第189話 再会

街の中もゾンビとの戦闘で混乱しているところ激しい怒りと哀しみの中にタルトはいた。

それを向ける相手は親しかった元村長ジョンの死体まで操り今回の黒幕である影に対してである。


「貴方は絶対に許さない!!

よくもこんな酷いことを…」


タルトから発せられる膨大な魔力が渦を巻き竜巻のように突風を巻き起こす。


「やはり貴女は危険分子のようだ。

そもそもあんなに大きな湖の底にある神殿に人間が到達するとは思いもよりませんでしたよ。

ですから放置しておいたのに貴女ときたら。

だから、怒られちゃったじゃありませんか」

「それが理由ですか!?」

「充分な理由ですよ。

調和を乱すものには死あるのみです」

「調和って何なんですか?

むしろ人々の平和を壊してるのはあなた達じゃないですか!!

さっきまでみんな祭りを楽しんで笑顔が溢れてたのに…」

「そんなちっぽけな平和なんてどうでも良いんですよ。

この世の全体からみたらほんの小さな犠牲にしか過ぎません。

それも自らが招いた結果ですから怨むなら自分自身の行いでしょう?」

「何を言ってるのかさっぱり分かりません!

もういいです、ちょっと縛り上げて洗いざらい説明して貰いますから!」

「おお、怖い怖い。

人間とは思えぬ魔力をお持ちのようで。

でも、私には指一本触れることはないでしょう」


本気のタルトを前に涼しい顔で立ったままの影。

これにはシトリー達も違和感を覚えた。


「タルト様を本気にさせて余裕でいられるとは不気味デスワ…。

何か隠した実力でもあるのカシラ?」

「指一本も触れさせねえなんて相当な実力差がないと出来ねえ芸当だぜ。

タルト相手にそれが出来る奴なんてほとんどいねえと思うがなあ。

少なくともうちには無理だ」

「実力も分からねえ馬鹿なんじゃネエカ?」

「リリスも闘ったから分かってるデショウ。

奴等の実力は本物デスワ」

「それは分かってるが怒ったタルトの魔力を見てもあの落ち着きヨウ。

中には馬鹿もいるんじゃネエカ」

「どちからといえば何か企んでいるといったところデショウ。

奴が不振な動きをしたら全員で掛かりマスワヨ」


三人は目配せで意思を確認しつつ何時でも動き出せるように意識を敵に向ける。

そうしてるうちにも今にも飛び掛かろうとタルトが力を溜めていたが、ここで誰も予想だにしない事態が発生した。


ドスッ


「えっ…?」


全員が影に意識を集中している中、いつの間にかタルトの背後に人影があった。

そして、タルトの背中にはナイフが突き立てられ純白の服に血が滲んで広がっていく。


「貴様ァアアアアアアアア!!」


誰よりも早くシトリーと桜華が動いた。

タルトの背後に立つ人物に向かい炎と鋼で出来た剣が迫る。

だが、それを身体全体でタルトが庇うように止める。


「駄目えええええええ!」

「ナッ!?」

「ちっ!」


二人は当たる寸前で軌道を逸らし空を斬る。


「何故、庇うのデスカ?」

「ああ、そいつは裏切った敵だぜ」


二人は尚も攻撃を仕掛けるべく武器を向ける。


「私は大丈夫…ですから。

こんな傷すぐに…ん…」


辛そうな顔をしながらナイフを抜くタルト。

刺したであろう犯人を抱き締めたまま。


「ほら、もう大丈夫…だから。

何か事情があるんだよね、セリーンちゃん?」

「タルト姉様…私…私…」


そう背後からナイフを突き刺したのはセリーンであった。

遅れてオスワルドが駆け寄り、その手には武器を持ったままで切っ先をセリーンに向けている。


「私は聖女様を守る者。

例え何者であろうと傷つけた者を許せません!」

「オスワルドさん…。

私を信じて…セリーンちゃんは良い子なの…。

何か理由が…うぐっ…ぅああああああああああああああああああああああああああ!!」


遂に変身が解けてうずくまり苦しむタルト。

すぐにリリスが刺された部分の服を切り裂き状況を確認する。


「リリス!

どうなってマスノ!!

