第199話 本命
女神の涙が目の前というところで守護者のように立ちはだかるミノタウロスに苦戦する桜華達。
「ちょっと思いついたんだけどよー」
ティアナにこそっと耳打ちする。
「それは危険じゃないか!?
もし、万が一があったら…」
「だが、これ以外に手はねえと思う。
相手は無限に体力がありそうだし、こちらに残された時間は少ねえ。
戻ってもう一回って訳にはいかねえだろ?」
「それはそうだが…」
ティアナは振り返り苦しむタルトと心配そうなリーシャを見て諦めたのか覚悟を決めた顔に変わった。
「やるしかないか。
桜華、お前は大丈夫なんだな?」
「ああ、任せとけ!!
うちが求める強さはもっと先にあるんだぜ、こんなとこじゃ死ねねえよ」
「そうか、ワタシも全力で援護する」
そして、再度振り返ると緊張した面持ちで頷くリーシャ。
「よし、始めるぞ!
失敗したら後がないからな!」
ティアナの掛け声と共に精神を集中する桜華。
「
全身に魔力が駆け巡り眠っている力を引き出す。
だが、同時に全身に痛みも走る。
前回、限界を超えたことによる傷が癒えていない中で体を酷使した代償であった。
「どれくらい保つか分からねえが後は頼んだぜ!」
桜華は一気に間合いを詰めミノタウロスの懐に潜り込むとそのまま抜刀から斬り上げに繋げる。
ミノタウロスも即座に反応し上から武器を桜華目掛け振り下ろした。
二つの武器の衝突で火花が飛び散り部屋を明るく照らす。
「グア!?」
今度は互角の力でぶつかり合い吹き飛ばせないことに初めて戸惑いをみせるミノタウロス。
「ビビってんじゃねえぞ!
てめえより強い奴なんてゴロゴロいるんだよ!!」
更に力を込め相手の武器を押し返す桜華。
力負けすることなど初めての経験で雄叫びを上げた。
「グゥオオオオオオオオオオオオ!!」
負けじと力を振り絞り押し返すミノタウロス。
拮抗した鍔迫り合いに桜華の顔は自然と笑っていた。
強者との単純な力比べ。
鬼としての本能が求めている闘争。
ミノタウロスとの闘いで久々に蘇り楽しんでいるのである。
そんな死闘が繰り広げられている中、素早く動く影がいた。
人知れずに部屋の奥まで到着し女神の涙が入った容器を持ち上げる。
「グゥアアアアアアアア!!!」
それに気付いたミノタウロスが激昂し咆哮する。
「ひっ!?」
ひっそりと音を消して奥まで行ったのはリーシャであった。
桜華は陽動で本命はリーシャであるのだ。
ミノタウロスの咆哮で萎縮して動けなくなる。
「走れ、リーシャ!!!
うちが止めてる内にタルトのところまで急げ!!!」
勇気を振り絞り震える足で立ち上がると容器を持ち上げ走り出した。
それに呼応するようにミノタウロスの押す力が上昇し堪えきれなくなった桜華が横へと受け流す。
そして、桜華を無視してリーシャ目掛けて走り出そうとするミノタウロス。
「ちっ、行かせるかよ!!」
立ち塞がろうとした瞬間、足元から力が抜けていく桜華。
「くそっ!!
身体がいうことをきかねえ!!」
既に肉体に限界を迎えた中で巫覡を使用したことで普段より使用時間が短くなってしまった。
更にその後遺症として動けないほどのダメージを体の内部に負ってしまったのである。
「ティアナ!
何とか奴を止めろ!!!」
「言われなくても分かってる!!
ティアナの全魔力を込め放たれた矢が小さな竜巻を纏い洞窟内の閉じられた中では台風のような強風が吹き荒れる。
ミノタウロス目掛け一直線に飛んでいくが迎撃として振り下ろされた武器と衝突した。
激しい破裂音が響きティアナの放った矢の威力が相殺される。
「くそ、ワタシの全魔力をもってしても一瞬しか足止め出来ないのか…。
リーシャ、急げ!!」
タルトの元へ辿り着いたリーシャは容器の中身を口に含み口移しで飲ませる。
だが、ミノタウロスは既にすぐそばまで来ており武器を構えたまま突進してきていた。
「リーシャ!!」「リーシャァア!!!」
桜華とティアナの叫び声も虚しくリーシャへと武器が振り下ろされる。
リーシャはタルトを庇うように覆い被さり目を瞑ったが眩しいほどの光に包まれた。
「…?」
いつまで待っても何も起こらないことに不思議に思ったリーシャはゆっくりと目を開ける。
何とそこには淡い光を纏ったタルトが立っておりミノタウロスの一撃を素手で受け止めていた。
「リーシャちゃん、助けてくれてありがとう!
もう大丈夫だから安心してね」
笑顔のままリーシャに語りかける。
「グゥオオオオオオオオオオオオ!!!」
怒り猛っているミノタウロスが抑えられた武器を引き剥がそうとするがタルトが握ったままピクリとも動かせない。
「うるさい!」
キッとタルトが鋭い眼差しで見据えるとミノタウロスは急に大人しくなる。
本能的に勝てない相手だと悟り闘争心が消えてしまったのであった。
「タルトさま…こわかったですぅ…」
もう襲ってこないと思い泣きじゃくるリーシャを両手で優しく抱き締めた。
「タルト…お前もう大丈夫なのか?」
「桜華さん…ティアナさんも心配お掛けしました。
もうすっごい元気になりました!」
「そうか、それは良かったぜ!
それにしても奴の一撃を片手で簡単に受け止めるなんて化け物みてえだな」
「何だか中から力が溢れてくるみたいなんです。
ぼんやり光ってますし女神さまっぽくなりましたかね?」
くるっと回転してどや顔をする。
「やっぱいつものちんちくりんなタルトだな」
「ちんちくりんって何ですか!?
この神々しさが分からないなんてまだまだですね!」
「分かった、分かった!
さて、他のやつも心配だからさっさと引き上げようぜ」
「えっとぉ…ところでここってどこ何です…?」
ティアナが簡単にここまでの経緯を説明する。
話途中からタルトの目がキラキラと輝いていた。
「わああぁ!もっと深くまで進んだら凄いお宝が眠ってるかもしれないんですね!
もしかしたら最奥部には破邪の秘術が…」
「何言ってるか分からないが、まだ戦ってる仲間が心配だ。
すぐに戻る方が良いだろう」
ティアナにも窘められがっくりと肩を落とした。
「ふぁい…次の機会にします。
そうだ、えい!!」
タルトがステッキを出現させ一振りする。
すると二人の体の傷が一瞬で癒えて羽のように身体が軽くなるように感じた。
「やっぱ凄えな。
あれだけの傷が一瞬で治ったぜ!」
「これなら走れるな。
大丈夫だと思うが心配だ」
「そうですね、急ぎましょう!!」
復活したタルトと共に来た道を引き返す一行であった。
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