」
「そうだったら良いね!
リーシャちゃんも強くなってくれたなら安心だよ!」
「そう単純じゃねえかもしれネエゾ。
強すぎる魔力にリーシャの身体が耐えきれねえ可能性もあるカラナ」
「そんなことあるのっ!?
じゃあ、あんまり全力で放たないようにするんだよ、リーシャちゃん」
「はっ、はい!
きをつけます!」
そんなことを話しているとオスワルドが馬に乗ってやってきた。
「楽しんでますかな、聖女様?
そんなところ申し訳ないのですが少しご報告がありまして」
「どうしました?
なにかありましたか?」
「それがレッジドから聖女様にお会いしたいと使者が来てまして」
「レッジド?
確か隣国でしたよね?」
「そうです。
我が国の西方に位置しており商業が盛んな国になります。
各国の商業組合を取り仕切っておりアルマールの品も多数、流通をお願いしています」
「そうなんですね。
とりあえず会ってみましょう!」
子供達を集めてピクニックを終了し街へと戻っていく。
神殿へ入ると使者を待たせている客間へと急ぐ。
「お待たせしましたー!!」
勢いよく客間へと入るタルト。
そこには兵士ではなく商人風の男性が座っていた。
「これはこれは聖女様。
お忙しいのにお会い頂きありがとうございます」
「王様の使者ですか?
商人のように見えますけどー」
「確かに私は商いを生業としております。
レッジドは商業が盛んで独自の政治なんです。
王と組合の長が集まって政をしており、使者も各地区を担当してる商人に任せるんですよ。」
「へー、面白いですね。
アルマールの発展にも協力してくれてありがとうございました」
「いつもご贔屓にして貰ってますし、素晴らしい道具を仕入れられてこちらも感謝しております。
話に入る前にまずはこちらをお召し上がりください。
レッジドにごく稀に流通される極上の果物です」
「じゃあ、頂きまーす!
どれどれ…もぐもぐ…んん!
これは美味しい!!」
「喜んで頂けて何よりです。
そのままお聞き頂ければと思いますが王からの伝言をお伝え致します。
聖女様が欲している情報を持っているので、ぜひレッジドへお越し願いたいとのことです」
「私が欲しい情報って何ですか?」
「はっはっはっ、それは言えませんな。
商人は情報を何より大事にしております」
「でも、どうして私が欲しいものが分かるんです?」
「独自の情報の入手ルートがあるんです。
聖女様の好みの食べ物を把握してますので先程の果物を献上させて頂きました。
これで私達の情報の信頼度が分かると思います」
「うぅーん、そうなんですね。
ちょっとストーカーみたいで怖いですが…。
でも、良いですよ!
レッジドには行ったことないですからお邪魔します!」
「それは大変喜ばしい!
早速、王へ交渉が無事に纏まったと報告させて頂きます」
「それじゃあ、準備出来たら出発しますので到着予定が分かったらお伝えしますね」
「はっ、承知しました」
客間から出るとオスワルドが耳元で囁く。
「聖女様、危険はないと思いますが商人にはお気をつけください。
情報を出さないのも常套手段で事前に策を練れないようにしてるんです」
「そういうもんなんですねー。
でも、あんまり悪い人には見えないんですけど」
「問題は情報料として何を指定してくるかですね。
お金で解決出来るなら良いのですが」
「まあ、心配しないで大丈夫です!
私がバシッと情報を聞いてきますよ!」
「承知しました。
くれぐれもお気をつけください」
こうしてタルトは一週間の後にレッジド向けて出発したのであった。
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