すぐに治療をしナサイ!!」

「うるセイ!今、見てるが傷はもう再生して残ってネエ!

苦しんでるのは別の何かダ!

ン…何だコレハ…?」


刺されたであろう白い肌の上に小さな魔方陣のようなものが浮き上がってきた。


「セリーン、何ですのコレハ!

今すぐ知ってることを白状ナサイ!!」

「知らない…何も…知らないの…ただ…命じられた通りに…」


セリーンの胸ぐらを掴み空いた手で爪を突き立てようとするシトリーの腕を掴む者がいた。


「駄目…お願ぃ…信…じて…」


苦しそうなタルトの必死な願いにシトリーの力が抜けていく。

その隙にセリーンは抜け出て影の元へ走っていった。


「はぁ…はぁ…命令された通りにしました…。

これで返してくれるんですか…?」

「ええ、よくやりましたねセリーン。

情報通り仲間には甘い奴でしたね。

特に妹のように可愛がってる子に弱いという話も本当のようです」

「お前が後ろで糸を引いてるのか!!

今すぐタルトを治さねえと叩っ斬るぞ!!」


タルトの願いもありセリーンの事は一旦保留と切り替え、明らかな黒幕である影に殺意を向ける桜華。


「治す?

せっかく予定通りになったのに何で治す必要があるんですか?」

「どうやら死にてえようだなあ。

一瞬であの世に送ってやる。

そうなりたくないなら治し方を教えな」

「そうですねえ。

では、正直教えてあげましょう。

あれば病気ではなく呪いです。

とても古い呪いで憎悪の紋ヘイトリッドサークルというんですよ」

「ほう、ずいぶん素直じゃねえか。

そのまま解き方も言いな。

そしたら腕の一本で許してやっても良いぜ」


抜刀の構えで返答次第で首をはねるつもりで間合いをジリジリと詰めていく。

だが、影は狂ったように笑い出した。


「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!

解き方だって!?

そんなものは存在しない!

呪いに掛かればきっかり30日後に死を迎えるのだ!」

「てめえ…死にたいようだな」


言い終わるより早く抜刀し影の首を狙うがそれよりも早く影がセリーンを盾にする。

それを一瞬で見極め何とか踏みとどまった。


「おや、どうしました?

セリーンは聖女を刺した犯人ですよ。

一緒に斬れば良いでしょう?」

「うるせえ!

汚ねえ真似しないで自分で掛かってこい!!」

「やれやれ危険な聖女はもう片付けた事ですしそろそろ撤収しましょうかね」

「待って!!

約束通りお姉ちゃんを返して!!」


逃げようとする影に泣きそうになりながら必死に懇願するセリーン。


「そうでしたね。

今回、貴女の活躍は立派でしたから約束通りお返ししましょう」


影の足元の暗闇から一人の女性が現れる。

それは髪で表情がよく見えないがセリーンを少し成長させたようでよく似ている雰囲気があった。


「お姉ちゃん…」


ゆっくりとセリーンが近づいていくが一瞬の違和感に気付いた桜華が襟を思いきり引っ張った。

次の瞬間、セリーンがいた場所に爪でえぐられた地面の跡が出来る。


「ぅそ…お姉ちゃんに何をしたの!?

約束通りしたら会わせてくれるっていったじゃない!」

「セリーン、待て!

姉かは知らねえがアレは周りにいる奴と同じだ。

既に死んでいる…」

「嘘よ!嘘嘘!

約束してくれたもん、返してくれるって!」


なおも姉のところに向かおうとするセリーンを制止する桜華。

それを楽しそうに眺めている影であった。


「ああ、姉妹の感動の再会ですね。

すぐに同じ場所に送って本当の再会をさせてあげましょう」

「てめえは本当の外道だな」


恐ろしいほどの殺気を影に向ける桜華。


「だって原初の子供達オリジン・チルドレンを生きたまま拘束し続けるなんて無理ですから。

それも知らずに健気に姉に会う想いだけで命令に従ってきたセリーンを見てるのはとても可愛かったですね」


憎悪と哀しみに包まれていくアルマール。

人々の希望であるタルトも呪いに苦しんだままである。

未だおびただしい数のゾンビに包囲されたままで状況は刻一刻と悪化していくのであった。

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