第190話 浄化

アルマールを恐怖に陥れた張本人である影は笑みを浮かべたまま状況を楽しんでいるようであった。


「今日はとても楽しめましたよ。

さて、私はそろそろ帰りますのであとはこの娘に任せましょう。

枷が外れた原初の子供達オリジン・チルドレンの力をとくと味わってください」


影が指示すると同時に姉であった死体が桜華に向かい爪を振り下ろす。

咄嗟に刀で受け止めるがあまりの怪力に弾き飛ばされた。


「なんて馬鹿力だ!

うちが受け止められねえなんて!?」


体勢を崩した桜華に追い討ちをかけるべく迫ってくるのを妨害すべく立ちはだかるセリーン。


「お姉ちゃんは私が止める!!」


二つの腕が交差する。

激しい力の衝突に甲高い金属音が響き渡った。

そのまま空中へと舞台を移し激しい攻防が続いていく。


「なんて激しいぶつかり合いだ!

セリーンの奴、あんなに強えのか。

今度手合わせ願いてえなあ」

「やめナサイ。

夜限定とはいえ格闘も魔法も超常的な力を持ってイルワ。

でも、闘うのは好きではないのを強要しては駄目デスワ」

「ちっ、しょうがねえ。

だが、セリーンの方が分が悪そうだな…」


最初は拮抗してるようにみえたが段々、セリーンが防戦一方になってきている。


「姉妹喧嘩はやっぱり姉の方が優勢のようですね。

それはそうでしょう、死体ですから限界を越えた力を引き出せてるんですから」

「そのままだと負荷が大きすぎて闘えなくなりマスワ。

マア、貴方にとっては使い捨ての駒にしか過ぎないンデショウ?」

「ええ、そうですとも。

さて、去る前にあなた方も暇そうですからお相手を用意してあげましょう」


影の足元の暗闇から巨大な金属で出来た人形のようなものが2つ出現した。


「これはアイアンゴーレムです。

魔法で強化された身体には剣も魔法も効果はありません。

もう会うことはないでしょうけど、それでは皆様ごきげんよう」


そのまま闇に沈んで消えていった影。

残されたアイアンゴーレムが大きな金属音を立てながら動き出す。


「あのやろうは逃がしたがまずはこの場を切り抜けねえとな」

「エエ、リリスはタルト様ヲ。

ティアナとオスワルド、ティートは動く死体をどうにかしナサイ。

ワタクシと桜華であのデカブツを倒しマスワ」

「早く終わらせてセリーンを助けねえとな。

何より可哀想なのはあいつだ…。

それに剣が通じねえなんて言われて黙ってられねえよ」

「魔法が通じないのも納得出来マセンワ。

すぐに圧倒的な火力で燃やし尽くしてあげマスワ」


シトリーと桜華を残し周囲の死体の群れを止めるべく向かっていった。

それを確認した後に二人同時に並びながらアイアンゴーレムに突っ込んでいく。


「一気に終わらせてやる。

四の太刀、影桜一閃かげざくらいっせん

「同じくこれで終わりデスワ。

燃え尽きナサイ、炎獄の牢獄ダークフレームプリズン


目にも止まらぬ速度の抜刀術で一刀両断する桜華とアイアンゴーレムを巨大な火球で包み込むシトリー。


「くっ!?」


斬った手応えではなく硬い外殻に弾かれていたのだ。


「馬鹿ナ…」


燃え盛る炎を突き破るアイアンゴーレム。

どちらの攻撃もダメージを与えることが出来なかったのだ。


「思ったり硬えな…。

傷一つ付かねえなんて」

「不味いワネ…。

こいつらに手こずってると他も押され気味デスノニ」


シトリーの懸念した通りこのままではどこもじり貧で一ヶ所が突破されれば一気に崩れてしまうだろう。

その後も何回か攻撃を仕掛けるが全く効いた様子もない。

せめてもの救いは動きが遅く攻撃を受けないが体力がなくなってくればどうなるか分からなくなる。

頼りのタルトも呪いで動けず光明が見えない状況が続いていた。



また街の中でも戦いは続いている。

リーシャ達は両親を傷つけないよう攻撃せず回避だけに徹していた。

主にリリーが前衛で注意を引き攻撃をいなしている。


「倒すのは簡単…。

攻撃しない…リリー、どうしていいか分からない…」

「ごめんねふたりとも…。

リーシャのわがままで…」

「それはもういわないやくそくなのです。

でも、このままじゃ…」


リリーは依然、元気であるがリーシャとミミには疲れのいろが見えてきている。

相手の動きがそれほど速くないにしても無限とも思われる体力があり衰えていないのだ。

このままではいつか捉えられてしまうだろう。


「あうっ!」


疲れのため少し油断が生じただけであった。

リーシャが小さな石につまづき体勢を崩し倒れてしまう。


「あぶないのです!」


リリーに気をとられていたゾンビが倒れた音に反応しリーシャへと襲い掛かる。

リリーもミミも両親のゾンビに対して攻撃への躊躇いがあり初動が遅れた。

ところが倒れたリーシャを拾い上げ空からゆっくりと降りてくる人影が。

白く大きな翼を背に持つ人物はノルンであった。


「少し街を離れてただけなんだが凄い騒ぎだな。

リーシャ、自分で立てるか?」

「あ、はい、だいじょうぶです!

ありがとうございます!」

「動く死体とは死者への冒涜だな…。

詳細は後で聞くとしてまずは片付けるか」

「ノルンさま!

あのふたりはリーシャのりょうしんです。

できれば…」

「なるほど、それで手をこまねいていたのか。

ふむ…死体から僅かだが闇の波動が。

それで操っているのか」


ノルンは素手のまま構える。


「傷つけるのは…」


泣きそうなリーシャに対して笑みで答える。


「心配するな。

こういうのは天使の役目のようだ」


そこへゾンビが左右から襲い掛かるのを上空へと躱しその頭上へ手を翳す。


「闇を祓え!、浄化の光プリフィケーション!」


その瞬間、ゾンビの目や口などから光が溢れる。

そのまま動きを止め地面へと崩れ落ちた。


「やはりな。

光属性であれば操ってる闇を消すことが出来る」


その横では両親の遺体にしがみつき泣き崩れているリーシャがいる。

その姿を見るだけで何とも言えない怒りが沸いてきた。


「タルトは何処にいる?

そこにいる元を断つ方が早いだろうから私も向かおう」

「タルトさまはまちのそとにでていかれたのです」


他のゾンビの相手をリリーに任せミミが簡単に現状を説明した。


「概ね理解した。

お前達も気を付けるんだぞ」


そう言い残してノルンは飛び立っていく。

街全体は依然として予断を許さない状況が続くのであった。

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